先日、歌舞伎座の秀山祭九月大歌舞伎をみにいった。
この日、台風で新幹線が止まったらどうしようかと思っていたが、大丈夫だった。
今回は、何か特別観たい演目があったわけではないが、不思議とわくわくとした。
丸一日、歌舞伎を観るのが久しぶりだからかもしれない。
今回は、教えていただいた経路、品川で下車して京急本線に乗り換えて東銀座までいった。
この日もとても蒸し暑かったので、歌舞伎座すぐ近くまで電車で行くことができ、とても便利な経路だった。
新しい緞帳が公開されていた。
田渕俊夫「春秋」
満月と桜のとても綺麗な緞帳だ。
何かこの桜は今回の演目にぴったりな気がする。
昼の部
祇園祭礼信仰記 金閣寺
幕開けとともに金閣寺の舞台。
歌六さん演じる松永大膳と、その弟の種之助さん演じる鬼藤太が碁を打っている。
将軍を殺害し天下を手に入れようと企んでるようだ。
金閣寺の最上階には将軍の生母が幽閉されている。
そして絵師の狩野之助直信と、その妻で児太郎さん演じる雪姫も幽閉されている。
大膳から雪姫は、金閣天井に龍を描くか、自分に従うかを迫られるが断る。
そこに勘九郎さん演じる此下東吉が現れる。
東吉は小田信長の家来であるが、大膳へ臣従を願い出た。
東吉と大膳は碁を打ち、東吉が勝ち大膳の機嫌が悪くなる。
大膳は東吉を試すために、碁笥(碁石を入れる容器)を井戸の中に投げ入れ、手に濡らさずに拾うように命じる。
東吉は筒樋を外して、滝の水を井戸に入れ碁笥を浮かび上がらせる。
碁盤を逆さにし、その上に碁笥を乗せ見得を切る。何か様になる。
その才をかわれ東吉は家来に取りたてる。
この場面では筒樋の穴から水を模したひらひらした物がなびいているのを見たことあるが、今回は何も穴からは出ていなかった。
一方、雪姫は将軍生母と夫が殺されないように、やむなく大膳に従おうとする。
大膳は雪姫に天井に龍を描けと命じるが、雪姫は家伝の書がないため描けないと断る。
大膳は刀を抜きかざすと、滝に龍が現れる。
しかし雪姫は、その刀は狩野家伝来の宝刀であることに気づき、大膳が父の仇であることを知る。
雪姫は大膳に立ち向かうが、やられてしまい縛られる。
大膳は夫の直信を家来に命じ殺そうとする。
縛られている雪姫に、桜の花びらが吹雪く。
この桜が物凄い数の花びらで、雪姫の足元には桜が積もった。
本当に物凄い量でとても美しかった。
雪姫は足先で花びらを集め鼠を描くと、それらが本当の鼠として表れ、縛っていた縄を噛み切る。
家来となったと見せかけていた東吉は、実は小田信長の命でやってきており、将軍の生母 慶寿院尼を救い出す。
慶寿院尼を演じた福助さんは、今回は台詞があり、とても伸びやかで節の聞いた良い声だった。
どんどん回復してきてるのかもしれない。
そして大立ち回りとなり、最後は見得を切って幕切れとなった。
勘九郎さんの此下東吉は知的でさわやかな演技がとてもよかった。
歌六さんが演じる松永大膳が、何かもう一つ凄みや迫力にかけるものだった。
今回は雪姫は児太郎さんであったが、米吉さんとの交互出演で米吉さんの雪姫も観てみたかった。
土蜘
今年は土蜘の精に縁があるのか、今回で四回も土蜘の精に出会っている。
土蜘物はとても好きなので、何回みても面白い。
土蜘の精を演じたのは幸四郎さんで、何か奇妙さの中にも少し美しさを感じる土蜘だった。
これはこれで良い。
土蜘の精である智籌(ちちゅう)が、いつの間にか花道に現れる場面、にょろっと現れるところを見逃してしまい、声が発せられた時に花道にいることに気づき、どきっとした。
太刀持ちを演じた種太郎くん、石神を演じた秀乃介くんが何とも可愛らしかった。
豪快な立廻りで糸を投げ、見ているだけで楽しい。
そういえば二月にみた土蜘物の「蜘蛛の糸」も、土蜘の精を演じていたのは幸四郎さんだった。
二條城の清正 淀川御座船の場
二條城での家康との対面からの帰り、船上での白鸚さん演じる清正と、染五郎さん演じる秀頼。
両者の台詞のやり取りが、薄暗い中でつづき、心地よくなって、うとっと少し居眠りしてしまった。
何か退屈したわけではなく、本当に心地よくなってしまった。
夜の部
菅原伝授手習鑑 車引
様式美たっぷりな車引を存分に楽しんだ。
松王丸を又五郎さんが、梅王丸を歌昇さんが、桜丸を種之助さんと親子共演。
そして、時平は歌六さんであったが、ここでも何か時平らしい凄みが何か物足りなかった。
杉王丸には鷹之資さんが演じておられ、鷹之資さんを見ることが出来てよかった。
連獅子
また連獅子か…と思ったけど、菊之助さんと丑之助くん親子の獅子がとてもよく、退屈せず終始見入ってしまった。
連獅子はあまり好きじゃないが、この日は連獅子って面白いなと思った。
また、彦三郎さんと種之助による間狂言もよかった。
なんかこの間狂言をみて、こんなに面白いと思ったのは初めてかもしれない。
とても満足した。
一本刀土俵入
はじめてみる演目。
雀右衛門さん演じる我孫子屋の酌婦お蔦は、やくざ者の弥八に絡まれていた幸四郎さん演じる取的の駒形茂兵衛に、宿の二階から声をかける。
茂兵衛は一文無しで何も食べておらず腹をすかせ、へろへろで声もかすれかすれである。
茂兵衛は相撲部屋をお払い箱になり、江戸に戻り再出発するという。
そして亡き母の墓前で、横綱として土俵入りすることを夢見ている。
そんな身の上話を聞いたお蔦は心を動かされ、茂兵衛に櫛や金子を与える。
茂兵衛は涙して感謝し去っていく。
それから十年が経ち、茂兵衛は博徒になっていた。
さっきまでの幸四郎さんとは一転、体もすらりとし、言動も凛々しくなり格好良くなっている。
一方、お蔦は娘と貧乏暮らしをしており、飴屋を営んでいる。
そんなお蔦のもとへやくざ者たちが、いかさまをした夫の松緑さん演じる辰三郎を捜しに来る。
夫の行方は知らないと言い、一旦はやくざ者たちは引き上げるが、そんなところに辰三郎が帰ってくる。
そこに茂兵衛があらわれ、お蔦へのお礼として金子を渡すが、お蔦は誰だか思い出せない。
そんな中、またやくざ者がやってくるが、茂兵衛がやっつける。
そんな姿をみて、お蔦は思い出す。あの頃の取的を。
茂兵衛はお蔦たち親子を逃し、その姿を見送る。
何か良い話だった。
最後がこの演目でよかった。
そしてこの演目の幸四郎さんはとても格好よかったし、雀右衛門さんと調和のとれた演技がとてもよかった。
筋書
一本刀土俵入を思い出しながら、歌舞伎座をでた。
あのパスタ屋へ行こう。