「やぁ、咲。」

「慶喜さん!」

久しぶりに置屋に来た慶喜は少し痩せてみえた。

「少し痩せましたか?」
と咲が尋ねると、慶喜は肩を竦めてみせた。

「忙しかったからかな。咲に心配かける程じゃないよ?」

と慶喜は言った。

「そんなことより、今日はこれを渡そうと思って来たんだ。」

慶喜は咲の横に座ると、懐から小さな小箱を出した。

「さぁ、開けてごらん?」

慶喜に言われて咲は小箱の蓋を開けた。

「わぁ!」

小箱の中には美しい模様が施された小瓶が入っていた。

「香水ですか?」

と咲が言うと慶喜は少し驚いてみせた。

「咲には敵わないな…」

咲は小瓶を捧げもち、じっと眺めた。

「綺麗…」

琥珀色の液体の入った小瓶の蓋を開けると、涼しげな薫りが部屋に広がった。

「良い薫りだ。」

慶喜は咲の手から小瓶を取ると、蓋に香水をつけて、咲の手首に香水を着けた。

「こうやって手首につけるそうだよ?」

と慶喜は言った。

「すうすうします。」

咲は手首を鼻に近づけて薫りを確かめた。

「花の薫りがします。」

と咲が言うと、慶喜は

「ローズという花の薫りだそうだよ?」

と答えた。

「ローズ…薔薇の花、懐かしい…」

咲は呟いた。

「故郷を思い出したかい?」

と慶喜が尋ねると咲はうなずいた。

「そうかい。」

と慶喜は咲の頭をポンポンとたたいた。

「咲の故郷は珍しいものがたくさんあるんだね?」

咲から小瓶を受け取りながら慶喜は呟いた。

「私の故郷では香水は大人の女性がつけるんですよ。こうやって手首や胸元にほんの少しつけるんですよ。」

咲の言葉を聴きながら慶喜の目が悪戯っぽく光る。

「じゃあ咲は大人の女なんだね?」

そう呟いて慶喜は咲の肩を抱いた。

咲は少し震えながらも慶喜のするがままに肩を抱かれた。

「次に来る時は、どれすを持って来よう。」

と慶喜は言った。

「ドレスなんて私に似合いますか?」

と咲が尋ねると慶喜は

「きっと似合うさ…」

と答えた。

その時が早くきますように。

と咲は香水の付いた手首を撫でた。