ある大学教授のもとに学生の母親が訪れた
闘病中の学生が亡くなったという報告だった
だが、教授は意外に思った
平静な口ぶりで笑みさえ見せる母親からは、
息子を失った悲哀が感じられない───
芥川龍之介の短編「手巾(ハンケチ)」です
話の途中、うちわを落とした教授が、
拾おうとかがんだ時、膝に乗せた母親の手が見えた
手巾を引き裂かんばかりに、手は激しく震えていた
「婦人は、顔でこそ笑っていたが、
実はさっきから、全身で泣いていたのである」
3人の我が子と自宅を津波に奪われた男性が、
震災後の「3月11日」当日、
自宅跡地で友人らと談笑していました
何人かが腕時計に目をやった
談笑が途切れた
風の音さえ消えた気がしたといいます
午後2時46分
人の輪から一人離れ、強く拳を握る男性の背中を、
友は無言で見守りました
長い沈黙の後、男性は振り返り、
場の緊張を解くかのように、微笑んだのです
そして笑顔の語らいが再開しました
表情からだけでは、心の奥の叫びは見えません
言葉だけが励ます方法でもありません
見守り、祈り、じっと待つ
それも「寄り添う」ということだと思います
熊本地震で被災された人達のためにも、
皆さんの心を一つにして寄り添うことから始めましょう