ラジオ収録のため、久々にいずみ中央へと足を運んだ。                            

自宅から実沢を経由して車を走らせる道の脇には、畑や田んぼが広がり、昔、自転車で通った毎日を懐かしく思いながら現地へ入ると、その変貌ぶりに、それまで僕の中では止まっていた時計の針を、何周も、何百周も、何万周も進める事となり、驚いた。

『浦島太郎』のように戸惑う僕を横目に通り過ぎて行く、かつて自分が嫌々着込んだ制服を羽織る高校生。

どんなに町や景色が変わってしまったとしても、そこに存在する人や子供達の心くらいは、いつまでも変わらないままであって欲しいものだと、ぼんやりと思ってはまた、足を駅ビルの中へと向かわせた。



懐かしさや思い出。そしてそれを埋め尽くす成長の足跡や、それを消し去る沢山の現実。交錯する色んな思いがこみ上げてきて、どうしてもより多くの人達に伝えたい一つの気持ちが頭の中で右往左往する。


『感謝』。



考えてみれば、僕が生まれて初めて足を運んだラジオ局はFM泉で、そして初めて出演したのもこのFM泉だった。

その頃、FM泉のスタジオはまだ、泉中央から車で10分ほど走らせた、少し辺境を感じさせる場所にあり、放送を収録するブースの窓越しには少し古びた体育館、そしてその向こうには、暖かそうな町の光が『早くこっちへおいで??』って言っているかのように、遠くからキラキラとこちらへ語りかけていた。

確か、 1st albumのプロモーションでの訪問で、その時担当だったパーソナリティさんとは、それ以来もうかれこれ3年くらいの付き合いになる。


昨年、FM泉のスタジオが泉中央駅の駅ビルへと引っ越した。そして、今日がその、引越ししたスタジオへの初の潜入だった。


あの、プレハブのような、高校生の放送部の部室のようなスタジオからは見当もつかない、ガラス張りの入り口の向こうには事務所があり、そしてその手前側には、ゲストの待機場があり、その待機場でコーヒーをすすりながら、進行の打ち合わせを行い、そしてスタジオへと入る。



ブース越しに見えるのは、古びた体育館なんかではなく、駅ビルの無機質な廊下と、シャンデリアでも飾ってありそうなくらい綺麗な吹き抜け。
そして、向こう側に見えるヘアスタジオには、お洒落な服を貴下ざし、綺麗に髪をセットし終えた若者たちが出入りしている。
時折こちら側に来る人が居て、きっと僕らの収録風景は、窓越しから丸見えなのだろう。まるで動物園の猛獣館の檻でも見るかのような目で、興味津々にこちらを覗いていた。

そんな光景を僕らも眺めながら、順調に収録は進んだ。
パーソナリティさんも、付き合いが長いだけあり、僕らが言いたい事をピンポイントで誘導する。
絶対的な信頼感と、妙な安心感が、詰まった言葉達を次から次へと導き出し、そこで繰り広げられる会話が僕はいつも大好きで、その番組が僕は大好きだった。




20分程度のトークが終わり、収録は終盤へ。
やがてBGMが止まり、今回のPRすべきCDのタイトル曲『想像クラス』の曲紹介を誘導される。


無音の空間。そういえば、初めての『曲紹介』の時もこんなだったと、ふと思い出す。


僕自身、その頃は、今のようにコンスタントに活動が続くなんて思っても居なかったし、当然ワンマンライブなど、とてもとても遠いものだった。
何を話して良いのかも分からず、ただ低いトーンで曲名だけをぼそぼそと告げた記憶が蘇る。


あれから3年・・・。


ブースの中で、マイクを前にして、伝えたい事を伝える作業も、少しは自由な発想で行えるようになったのだろうか??

僕らがこの3年、成長してきた部分って、きっと『ライブ作りが上手くなった』とか、あるいは『演奏が上手くなった』とか、そういうごく部分的なものだけではなかった。

例えば『表現する』という根本的な物事だったり、それから人と触れ合う価値観だったり、そして色んな場所で喋る事・・・

それって、例えばこれからまた何年か経って、僕が音楽を出来ない環境に陥ってしまったり、そんな体になってしまったとしても、きっと生きる上で貴重な財産となる。

色んな意味で、育ってきた僕らを、ほぼその原型から眺めていてくれたのが、僕らにとってのFM泉の存在で、そして、そのパーソナリティさんの存在だった。




無音の空間。その空間に乗せる言葉は決まった。

僕らの曲を手にとってくれた人達へ
僕らが接してきた人達へ
原型から暖かく見守ってくれたFM泉のパーソナリティさん、それからスタッフの皆様へ
そして、その番組を聴いている全ての方々へ

心からの感謝の気持ちが、この『想像クラス』に乗って、届いてくれればありがたいなぁ・・・と。



収録が無事終了する。
その後も、僕と河本君、それから担当のパーソナリティさんと、収録がまだ続いているかのように、僕らとの出会いの話に花が咲き、そして会話が続く。

そんな中。

パーソナリティさんから、少し寂しい事実を告げられる。
内容的には幸せいっぱいの話。
でも、その幸せの周りには、色々な人達との別れが存在するのだという。


あれから三年。

再び、またここで何か変化が訪れてしまうという事に、少しだけまた切ない気持ちがこみ上げながら、スタジオを後にした。


気が付けば、もう11月も終わりに近づいていて、泉中央から泉パークタウンへと繋がる道の脇には、カラフルな電飾に満ちている。

こうして過ぎて行く時の流れの中で、僕らはどれだけ多くの変化点を通過していかなければならないのだろうか??

それが例えば町並みの変化かもしれない。
それとも、僕や、その周りに存在する人達の心なのかもしれない。
あるいは、そこに存在すべき人物そのものが別な人になっているのかもしれない。


そして、その時思った喜びや、悲しみ、それから怒りや憎しみさえ、きっと忘れていくのだろうなぁ。


そして、今から三年たった時。

僕らは果たして今というこの時を、どんな気持ちで振り返るのだろうか・・・・。










参考:
FM泉(79.7)
11月27日(月)18:00~on air
『cube one music』


収録:11月26日16:00


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