<後半記事>
『池袋ウエストゲートパーク』その6:『I.W.G.P.』と妻夫木聡(後半)
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(6) 『I.W.G.P.』における妻夫木聡
映画だけでも膨大な数の出演作を持つ妻夫木聡について、限られた字数で網羅的に語ることはほとんど不可能に近い。
ましてやこれにドラマにおける出演作を含めると…けれども、妻夫木が俳優として転機となった作品に絞ると、意外にスッキリと説明がつく。
まず『I.W.G.P.』・・・当時若干19歳のキャリア2年目の俳優・妻夫木が演じた役柄は斉藤富士夫。長瀬智也のマコトが中学生時代以来の「サル」という愛称で呼ぶ、暴力団羽沢組の構成員である。
サルは中学時代いじめられっ子で、その反動で卒業早々ヤクザの道を進んだ訳だが、行方不明となった組長の娘である通称「姫」の付き人となった。サルはマコトに組を通じて、「姫」の捜索を依頼する。結局「姫」は無残にも殺害されており、実は「姫」に惚れていたサルは「姫」の無残な亡骸を抱きしめ号泣、犯人を山中で生き埋めにする。
羽沢組若頭・氷高(遠藤憲一)は、サルの暴走を含めそこはかとなくこの結末を想定しており、その結果これも氷高の描いた絵の通り、サルは左手小指を落とすハメとなった。
このいきさつの中でサルの想いを感じ取ったマコトに、サルは恩義を感じ、以降マコトの協力者として、最終回まで関東京極会の企みを阻止したりする。
その役柄からは想像もつかないかも知れないが、このサル役でも若りし頃の妻夫木の持ち味であった、
・ 喜怒哀楽を全身を使って表現する、悩める青年像。
特に理想や恋愛に苦しみ涙する姿。
・ 回想シーンにおいて代役を立てずに、中学生まで演じ切る振り幅の広さ。
…これらは『I.W.G.P.』でもしっかり発揮されていた。
しなしながら『I.W.G.P.』から9年後、妻夫木が大河ドラマの主演を務めることを予想出来た人間など、一人としていなかったであろう。
2001年の『ウォーターボーイズ』、2003年『ブラックジャックによろしく』、映画『ジョゼと虎と魚たち』(脚本は『カーネーション』の渡辺あやのデビュー作)を経て、妻夫木は2009年大河ドラマ『天地人』にて主人公の直江兼続を演じる。これが第一の、妻夫木聡の転機である。
『天地人』ではこれまでの妻夫木のイメージを覆す、直江兼続の60歳になった姿までを演じ切ってみせた。
視聴率的には大成功といえた『天地人』は、史実考証等の面で問題のあった大河であったこともまた事実だが(元服後も前髪を垂らした妻夫木の姿が特に有名か…)、中学生から戦国武将の晩年までに演じる役柄のレンジを更に広げた妻夫木が、ここから次のステップに向けて飛躍していったのは紛れもない事実。
次のステップとは…2010年の映画『悪人』である。
『天地人』までの妻夫木の一貫したイメージは、『悪人』の清水祐一役にて大きく覆される。それまで妻夫木が売りとしていた「悩める青年像」のフォーマットに、生まれ育った長崎から一歩も出たことがなく、出会い系サイトで出会える女を漁ることだけを楽しみとするコミュ障気味の解体業の青年像をはめ込んでみせた。
そして衝動的とはいえ殺人に手を染め、もうひとりの出会い系サイトで見出した女・馬込光代(深津絵里)と逃避行に突き進む金髪の妻夫木が、一切の予備知識抜きで妻夫木とわかる者はそうそういなかったハズだろう。これは明らかに意図的に、従来の己の定着したイメージを打破してみせた妻夫木の演技プランだったといえる。
この『悪人』で妻夫木は、その演技の振り幅を年齢面だけではなく、人間性の側面にまで広げていった。
これが「第二の転機」である。
(続く)
『池袋ウエストゲートパーク』 2000年4月14日~6月23日 金曜日21:00~21:5(初回放送) TBS
原作:石田衣良 脚本:宮藤官九郎 監督:堤幸彦 プロデューサー:磯山晶
オープニング:Sads「忘却の空」
出演:
長瀬智也、窪塚洋介、渡辺謙、山下智久、佐藤隆太、阿部サダヲ、加藤あい、妻夫木聡、高橋一生、坂口憲二、古田新太、西島千博、須藤公一、矢沢心、小雪、きたろう、森下愛子、小栗旬 他