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みう風呂 ふたことみこと小説

なんでもやります絵日記のみう風呂
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風呂場の冷たいタイルにペタっと腰を落とすと驚くほど冷たかった。考えてみれば、五年もここに住んでいて、タイルに直接座ったことはないのだ。いつも風呂場用の小さな椅子を使っていたからだ。そんなこと、考えてみたこともなかった。おかしな話だけど。だって私は毎日ここでシャワーを浴びたし、この床には五年分の私の垢や髪の毛が流れて行ったわけだから。
 午前十時の光もとどかない、じめじめした小さな風呂場の床に、私は裸でぺたりと座り込んでいる。急に何もかもがばかばかしくなって来て、声を出さずにけいれんするように笑った。シャワーは、恵みの雨のように豊穣な、生温いしずくを間断なく私にそそいだ。私はついに、ぺたりとタイルに頬をつけて横たわった。畳一畳分もない小さな場所なので、膝を折って、長く、黒い髪を、しずくが流れるままにした。涙が出そうだったけれども出なかった。そもそもなく理由なんて思いつかなかった。私は、自分が死体になってしまったような気がした。灰色の無骨なタイルの上で、私は死に、その死体に恵みの雨が降り続いている。

 私は彼のことを考えた。図書館につとめている私の夫だった。私が目覚めた時には彼はもういなかった。私の仕事は昼過ぎから夜遅くにかけてだし、彼の仕事は朝早くから夕方までで、もう一ヶ月以上、まともに顔をあわせてもいなかった。シャワーを浴び終わったならば、私は彼のために弁当をつくり、粗熱をとるあいだにそそくさと自分の身支度をすませ、出勤する道すがら彼に弁当を届けるはずだった。それが、この五年間規則正しく続けられた唯一の二人のルーチンワークだった。新婚のころは、毎日真新しく美しい弁当をつくってはもって行き、彼は周囲にひやかされながらも、どんなに忙しくても自分が出て来て弁当を受け取った。そして台所のメモに、「とても美味しかった。君のねがおはとてもかわいい」だとかなんだか、そんなことが書いてあったものだけど、最近では、ほとんどが冷凍食品になり、彼も弁当を受け取るためにカウンターに出てくることもなくなった。カウンターにいる愛想のわるい青白い少女は、「かわいそうに、どうせ○○さんはこんなお弁当、食べないで捨てるだけなのに」という顔で面倒くさそうに受け取る。

 濡れた手で顔をこする。瑞々しくて、まるで自分がまだ若く、新鮮であるような気がする。実際には灰色の風呂場で死体のように転がっている、得体の知れない、さみしい、誰からも遠い、ひどくみじめな、若くもなければ年寄りでもない、中途半端な存在なのに。

 安っぽい香りが鼻をつく。私は起き上がり、風呂桶の中をのぞいて顔をしかめる。夫がいれた、なんとも安っぽい入浴剤の黄緑色が、私の白いバスタブを染めている。洗濯につかえないからこういうものはいれないでほしいと、あれだけ言っているのに。私はそんなお湯にふれることも嫌だった。まるで触れたら得体の知れない感染源に感染するような気がした。その時私ははっきりと確信した。
 
 わたしは 夫を 憎んですらいる
 
 緑色のお湯をじっとにらみ続けた。それはもうほとんどぬるくなり、時々ふたについたしずくが、ぽちゃんとおちて波紋を作った。目の落窪んだ私の顔が映っていた。ちょうどグリーンティーのような色をしていた。

 私はふと思いつく。先週、夫の友人が日本へ旅行に行った時に買って来たという、グリーンティーの袋がテーブルの上に転がっていたことを。もしも、今日の弁当と一緒にもって行く水筒の中身を、この風呂の水にしたらどうだろう。鼻のぐあいがおかしい夫なら、気づかないでグリーンティーとして飲んでしまうかもしれない。 
 私は裸のまま台所へ行き、夫の水筒をとって来て、ためらいもなくそれに風呂の毒々しい緑を入れる。

 入浴剤で人は死ぬかしら、と私は思う。
 もしも死んだなら、彼は私の弁当を食べ続けていたのだ。死ななかったならば・・・。

 私はしばらくそのまま、水筒を見つめていたが、おもむろにそれを自分の口に近づけた。
 
 おぞましい水が私を満たして行く。
 




2月にもらったお題ようやく消化。
これを「妻編」にして、
つぎの「図書館」「かずのこ」の「夫編」と前後編にしようと思ってたけど
うっかり外国の話みたくなっちゃったので難しいです。海外にかずのこってあるのかな。
あと思いもよらずおどおどしい話になった。
たぶん今日つかれてるんだな。



