27話あらすじ:手術を受けることになったミズキ。でもいざとなると不安がよぎり・・ 15分×30話予定。

〇城木家・リビング
 亮、ミズキに電話している。
亮    「あ、もしもしミズキ? 今日なんだけど・・」

〇スーパーマーケット・店内
 亮とミズキ、歩いている。
 亮はカートを持ち、ミズキは亮の左腕を掴むように歩いている。
亮    「大丈夫か? そっち側は見えるんだろ?」
ミズキ  「うん。大丈夫。ありがとうございます」

 ミズキ、歩きながら食材をカートに入れている。
ミズキ  「すごく助かります。レオは連れてこれないし。でもまさか亮先生から言ってくれると思わなかった」
亮    「ほら、いつも作ってくれてるから。買い物とかどうしてるんだろうって思ってさ」

 ミズキ、微笑む。

〇ミズキの家・庭(夕方)
 亮、右手にハサミを持ち、ミニトマトを収穫する。
 ミニトマトをミズキの持っているボウルに入れる。
亮    「どう? まだいる?」
ミズキ  「あと2個お願いします」
亮    「おう。ちょっと待て。赤いやつだよな」
ミズキ  「はい。もうない?」
亮    「う~ん・・お! あった。よし」

 亮、ミズキの持っているボウルにミニトマトを入れる。

〇同・ダイニング(夕方)
 ミズキと亮、美津子が笑顔で食事をしている。
 ミズキ、箸を置き、亮の方を向く。
ミズキ  「(咳払い)亮先生、私、手術、受けることにしました」
亮    「え?」
ミズキ  「昨日、お母さんから、亮先生からお金借りたって聞きました。私も目が見えるようになったら、高校行って、バイトもして、高校出たら働いて、お金返します。本当にありがとうございました」

 ミズキと美津子、亮に頭を下げる。

〇車・内(夜)
 亮、運転している。
 ミズキとレオ、後部座席に乗っている。
ミズキ  「亮先生。あの、今日も先生の家行きたい」
亮    「え? 駅前は? まだ・・怖いとか?」
ミズキ  「ううん。違うよ。(笑いながら)また先生寝てるとこ見たいから」
亮    「おい! 言っとくけど今日は寝ないからな!・・でも、まあいい・・分かった」

 亮、ミラーで周囲を確認し、方向転換をする。

〇城木家・スタジオ(夜)
 ミズキと亮、レオ、入ってくる。
ミズキ  「あの・・色々、ありがとうございました。これ、お礼です」
 ミズキ、紙袋を差し出す。
ミズキ  「パウンドケーキ。良かったら」
亮    「いつの間に?」
ミズキ  「作りました。時間だけはあるんで」

 亮、驚いた表情で紙袋を受け取る。

亮    「ありがとう」

 ミズキ、笑顔で頷きギターを手に座り、歌い始める。

〇ミズキの歌『太陽が眠ったら』

 

 

そう僕は選んで生まれてきた
顔も声も名前さえも
君に見つけてもらえるように

太陽が眠ったら会いに行くよ
生まれる前からの約束だから

そう君も選んで生まれてきた
国も家も時代さえも
僕がすぐに見つけられるように

太陽が眠ったら会いに行くよ
生まれる前からの約束だから

太陽が眠らなくても
月がいない時でも
会いに行くよ

〇城木家・スタジオ(夜)
 亮、レオを抱きながら寝ている。
 ミズキ、微笑み亮の頬にキスをする。
 亮、目を開ける。
亮    「今何を?」
 ミズキ、首を横に振る。
ミズキ  「何も」
亮    「何も?」

 ミズキ、首を縦に振る。
亮    「・・ごめん。また寝ちゃって・・」
 亮、時計を見る。
亮    「こんな時間・・これからはアラーム必要だな。よし(立ち上がる)、送ってくわ」
 ミズキ、出て行こうとする亮の服を後ろから掴む。
ミズキ  「明日、病院に行きます。検査入院。一泊二日で・・」
 亮、振り向こうとするが、
 ミズキ、そのまま亮の体に腕を回し抱きつく。
 亮、体を強張らせる。
ミズキ  「だから明日は会えないです・・」
 亮、目を伏せ、奥歯を噛みしめる。
亮    「・・大げさ。一日だけだろ」
ミズキ  「手術の日が決まったら、入院しちゃうし。そしたらここには来れないです。だから、検査入院が終わったら、次の入院まで毎日ここに来てもいいですか?」

