僕とあの娘  ②  「パーキング」 | みつ光男的 だれだれ日記

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家族と過ごす何気ない日常と好きな音楽、プロレス、自作小説について。
更には日々の癒しとなるアイドルについてなども長ったらしく綴ります。

駐車場で繰り広げられるヒロとの会話も次第にヒートアップしてきた。
明日はいよいよライブだね、みたいな話題になった時、
ヒロが言った。

「まっくは明日、髪立てたりするの?」
「まあ、久々のライブやからね、立ててみようかな、とは思てんねんけど。あれ、結構めんどくさいんやで」
「『ダイエースプレー』で立てるんよね」
「よう知っとるな、あれ臭いねんで、気分悪なる。一応持ってるけど」
「じゃあ、明日は髪立ててよ、せっかくチケットも売ってあげたんやし。立ててなかったら許さんよ」

そんな事で友達を失くすのもたまらないので

「はいはい、そしたら明日は髪立てて来るから」
「絶対立てるんよ」

えらく髪の事にこだわるなと思いながらも

「わかったっちゅうねん」

とりあえず、僕もそんなにムキになるほどの事でもない。
実際、髪は立てようかどうしようか悩んでたところだったので、
ヒロの一言が
ちょどいいきっかけにもなって、この時僕は髪の毛を立てる決心をした。

何故そこまで決心がいるのかは、「あのスプレー」を使った人にしか解らないのである。
4畳半の一室で「あのスプレー」を使ったら中毒症状で倒れてしまうくらい臭い上に、
更に元に戻すためには、シャンプー1本使いきるくらいの心の準備が必要なのだ。

「ちょ、ちょっと、ヒロ・・・」

と、その時車の後ろの席から必死にヒロをなだめる一人の女の子。
ヒロがあまりにも僕の事をボロボロに言うもんだから、
僕が怒るんじゃないかって心配したらしい。

「まっくはこんな事では怒らんよね、いい奴やもん」

僕とヒロとの会話を心配そうに車の後ろから覗き込んでた、彼女こそメグミだった。
この日は直接話はしなかったけど。

「この娘らよ、チケット買ってくれたの」

ヒロが軽く紹介してくれた。
車の後部座席には二人の女の子が乗ってた。
この頃はまだヒロ以外の知り合いは看護学校にはいなかったので
また友達が増えるかな、くらいの軽い気持ちだった。

この日はこのままヒロたちと別れて下宿に戻った、


下宿に戻った僕は早速バンドのメンバーに電話して

「明日、髪立てたいんで手伝ってや」

この作業、一人でやるにはちょっと困難だった。
まあ、ヒロが言うから立てるか、と正直なところ半分は自分の意志ではなかった。

そうして迎えたライブ当日、僕は金色に染めている髪の毛を立てて、
会場となる大学に向かった。

他のメンバーは
「お前、臭いよ」

結構ヒンシュクものだったけど、
僕はこれでヒロとの約束は果たしたな、と半ばホッとしていた。
僕たちのバンドのライブは夕方からで、
その前に別会場でディスコのダンスパーティが始まる事になっていた。

またしょうもない事始まったな、なんて思いながらウロウロしてたら

「あ、まっく!」

ふり返るとヒロだった。

「何かカッツェの敦っちゃんみたいやね」

『KATZE』・・・それは昨日、学園祭にゲストで出演した地元出身のバンド。
僕たちが今暮らしている『下関』のバンドファンで彼らの名前を知らない人はいなかった。

(お借りしました、ありがとうございます)


『切ない夢をどのくらい 見れば 二人はあの日に戻るだろう♪』

KATZEの歌を口づさんだ時、僕は何故か高校時代の大失恋を思い出した。