年始の黒帯湯河原合宿でのこと。
各自一言挨拶の段になった。
中堅クラスの黒帯がこう言った、師範が以前、空手で世の中を洗濯すると話したことがずっと心にありますと。
へぇーと感心した。
黒帯が覚えていたことではない。
自分が世の中を洗濯するという言葉を用い、生徒に道場が目指す目的地を伝えようとしていたことにである。
多分、何年も前、年頭の挨拶で皆に伝えた言葉だと思う。
≪世の中を洗濯する≫
私も当時はこの言葉に感化されていたに違いない、これを使ったのは坂本龍馬、150年も前のことだ。
龍馬らが土佐藩に働きかけ、徳川家の政権を朝廷へ返上させたのである。
大政奉還、この日本史における大どんでん返しを思索する際、龍馬が実姉である乙女姉に送った手紙に、日本をいま一度洗濯いたしたく候と残しているのだ。
地方の一介の下級武士にすぎなかった龍馬が日本を変えるという大志を抱き、全国を駆け巡り、大政奉還という離れ技を現実のものとしたのだ。
一介の空手家である私も大志を持たねばという思いを龍馬の言葉を借りて道場生に伝えたかったのだ。
その時は信という真を持って言ったはずだ。
だが情けないことに数年で忘れてしまう。
常に学ぼうとしていないからだと思う。
救いは黒帯の一人が覚えていてくれたことである。
やはり龍馬が誠を持って発した言葉は人々の心に届き、時代を超えて語り継がれてゆくのだ。
今月から大河ドラマで西郷隆盛が取り上げられている。
原作も脚本も女性である。
女性の視点の西郷南洲に注視し期待している。
いずれ龍馬も登場し、薩長同盟で両雄相まみえるだろう。
私としては駿府での山岡鉄舟との身命を賭した直談判、そして勝海舟との江戸無血開城その後のふたりの友情を描いてほしいと願っている。