おおがきなこさんありがとう・・・


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「手芸クラブ」「充電切れ」

 「だめだ、あたし、もう充電切れだわ」

 と律が言うと、ああ、今日は水曜日なのだな、とわかるようになった。律が毎週木曜日に手芸クラブに通うようになったのは四月のことだから、毎週のように彼女がそう言い始めてから2ヶ月が経つことになる。私はふんふんと鼻で返事をしながら、もつれた糸をほどいた。律と私は大きな布を挟んで、あっちとこっちでつぶやくように会話をしている。律が展覧会に出す巨大なキルトのタペストリーを縫っているのだ。私は律の図案通りの奇抜なハート柄を、ショッキングピンクの布で縫い付けた。律は巨大な目をしたかたつむりの、目の部分を縫いつつ、毎週恒例のため息をついている。

「高校行くみたいに、毎日手芸クラブがあればいいのに」
「大賀先生の、ほかの教室にも通ってみれば」
「無理」
「どして」
「好きだってバレちゃうから」
  
 あんたはどこの少女マンガ出身者ですか、と頭の中でつぶやいてから、私は作業に集中し始めた。けれど律は必死で食い下がってきた。

「そんなこというけど、アミーだってきっと、大賀先生を見ればきっと、あたしの気持ちわかると思うな」
「そうかな。興味ないな。そんな、刺繍教室の講師してるような男。なんだか、趣味にあわない」
「アミーは、ワイルドなのが好きだもんね」
「別にそういうワケじゃないけどさ」

 顔を上げると、律が首を傾げてこちらをじっと見ていた。彼女にはそういう意味不明の癖があった。考え事をするとき、人の顔をじっと覗き込むように見るのだ。タペストリー(それは作者そのものと言ったような、すさまじく派手でなんとなくもたついていて、それでもまっすぐで純で憎めなくて、だからといってこれを部屋に飾れと言われたらにこやかに辞退したくなるようなものなのだけど)を挟んで、私と律の距離はいつも一メートル、手をのばしても届かないし、ぬくもりも届かないけど布越しにはっきりと隣り合っている。

 律が「大賀先生」狂いになったのは前にも述べたように、毎週木曜日に区の施設で開かれているのどかな手芸クラブに参加し始めてからだ。
 律は私と同じ美術短大を卒業してから、時々美術モデル(ヌード)のアルバイトをしながらのびのびと訳の分からないものを作り生活していた。律のセンスはすさまじいので一般受けはまったくしないのだけど(なんていうか、ガウディとだったら一晩飲めそうではある)、なぜだか強烈なファンが何人かついていて、一応それでも細々と収入があるようだ。日曜日の井の頭公園とか、各地で開かれるおかしなイベントに出没して、その小綺麗な小さな顔と奇抜な衣装の生えるすらりとした体もあいまって、一部では結構有名人らしい。緑のアフロのかつらをつけ、スパンコールのぴったりしたピンクレディーを彷彿とさせる衣装をきた律の写真がばっちりと乗ったブログも大盛況の様子だ。
 あっさり芸術性を捨て事務職についた地味志向の私とどうして気が合うのかわからないけれど、同じアパートに住んで(部屋は別)、ほとんど毎日顔を突き合わせている。
 律の作品はアクリル画か、立体作品が中心だったのだけれど、半年ぐらい前からどうしても刺繍がしたいと言い始め、それがうるさくなってきたので私は適当に目についた区民の施設のチラシを渡した。律は地味そうなクラブにぶつぶつと文句を言いながらも、値段の安さに惹かれて応募した。まさかそこに、「玉木宏とハウルの動く城のハウルを混ぜて、あたりにまるでジャスミンのお香を焚いたような、息であたりの空気を浄化できそうな、水も滴る講師」がいるなんて、無骨なパンフレットにはどこにも書いていなかった。そして、そこに通う約15人の純真無垢な奥様方と同じように、ガイダンスの時間に律はすっかり恋に落ちてしまったのだ。私の知る限り、律はただのいい男に惚れるような単純な細胞の持ち主ではないのだが、今回は違ったようだ。
「とにかく、アミーだって、大賀先生に会えば、わかる」と律はいつも言う。「本当にセクシーでなんというか、あれは性だ。性そのものだ!聖なる性だ!」などと芸術的な発言をしたりする。私たちの間にはいつもキルトが揺れていて、巨大なカタツムリがそれをむくな顔して聞いている。
 とにかく、少女マンガモードを前開にした律は、手芸クラブのある日には毛沢東の絵が入ったTシャツを脱ぎ捨て、私の部屋から白いブラウスと水色のカーデガンをこっそり拝借し、ぼさぼさの髪をなでつけて毎週かわいらしく最前列に座り、本当はわかることでもわからないと質問をし、運がよければ大賀先生の「白くしなやかで、そのくせ力づよく、やたらセクシーな指」が律の指に触れることもあり、その度に「体中のエネルギーというエネルギーが全て満たされるの」と言う。だけど60分の授業はいつもむなしいほどに早く終了し、その日いっぱいは幸せなのだけれど、すぐに満たされたエネルギーが減って来て、水曜日にもなれば「充電切れ」になるということなのである。
 私はそういうヌメッとしてそうな男性には生理的に興味がないけれど、大賀という名前にはなんとなく聞き覚えがあるすぎるほどにあって、それでいつも不安があった。

