ヒロとメグミがうちに遊びにきてから、ちょうど1月くらい経ってからの事、
6月の終わりのある土曜日の深夜の事だった。
テレビ放送も終わり、さあ寝ようかと思っていた夜中の3時頃、
廊下に誰かの足音が響き渡った。
しばらくするとその足音が段々下宿の2階の一番端っこの僕の部屋まで近づいて来たかと思うと、ドンドン、と強烈なノック。
「起きてるで~」
この時間にやって来るのはてっきりリョウ君だと思い、
かなりダラけた姿でドアを開けるとそこにヒロが立っていた。
「ちょっと、まっく聞いて。ここの下宿のババアってほんとにうるさいよね、私が何しに来ようと大きなお世話よ」
「お前は~、いきなりこんな時間に登場して何を言い出すねん」
「今ね、玄関のドア開けたら(管理人の)ババアが出てきてね、『何の用ですか?』っていきなり聞いてくるんよ」
「そら聞くさ、今何時かわかるか?夜中の3時やで、世の女の子は大抵寝てるで」
「そうかな?、でね、私はそんな事言うために来たんじゃないんだよ」
「何やねん?」
「ちょっと大林さんに用事があったんだけど・・・」
「知らんがな、はよ行って来たらええやん」
「大林さんおらんから、まっくのとこに来たってわけよ」
「どないやねん、俺に用事ある訳ちゃうやんか」
「でもまっくには話さないといけない事があるんよ」
ここから、本題に入る前にヒロの悩み相談が延々1時間は続いた。
僕も人がいいのだろうか?、彼女の長話に最後まで付き合っていた。
「それでね、メグミの事なんやけど」
「いきなりやな。あ、そういえばこないだメグミと電話で・・・」
「この前ね、うちらコンパしたっちゃよ」
「・・・俺の話は聞く気ないんかい?」
「それでね、あんまり盛り上がらんかったんだけど、私と優子と・・・メグミも来てたんだけど、優子は途中で帰るし」
「そんなん、『あり』なんや?」
「それでね、メグミは結構声かけられてたね」
「あの娘なら声かかるやろ、かわいいもんな。性格もよさそうやし、誰かさんと違って」
「誰よ?」
「まあ、ええやん、それで?」
「でもね、メグミは全然誰にも取り合わないわけよ。メグミを気に入ってて、熱心に声かけてくるムサい男とかおったんやけど」
「何かちょっとムカつくな。でも、まあええわ。そいつはメグミの好みやなかった、と」
「違うよ。メグミ『まっくがいるから・・』って私に言うんよ、君らの関係は一体どうなってるわけよ?」
「どうもこうも・・」
「この前『まっくと話した』って言ってたし、こんなんならメグミなんてコンパに連れて行かなけりゃよかった」
「お、俺かい?、原因は」
「そうよ、まっくのせいで全然盛り上がらんかった、まあ、私好みの男はおらんかったけどさ」
「なら、別にええやん。ヒロのくせに敷居、高いな」
「ほっといて! それでメグミの事はどうなん?」
「・・・・?」
「・・・・」
「メグミが・・・俺を・・・?・・・そうやったん?」
「そうみたいよ」
「そうなんや?」
「だから、そうだって!」
「せやけど俺、電話で2回くらいしか・・・」
「そんな事はどうでもいいよ、メグミのこと頼んだよ、ここはまっくが動くべきやと思うよ」
「俺が、メグミに?、マジで、いや、ほんまに?マジで?」
「何動揺してるんよ、本当に誰もかれも。そう言えば優子も最近彼氏出来たとか言ってたし、結局私だけよ、一人モンは」
ヒロの話を聞いた僕は深夜とは思えないほどかなり舞い上がっていた。
優子の彼氏の話など、全く記憶に残らないくらいに。
(お借りしました、ありがとうございます)
この日、僕はようやくメグミの気持ちに気付いたのだ、
それもヒロに言われなければ、永遠に気付く事もなかっただろう。
「それじゃ、俺はどうなんだ?」
ここにきて初めて
僕はメグミへの気持ちが大きくなっているんだと確信した。
ただ、すぐに行動に出せないくらい、当時の僕は臆病だった。
数年前の「子供の恋愛」みたいな失恋が、どうしてもトラウマになっていたのだ。