第三十三回 上方歌舞伎会 | 五反島愚記

五反島愚記

日々の取るに足らない話や、歌舞伎や歴史ついても、備忘のために書いていきたいとおもいます。
私的な愚記ではありますが、読んでいただければ幸いです。

先月、国立文楽劇場で行われた第三十三回 上方歌舞伎会にいってきた。

 

 

 

 

八月上旬に文楽観劇で文楽劇場に訪れたばかりである。

何かと今年は縁がある。

 

 

 

文楽劇場で歌舞伎が行われるのはあまり多くないが、この劇場で歌舞伎を見るのはとても好きだ。

花道のすぐ近くの席で、花道からの迫力も感じ、花道下手側の席だったが舞台の方もみやすかった。

 

 

 

最初は、仮名手本忠臣蔵の五段目と六段目が行われた。

 

この演目は、今年三月の南座で江戸式と上方式の両方で上演され、違いの面白さに気付かされた。

今年、再び五段目六段目を観ることができるということで楽しみにしていた。

今回上演されたのは、松嶋屋の型であった。

 

そして今回、早野勘平を演じるのは片岡松十郎さんで、この間の晴の会でこの役者の良さに気づき注目していたので、こちらも楽しみにしていた。


どの役者も良くて、楽しく観ることができ、上方歌舞伎の底力を感じた。

普段あまり注目される役についてない役者が多いので、大阪でもっと歌舞伎上演が増えれば、もっと活躍の場があるのになと、良い役者たちだけに少し残念に思った。
 

上方歌舞伎の復活を願っている。

 

 

松嶋屋の型としては、南座で行われた上方式よりも江戸式に似ている部分が多くて驚かされた。

筋書に、今回の会の指導者である片岡仁左衛門さんの挨拶文に、松嶋屋は江戸型の台本に手を入れ、江戸役者が演じるものとは一味異なる、上方の味わいを大切にした型だと書かれており、江戸式との共通点が多いのも納得した。

 

ちなみに、南座で行われた上方式は鴈治郎家の成駒家型で、江戸式は菊五郎家の音羽屋型のようである。

 

今年、三つの型を堪能することができた。

南座で行われた上方式の五段目六段目が、自分には一番良かった。

壱太郎さんの早野勘平が、自分の心には一番響いたような気がする。

 

 

 

 

最後に、釣女が上演された。

喜劇のような面白みのある松羽目物で、濃厚な五段目六段目のあと、すっきりと心晴れやかな気持ちになることができた。

 

 

 

 

上方歌舞伎会、勉強目的で行われているのかもしれないが、観劇する側としても、とても楽しむことができた。

 

 

筋書

 

 

外に出ると、死ぬほど暑かった。

 

 

 

 

今回行われた松嶋型と、南座で行われた江戸式・上方式とを比べ、自分が気づけた違いを、忘れそうなので書き留めておく。


五段目の幕開け
上方式では浅葱幕はなかったが、
江戸式では浅葱幕が落ちて幕開けした。
松嶋型は江戸式と同じ。
 
勘平の笠
上方式では千崎に火を頼むところで笠を下におろすが、
江戸式では幕開けすぐに笠を上げた。
松嶋型は江戸式と同じ。
 
千崎は鉄砲渡しの段では
上方式では簑を着ておらず、
江戸式では簑を着ていた。
松嶋型は上方式と同じ。
 
勘平の住処を千崎が聞き取るところは
上方式では頭で覚えるが、
江戸式では矢立てより筆を出し書き留める。
松嶋型は上方式と同じ。
 
火縄を振り回しているときも、江戸式では縄の先が赤かった。
あれは本当に燃えてるんだろうか、それとも赤いだけなのだろうか。
上方式では縄の先は赤くなかったような気がする。
松嶋型も本当に燃えていたと思う。
花道横で見ていたが、火縄銃を持った勘平が通った時、焦げ臭い匂いがした。
 
火縄銃の発泡回数
上方式では一発だが
江戸式では花道七三でもう一発撃つ。
松嶋型は上方式と同じ。
 
舞台が回転し六段目
上方式では、かおるだけがおり、母おかやが戻ってくる。その後に、駕籠に乗ったお才と源六がやってくる。
江戸式では、お才と源六は既に家に上がっている所から始まる(板付き)。
松嶋型も江戸式と同じで板付き。
 
勘平の着替え
上方式では、縞模様の普段着に着替え刀は持たない
江戸式では、浅黄の紋付きに着替え、大小の刀を持つ。
松嶋型は、浅黄の紋付きに着替え、刀は持たない。
 
勘平が財布を見比べる
上方式では、お才の着物と見比べ
江戸式では、同じ柄の財布をお才から受け取り前に置いて見比べる。
松嶋型は、お才の財布を前に置き、左手に財布、右手に煙管をかかげて、見比べる。江戸式と同じ。
 
与市兵衛の死骸
上方式は上手座敷に入れ
江戸式では仏壇の下あたりに置く。
松嶋型も、江戸式と同じ。
 
千崎の来訪
上方式では、原郷右衛門と現れ、子守娘に与市兵衛宅の場所を尋ねる
江戸式では、不破数右衛門と現れるが、子守娘は出てこない。
松嶋型も、江戸式と同じ。
 
千崎来訪時の勘平
上方式では、黒紋付を取り出すが、母おかやに奪われ着れず、屏風で母を覆い刀を持ち玄関の戸口を開ける
江戸式では、刀を持ち、母おかやが勘平にしがみついた状態で、玄関の戸口を開ける。
松嶋型も、江戸式と同じ。
 


千崎たち二人が帰ろうとし
上方式では、
千崎の鞘を軽くつかみ引き止め、事情を説明。
原「討ちとめたるは」
勘平「討ちとめたるは」
千崎「舅殿であろう」
と続き、千崎が傷口を確認している間に、勘平は下手奥で後向きで切腹する。


江戸式は、
不破と千崎の鞘を、真ん中にいる勘平が両方しっかりつかみ引き止め、事情を説明。
不破と千崎が同時に「討ちとめたるは」
勘平「舅殿」と叫び部屋の真ん中で切腹。

松嶋型は、
不破と千崎の鞘を、真ん中にいる勘平が両方しっかりつかみ引き止め
勘平「討ちとめたるは」
千崎「討ちとめたるは」
その後、勘平が舅殿と言ったかどうかは記憶がない。忘れてしまった。

切腹は真ん中で正面を向いて、江戸式と同じ。
 


勘平の切腹で
上方式では顔に血のりは付いていなかったが、
江戸式では顔に血のりが付いていた。
松嶋型は、顔に手で血のりを付けていた。