 玄関のベルが鳴った。律はカタツムリを放棄してスイカアイスを食べていた。私はハートの二つ目のカーブに夢中だった。
「律、出てくれない。多分、おばさん」
「おばさん?」
「親戚。今日、差し入れいくわよって連絡があったの」
「わーったよ」
 
 律は後頭部をばりばりかきながら、がに股で玄関に向かう。巨大なミシュランタイヤのキャラクターがついたTシャツがゆらゆらと玄関に消える。律に言おうか、どうしようかと私は悩む。

 そのおばさんはね、・・・
 
 その前に律が玄関を開ける。あらかた予想していた悲鳴と驚声があがる。

「アミー!どういうことー?」

 顔を真っ赤にしたオトメな律が、あわれなミシュランをぐしゃぐしゃにしながら駆け込んでくる。そしてド派手なタペストリーにぐるっとくるまる。おかげで私は針で自分の指を指してしまった。

「どうして大賀先生が、ここに?!」

「ああ、やっぱりそうだったのかぁ」と私は言う。
「どういうこと?どういうこと?」

「アミちゃん、久しぶり」と、「おばさん」が入ってくる。「アミちゃん、木村さんの知り合いだったの?」
「うん、そう」

 タペストリーの中でぶるぶる震える木村律を、私はぽんぽんと叩く。

「やっぱりそうだったの。これは私のおばさん。大賀由比っていうんだよ」

 真っ赤な完熟の律が、ぴょこんっと布の下から出てくる。

「どうして言ってくれなかったの?!」
「だって、律の話では男の先生みたいだから、まさかと思って言わなかったの」

「何、木村さん、私のこと男だと思っていたの?」おばさんは嬉しそうに言う。
「まあ、無理ないけどね、おばさん、また女性ホルモン減ったんじゃない?心なしかのど仏もあるみたいだけど」
「そうなの困っちゃう」
「声も低いしね。昔から間違えられてたもんね」
 
 律は真っ赤にぶるぶる震えて、結局そのあとお風呂にとじこもり、おばさんが帰るまで出てこなかった。

***

 「おばさん、帰ったよ」
「アミーのいじわる」
「どうして?」
「大賀先生が女だったなんて」
「まあ、性そのものではなかったよね。おばさん、イケメンだもんね」
「女の人に2ヶ月も恋をしていて、それが一世一代の恋だった場合、どうすればいいの?」
 
 律は黒いまっすぐな髪をぐしゃぐしゃとさせながら言った。私はそれにぽんぽん、と手をのせた。それは子供のようにあったかくて愛しいしっとりと湿った柔らかい生き物だった。私の胸を締め上げる、ワイルドな。

「なんにも問題ない。そのまま好きでいればいいよ、もちろん」

 私が律を好きなように。布の向こうにあるぬくもりを愛してるようにね。






*****


最初の一行しか考えずに書いたらとんでもなくとりとめなくなりました。


なんていうか、結果としてお題関係なくてごめんなさい。いつもか。
でもお題もらったその日にかけてよかった。

お題ありがとー♥♡

前もらったお題もちゃんと消化しますね。




みう小説ではお題をいつも募集してます。

 僕は、切り抜きを握りしめたまま入り口に立ちすくんでいる。周りはよく見えないが、どこか繁華街のようなところらしい。時刻は宵の口。紺に染まった世界に、赤や黄色の派手なランプがともり、呼び込みの声も華やかな時間。仕事の疲れを癒したり、仲間内で盛り上がるために繰り出してきた人々が、幾人かの群れになり、右へ、左へと流れていっては消える気配がある。