 亮、頷く。
 ミズキ、顔を上げる。
ミズキ  「え? どっちです?」
 亮、ミズキの手を振りほどきながら向きを変え、
 ミズキと対面する。
亮    「わかった。入院の前の日までな」
 亮、ミズキの頭を撫でる。
亮    「じゃ、行こう」
 ミズキ、笑顔で頷く。

〇同・玄関前(夜)
 ミズキと亮、レオが出てくる。
澪の声  「亮!」
 ミズキと亮、声のする方を見る。
 澪がスマホを持ち、立っている。
澪    「電話に出ないから、心配した」
 澪、駆け寄り亮に抱きつく。
澪    「ごめん、亮。体は? 大丈夫なの?・・」
亮    「澪・・もしかして・・」
澪    「ごめん、全然気付かなくて。今からでも間に合うよ。一緒に治療しよう」

 亮、体を離す。
亮    「澪、ごめん。コイツ送っていかないと」
 澪、ミズキを見る。
澪    「今の・・彼女?」
亮    「違うけど、ちょっと・・」

 ミズキ、背筋を伸ばし、まっすぐ澪を見つめる。
ミズキ  「あ、私、亮先生にギター教わってるだけです。あ、先生、私一人で帰れますから、大丈夫です。レオもいるし。行こ」
 ミズキとレオ、エレベーターに向かい歩き始める。
 亮、追いかけようとするが澪に止められる。
 亮、澪の手を振り払う。
亮    「・・ごめん」
 亮、ミズキを追いかける。
 澪、泣き崩れるように座り込む。

〇エレベーター・内(夜)
 ミズキとレオ、亮が立っている。
ミズキ  「すみません。彼女さん来てたのに」
亮    「気にすんな。一人で帰せるわけないだろ」
ミズキ  「あの、さっきの・・治療って?」
亮    「・・ああ。・・歯医者とか? 大げさなんだよ、アイツ」

 亮、笑顔をミズキに見せる。

〇車・内(夜)
 亮、考え事をするように黙り、運転している。
 ミズキとレオ、後部座席に座っている。

 ミズキは亮の様子を気にするように、努めて明るく話しかける。
ミズキ  「ねえ、先生。明後日は会えます?」
亮    「ああ。病院迎え行く。ていうか、明日も送る」
ミズキ  「え? ほんと? 嬉しい!」
亮    「(笑う)変な奴」
ミズキ  「で、明後日からは毎日亮先生の家ですね! 私、いっぱいやりたいことあるんです」
亮    「・・」

ミズキ  「先生の家でご飯作りたい! あの広すぎるキッチンで! それからあのオシャレなカフェみたいなテーブルで一緒にご飯食べるでしょ? それから、レオと一緒に3人で並んで寝たい。それから、このマンションなら綺麗な朝焼け見れるでしょ? 一緒に朝焼け見てみたいな~ それから・・そうそう、(スマホを取り出しながら)このカフェでフルーツいっぱい入ったパフェ、食べたいしーー」
亮    「ちょっと待て。それ、いつまで続く?」
ミズキ  「全部言い終わるまで」

 亮、フッと笑う。
亮    「手術がいつになるかわかんないけどさ、終わる? それ」
ミズキ  「終わらないかも。ていうか、・・終わらせたくない」

 ミズキ、うつ向く。
 亮、バックミラーでミズキを確認する。
亮    「どうした? さっきからお前、変だぞ」
ミズキ  「やっぱり・・変ですよね」

 亮、車を止める。

〇道(夜)
 亮の車がハザードランプを点け、止まっている。

〇車・内(夜)
 後部座席に亮、入ってくる。
 ミズキの隣に座り、飲み物を渡す。
亮    「熱でもあるのか?」
 亮、ミズキの額に手を当てる。
亮    「ん? ないよな?」
 ミズキ、亮の体に腕を回す。
亮    「おいおい、すげーな、お前。猫みたいだな」
ミズキ  「猫?」
亮    「そう。猫。ほら、甘えたい時にすり寄ってくる、あれ」

