銀行の窓口で | ミックスココアのひとりごと

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気ままに思いついたことを折々に

ずいぶん前のことです。

左手に小さな子供の手を引いて、右手に大きな買い物袋を持った、見るからに買い物帰りの子供連れのお母さんが、ある日の昼下がりに、銀行の窓口で、大きな声で、銀行の対応についての苦情をまくし立てています。

預金係りの窓口の女子行員さんは、申し訳なさげに、一方的なこのお母さんの言い分に耳を傾けて、丁重にお詫びする以外になすすべはありませんでした。


「預けるときは家までお金を取りに来てくれたのに、満期を迎えた時は、家までなぜ届けてくれないの??ちょっと不親切じゃないの?」


要点をまとめると、どうやら銀行の対応にご不満のようでが、ずいぶん理不尽なクレームです。

ひとしきり言いたい放題苦情を言って、応対した女子行員さんを散々困らせたこのお母さん、ようやく、やっと預金を引き出すことができたようです。


銀行での用事を済ませて、支店の出入り口に向かったこのお母さんが、さあ帰ろうとしたその矢先に、急に大粒の雨が降り出しました。このお母さん、傘の持ち合わせがなく子供の手を引いてこの雨の中走って帰ることもできず、止みそうにもない雨を忌々しげに見ながら、困ってしまいました。


この様子を見ていた先ほどの窓口の女子行員さん、「ちょっとお願いします」と隣の窓口係りに一声かけると、更衣室の自分のロッカーへ走っていきました。ロッカーから自分の置き傘を取り出すと、先ほどのお母さんに駆け寄って、「あの、よろしければどうぞこの傘をお使いください」


お母さんは、驚きました!

この行員さんのミスでも落ち度でもなんでもない自分の不満を散々聞いてくれて、さぞかし嫌な思いもしただろうに、悪態をついて苦情を言ったこの自分のために、この行員さんは自分の置き傘を使ってくださいと差し出してくれる・・・・・


バツの悪い思いでその傘を借りて、子供の手を引いてお母さんは帰って行きました。


その日、しばらくしてこの銀行の支店長のところに、このお母さんから電話がかかってきました。

「もう二度とお宅の銀行には預金はしないって思ったけれど、また預けさせていただくわ、誰か取りに来ていただけないかしら」


苦情解決ってなんだろう、顧客満足ってなんだろう、そんなことを考えさせられました。

自分の置き傘を差し出したこの女子行員さんの行動が、改めて新たなお客様を生み出したことは間違いありません。