 僕はずっと立ちすくんでいる。「彼女」がいう。

「何を躊躇することがあるの?」

 「彼女」の姿は見えないが、すぐ脇に立っているようだ。かすかな電気の刺激に似たいらだちが、「彼女」の言葉には含まれている。「彼女」は情けない僕に心底腹を立てているようだった。
 だけど僕の足は動かない。僕は彼女の顔を見ることもできない。金縛りのように体が動かないのだ。いや、実際それは金縛りなのだろう。手の中で、クーポン券の切り抜きがじっとりと汗ばんでくる気配がある。

「はやく入ろうよ」

 「彼女」の声は、僕を挑発するように頭の中で大音響で響く。僕がおびえていて、立ちすくんでいることを見通して、でもそれに気づかないふりをして、僕をつつくのだ。

「予約に遅れちゃうよ」

  僕を射すくめているのは、巨大な「なまはげ」のお面だった。
 僕が予約したのは「気軽な雰囲気で楽しめる本格イタリアン」のお店のハズだった。クーポン券には写真も載っている。いかにもオシャレで、でも値段も手頃で、貧乏学生が彼女の誕生日に予約するにはもってこいという感じのお店だったのだ。まさかその、近代的でシャレていて重厚な入り口に、秋田の土着的な民衆信仰の鬼のような仮面がかけてあるかもしれないなんて、誰が思うだろう。

 もちろん、脳みその片方は知っている。これは夢なのだ。本当ではない。世界中のどこを探しても、イタリアンレストランの入り口になまはげをぶらさげるわけがないのだ。ここはきりたんぽ鍋屋ではないのだ。
 
 きりたんぽ鍋屋では・・・。

「それとも何かやましいことでもあるの?」

 彼女の気配は、今ではガムのようにビュイーンと伸びて、ずっと上から僕を見下ろしたり、僕の背中を覆い尽くしたりしている。宵の楽しい繁華街がすっと遠のき、鬼のような彼女の気配はそっと冷たい触手を伸ばして胸の中に、心臓に手を触れそうなところまで忍び込んでくる。僕はやっとの思いで目を閉じる。しかしまぶたの裏に、なまはげの顔が浮かんでくる。

「わるいごはいねがー!』

***

 汗だくになって叫びながら飛び起きた僕のことを、彼女は腹を抱えて笑った。白い蛍光灯、洗濯物の匂いがする彼女の小さなワンルームの、狭いベッドの中だった。

「なまはげって。あー、おかしい」

「怖かったんだってほんと、マジで」

「なんでそんな夢を見ちゃったんだろうね。フロイト先生に変わって診断してあげようか」

 彼女は白く丸い顔を僕の腹の上にのせてこちらを見る。大学で一番美人だと思う、うりざね顔、白く透き通る肌、黒くつやつやとした髪の毛。僕はそれをなでようと手を伸ばす。

「なにかやましいことがあるんでしょう」

 僕の手がとまる。白く美しい彼女の顔が、徐々に変化している。僕の体は再び動かなくなってきている。しまった。まだ夢は終わっていないのだ。

 彼女の声が頭の中で響き渡る。僕は我慢しきれずに、叫ぶ。

「そうだよ、ごめんよ、魔が差したんだ」

 巨大な釜をもって彼女が迫ってくる。

「だけど君が一番好きなんだ、信じてくれよ、うわあああ」

***


「何をねぼけてるの」

 本当の彼女の部屋で僕は目覚めた。彼女は今帰宅したところらしく、就職活動の黒いスーツを着ている。

「あ、お店予約できたの?」

 僕はベッドではなく、パソコンデスクで寝ていたようだ。手元にはプリントアウトされた店のクーポン券が置いてある。オシャレで安いイタリアン。彼女の誕生日祝い。

「ねえ、イタリアンと、きりたんぽ鍋屋とどっちがいい」

 僕はぼんやりとした頭で尋ねる。
 彼女はびっくりした顔で首をかしげ、それからとまどいがちにふっと笑う。

「だって、私秋田出身なのに。きりたんぽなんてわざわざ東京で食べたくないよ」

「そうだよね」

 僕は汗で濡れた額を拭う。夢だ。夢だったんだ。よかった。彼女は僕の浮気になんて気づいていない。そうだ、ちょっと後輩に手をだしただけじゃないか。気づく訳がない。

「そういえばさぁ、」と彼女は何気ない感じで言う。

「あんた来週後輩と、ディズニーランド行くんだってねえ」

 全身の汗がさっと引っ込む。僕は彼女を見ることができない。




三ヶ月ぶりぐらいに小説書いた。

というのも鉄男のお題が難しすぎるんだヨォーーー


ようやく消化。次はおおがきなこさんの「緑茶」「風呂場】です。

お楽しみに


お題募集中!


久しぶりに書くとやっぱりひどいなぁ