須藤くんは大きなため息をひとつついてから、私に向かって手を差し出す。

「とりあえず、立ったら?」

 そういえば転んでから、上半身は起こしたけど地面に座り込んだままだってことに、いまさら気づいた。

「あ、ありがと……」

 私は素直にその手をとって、立ち上がらせてもらった。

「痛っっ!」

 立ち上がったとたん更なる激痛に襲われて、足にうまく力が入らずバランスを崩す。

 すかさず須藤くんに抱きとめられ、以外にがっしりとした胸板にドキッと胸が高鳴った。

 胸のドキドキと傷の痛みが混ざって、平気だって言いたいけど顔がゆがむ。


 転んだ自分が嫌。

 須藤くんに迷惑かけてる自分が嫌。

 こんな状況なのに、ドキドキしてる自分が嫌。

 でもまともに立てないし、ホントにどうしよう。


「大丈夫か?」

「も、やだ、痛すぎ…」

 痛すぎて、涙があふれてくる。

 これからどうしたらいいのか考えてると、急に身体がふわっと浮いた。

「え?なに?」

 横抱きにされてると気づいた瞬間、さっきまでの涙が引っ込んだ。

「ちょ、ちょっと須藤くんっ、待ってっ」

 往来でのお姫様抱っこをされ、頭の中が完全にパニック状態になった。

「とりあえず座れるとこまで移動する」

「でも、これじゃなくても…」

「黙ってろ」

 ぴしゃりといわれ、私は何もいえなくなった。

 じたばたしようにも、抱き上げられてる状態ではできそうにない。

 恥ずかしさMAXだったけど、黙って須藤くんに従うしかなかった。

 街の中心に位置する大通りに面して、いくつもの敷地が連なってる公園のすぐそばにいたから、その中のベンチまで

連れて行かれそっと下ろされた。

 須藤くんは私の目の前で跪き、持ってたスポーツバッグの中からミネラルウォーターのペットボトルを出すと、血だ

らけの足にジャバジャバとかけだす。

「ひっ…」

 細かな砂や小石を水で洗ってくれてるから、痛みで悲鳴が出そうになる口を両手で押さえた。

 ペットボトルの水がなくなるころには、膝の汚れも血も綺麗になり、私はホッと息をついた。

 さらにカバンからタオルを出して、ぬれた足を拭いてもくれる。

「あ、ありがとう。ごめんね」

「いや」

 須藤くんのカバンにはなんでも常備されてるのか、消毒液と絆創膏まで出てきた。

「準備いいね」

「まぁ、俺もたまに使うから」

 足の治療が終わると、目の前に大きな手を差し出された。

 どうしていいか分からなくて、ついその手をとると「違う」と一蹴される。

「手のひらの怪我も見せろ」

「え、あ、はい…」

 足ほどの怪我はしてないものの、少しだけ汚れていた手は、洗い流すミネラルウォーターがなかったからか消毒液で

汚れを落として絆創膏を貼られた。

「よし、いいぞ」

「あ…ホント、ありがとう」

 絆創膏だらけの手と足を見て、治療をしてくれた須藤くんの方を見た。

 無造作にカバンにものを入れてから、私の横に腰掛ける。


 改めて見ても、やっぱり教室にいるときの須藤くんとは思えない。

 こんな怖そうな感じじゃなくて、もっと人当たりのよさそうな優等生だったのに。

 めがねがないだけでこんなに変わるものなの?


 いつもと雰囲気の違う須藤くんに、私はなにをしゃべればいいのか迷っていた。

「…なんか飲むか」

「え?」

「なにがいい?」

「えっと、お茶…かな」

「分かった」

 それだけ言って、須藤くんは近くにあった自販機へと向かった。

 その後姿に、まだ胸がドキドキいってるのに気づく。


 気のせいだよ、ね。

 ピンチの時に一緒にいたら~、的なことでしょ?

 つり橋効果、だっけ。

 あんな感じだよね。

 足が痛いだけよね。

 好きになってなんて、ないよね……?




