登校途中の短いトンネルの出口付近に、

スポーツタイプの自転車が置いてありました。

「誰のだろう、こんなところに」

と、思いながら通りすぎましたが、

翌日も、その翌日も、

その自転車は放置されたままでした。

あるとき、

自転車を停めて、

放置されたままの自転車をよく見ると、

ハンドルはドロップハンドルという自転車競技などで使われるスポーツタイプのハンドル、

しかも変速ギアを見ると、

みつるの自転車の3段ギアに比べて、

10段変速という当時ではまだ珍しいタイプの自転車でした。

最初に見かけてから1週間以上も放置されたままの自転車を、

欲しくなったみつるでしたが持ち主が分からない。

学校へ着くと早速、

同級生や先輩などに訪ね回り持ち主を探しました。

すると誰かが、

「あの自転車は、たしか3年生のTSさんのではないかな」

と、教えてくれました。

そのTS先輩というのは、

体格も大きくて喧嘩好きな、

学校中の皆が恐れている先輩でした。

ですから、

「そんな先輩が1年生のみつるなどに高価な自転車をくれるはずがない」

と、みつるは思ったが、

とにかく自転車が欲しいみつるは、

3年生の先輩の教室へ行くと、

TS先輩の名前を出すと入り口にいた人が指を指して教えてくれました。

タイミングよく先輩はいたので、

「すみません、〇〇トンネルの出口の所に自転車が置いてあったけどTSさんのですか?」

と、訪ねると、

「おう、そうだよ」

と言ったので、

「1週間以上もあそこに置いたままだけど、もし、良かったら譲ってくれませんか」

と言うと、

「ああ、いいぞ」

と、呆気なく言ってきたので、

「それじゃ、いくらで譲ってくれますか?」

と言うと、

「お金はいらん。いるなら勝手に持っていっていいぞ」

と言うので、

「有り難う御座いまーす。それじゃ早速きょう、もらっていきますよ」

と言って教室を後にしたみつるは、

帰りに自分の自転車とトンネルにあった自転車の2台を押しながら持ち帰りました。

そういえば、

自転車の話をしたときだったかな?

鞄の蓋を開けたときに中を見ると、

なんと、

鞄の中には棒状の紙袋に入ったままの小麦粉が2本と自転車のチェーン(これは喧嘩用)、

それに、大きな弁当が2つ?

いやあ、

流石にみつるもこれには驚きましたね。

その先輩も現在では、

日田市に住んでいて立派なお父さんになられています。

また、地元の消防団などにも入ったりと、

かなり地元に貢献しているようでした。

中学校では喧嘩ばかりしていて、

皆からは恐がられていたTS先輩でしたが、

僕にはとても優しい、素晴らしい先輩でした。

先輩には、本当に感謝しております。

後に知ったことですが、

TS先輩のお父さんとみつるの父親は同級生だったそうです。(こんなこともあるんですね)

ーーーーーーーーーーーー 続く ーーーーーーーーーーーーーー