男の人に下着を着せてもらう!下着売り場の女性販売員にさえ下着姿を見せるのをためらう照れ屋な日本人女性にとって、異性に下着を着せてもらうなんて想像出来ないでしょうか。ところが、昔のヨーロッパの女性達はそれが当たり前でした。


18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパの女性達の間で特に流行ったファッションスタイルは、ウエストを究極に細くするというものでした。デコルテを膨らませ、ウエストはしぼり、ドレスのスカートは大胆に膨らむシルエットです。
今でいうボッ、キュッ、ボンッ!など比ではなく、当時のウエストサイズは40~50cm台が一般的でしたから相当なくびれが主流だったようです。そのためにはウエスト周囲から上部へお肉を持ち上げ、更に絞って絞って絞り込む「コルセット」という下着が大活躍しました。現代のコルセットは補整を目的としたファンデーションガーメント(脂肪を本来あるべき位置へ導きながらプロポーションを整える下着)ですが、当時のものは健康をまったく無視していて、矯正下着というよりも「強制下着?」と言っても過言ではないほど強引に体型を作り上げていました。

 

 

17世紀頃のコルセットは全体が鉄やブリキ製で、硬い型の中へ身体をおさめるように着用していました。その後、素材は生地へと進化し、骨組みとなるバスクやボーンには金属や鯨のひげが用いられました。着心地が良さそうなどさて置き、着用時に苦痛を感じるのが常識だったそうです。理由はウエストを絞ることが美徳とされたからです。18世紀にはウエストを絞り込むための紐がついたコルセットが登場し、その紐を引っ張れるだけ引っ張って着用!!ウエスト部分を締め上げるわけですから、ウエスト部位のお肉は胸の上まで盛り上がり「究極のくびれ」が完成するというわけです。細いウエストへの執着はエスカレートし、より細くするために引けるだけ紐を引っ張ります。人の手を借りなくては着られないほどで、細さを完璧にするためにも力のある男性が下着を着せる係として働きました。男性の力でぐいぐいと紐を締めていくのですから血行不良や酸素不足になり、てんかんを起こしたり、内蔵障害になる女性も多かったそうです。それでも、細いウエストのために紐を引かせた上流階級の女性達。

美のためとはいえ男性に下着をとは驚きです!邸の中にはたくさんの女性奉公人もいたでしょうに.....。
実は、男性がコルセットを扱ったのには訳があります。そもそも、コルセットを作ることを許させていたのが男性だけだったのです。

フランスでは17世紀後半から専門の仕立業者が徹底した分業化を計っていました。女性のくつろぎ着を仕立てたは女性の仕立師でしたが、男性服や女性の宮廷服やコルセットを仕立てられるのはタイユールと呼ばれる男性仕立師だけでした。身分階級が明確だった時代のため、高貴な立場の人の服を作るのは男性のみに与えられた特権だったのです。コルセットはドレスと一心同体のアイテムです。ドレスを着用するのは上流階級の女性がメインですし、コルセットは硬い素材を縫い込むので高度な技術とともに力も必要です。男性仕立師が責務として、細いウエストを求めるお金持ちな女性のために作り上げていたのでしょう。
その後、コルセットの流行は20世紀初頭まで続きました。男性が着させるアイテムではなくなったとはいえ、細いウエストというスタイルは健在でした。そんなウエストをしぼる拘束から女性を解放したのが、ファッションの王とも呼ばれるデザイナーのポール・ポワレです。1906年に革命的デザインともいえるハイウエストのドレス「ローラ・モンデス」を発表し、コルセットを追放したのです。男性によって生み出されていたコルセットが男性によって消されていった.....。女性のウエスト美のキーは男性だったのですね。

 

日本ボディファッション協会認定インティメイトアドバイザー

下着美容研究家 湯浅 美和子