【つづく】




 それはたぶん、予感だったのかもしれない。

 きっと、恋に堕ちるって。











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 友達に誘われていった合コンの帰り道。

 一緒だった子達は、それぞれ気のあった男の子たちと抜けてっちゃって、私は一人で地下鉄を目指して歩いていた。


 今日はなんだか疲れちゃったな…。


 隣に座った男の子は、私にはよくわからない話で一人盛り上がっちゃってつまんなかった。

 てか、いいなって思う男の子はいなかった。


 私、椎名みく。17歳。

 もともと色素が薄いおかげで、手を加えずともアッシュブラウン系な髪色で、ろくに話さない内から「ギャル」とハンコを押されちゃう見た目があんまり好きじゃない。

 事情を知る友達には「カラー代かかんなくってうらやましい」といわれてから、見た目を気にするのはやめたけど。

 でも、最初から「遊んでるっぽい」と勘違いされるのだけは我慢できない。

 そんなのに反発したせいか、結局「気の強い女」になってしまった。

 本当は、恋もしたこともない奥手女子なんだけどね…。


 初合コンが外れって、なんかむなしい…。

 由真も沙織も抜け駆けしちゃうし。

 どこかお店に入るのも、ひとりじゃな~。


 ひとりでも入れるようなお店を頭に思い浮かべてみても、そこに入る自分を想像して、さらにむなしさが増す。


 やっぱり帰ろっかな。


 自分でも引くくらい大きなため息が出て、キオスクでなにか買って帰ろうと決めたとたん、履きなれてなかったパンプスのヒールが何かに引っかかった。

「ぅわっ」

 女らしくない声の後、ものすごい激痛がひざと手のひらに走る。

「っ、痛ぁ……」

 恥ずかしいやら痛いやらで、完全にパニック状態のまますぐに立ち上がってみたものの、ひざからは大量の血。

 手のひらはズル剥け。

 手に持ってたお気に入りのバッグは、私の手から離れて、先に駅の入り口近くまで行ってしまってた。


 もう~~~~~、サイテーっ!


 ずきずき痛む足は、なかなかいうことを聞いてくれず、バッグが遠い。


 もうヤダ、早く帰りたい。

 でも痛くて動けない。


 泣きそうになりながらバッグまでもう少しのところで、誰かがバッグを拾い上げてしまう。

「あ、それ私のっ」

 この声に振り返った親切な人が、私を見てびっくりした顔をする。


 な、なに?

 転んだできた傷のひどさにドン引きした?

 それとも厄介事に首突っ込んだとか、思っちゃった?


 ちょっとイケメンな彼は、じっと私を見つめてくる。

 切れ長の、意志の強そうな瞳。

 キリッとした眉。

 鼻も、少しふっくらしてそうな唇も、バランスよく配置されてて、まさにドストライク。


 こんな人がさっきの合コンにいたら、もうちょっとがんばったのにな…。


 そう思わされるくらい、彼は私の好みにぴったりの顔立ちで、こういう状況がとてつもなく恥ずかしかった。


 道端で転ぶドジ女って第一印象はナイわ…。


「スミマセン、それ、私のバッグで…」

 とりあえずバッグを返してもらいたくて、改めてバッグの所有者だということをアピールした。

「椎名?」

「え?」

「お前転んだの?」

 なれなれしく名前を呼ばれて、しかも「お前」とか言われた。


 てか、アンタ誰?

 こんなイケメン、知り合いにいないよ。

 いたら狙ってるし。


 記憶の中にある男子の顔を必死に思い出してみても、全然一致しない。

 ぽかんと彼の顔を見上げてると、呆れたようなため息が落ちてくる。

「まさか、クラスメイトの顔忘れたのかよ」


 は?クラスメイト???

 ますます分かんないっ!!!


「…須藤だよっ」

 イケメンはかなりご立腹のご様子。

 それでもかまわず、もう一度記憶を辿り「須藤」くんを探す。


 すどう、須藤?

 私の記憶が正しければ、一人しかいないんですけど。


 恐る恐る、答えがあってるかどうかを確かめる。

「もしかして、クラス委員長の…須藤くん?」

「他に誰かいるか?」

 明らかに怒ってる彼、須藤くんは、普段聞いたこともない声色で質問返しをした。


 だって、私の知ってる須藤くんは、クラス委員長で、頭がよくて、話し方も穏やかで、こんな夜遅くに出会うイメージもなくて、それに見た目だって黒ブチめがねだったし!

 あの黒ブチめがねで、こんなイケメンを隠してるなんて今の今まで知らなかったしっ!


 いろいろ文句みたいな言い訳が脳内を駆け巡ったけど、私の口から出てきた言葉は。

「…ご、ごめんなさいっ」

 須藤くんの顔がものすごく怖くて、泣きそうになりながら、まず謝った。


 委員長ってば、学校にいるときと全然イメージ違いすぎっ!

 いろんな意味で誰か助けてっ!!






【つづく】



presented by mitsuki sakuno