 亮、笑う。
ミズキ  「じゃあ・・」
 ミズキ、亮に膝枕をする。
亮    「は? 調子に乗んな。起きろ」
ミズキ  「いいでしょ? 猫だもん」

 亮、ミズキの頬をつねり、引っ張る。
ミズキ  「いたい~」
 ミズキ、笑う。
亮    「猫なら猫語しゃべれ」
 ミズキ、表情を戻し、ため息をつく。
ミズキ  「・・最初は嬉しかったんです。私ね、戸籍がなかったの。お母さんが出生届出してなくて。戸籍が欲しいって思ってた。病気になって、戸籍作ってもらえることになった。それで、亮先生のおかげで手術も。でも、急に怖くなっちゃった。手術。変だよね。目が見えるようになったら、戸籍が出来たら、やりたいこといっぱいあるのに、手術して、もし目が覚めなかったら? 亮先生ともう会えなくなっちゃったら? 私、まだ死にたくない・・」
 亮、ミズキの頬をつねる。
亮    「安心しろ。お前は死なない。手術も成功するし、うちでご飯作って、一緒に寝て、朝焼けも見る。大丈夫」
ミズキ  「・・パフェも?」
亮    「(笑う)ああ」
ミズキ  「全部、叶えてくれる?」
亮    「・・俺ができることは」
ミズキ  「約束できる?」

亮    「しつこいな。だから明後日からできること1個ずつ。な」
ミズキ  「今日からじゃダメ?」
亮    「は?」
ミズキ  「・・キスしてほしい」
亮    「・・お前何言ってんの? さっきそんなこと言ってたか?」

 ミズキ、体を起こす。
ミズキ  「今思いついた。(笑いながら頬を指す)いいからここ。早く」
 ミズキ、頬を亮の方に差し出す。
ミズキ  「ペットの・・猫だと思って・・」
亮    「・・猫・・ね~」

 亮、キスをする。
 ミズキ、目をつぶり嬉しそうに体を捩る。
 亮、照れたようにミズキの様子を見つめる。
亮    「ほい。今日の分終了。な。じゃ、行くぞ」
 亮、立ち上がろうとするが、
 ミズキ、亮の首に手を回し、抱きつく。
ミズキ  「亮先生。私は猫・・だよ?」
 ミズキ、亮にキスをする。
 亮、呆然としているが、熱を帯びた瞳でミズキを見つめる。
亮    「こんな猫・・いるか?」
 亮、ミズキにキスをする。

〇道(夜)
 亮の車がハザードランプを点け、止まっている。

〇城木家・玄関前廊下(夜)
 亮、歩いてくるが、澪に気付く。
 澪、膝を抱えて座り、膝の間に顔を埋めるようにしている。
 亮、澪に近づき、頭を触る。
亮    「お待たせ」
 澪、顔を上げる。
 亮、ドアを開け、入っていく。
 立ち上がり、戸惑う澪。
 ドアが開き、亮が顔を出す。
亮    「入れよ」
 澪、笑顔になり入っていく。

〇同・リビング(夜)
 澪と亮、座っている。
亮    「入って待ってるかと思った」
澪    「(首を横に振る)もう・・彼女じゃないし」
亮    「・・ここまで来といてそれ言う?」
澪    「・・ごめん。・・あの、聞いたよ、社長から。病気のこと。あ、社長から言ったわけじゃないよ。偶然知ったの。なるべく声を残すように手術してくれるお医者さん、必死に探してた」
亮    「うん。この前、橘さんここに来て、医者の名刺置いてった。でも・・歌はもう無理だ」
澪    「そんなの分かんない。もしかしたらいつか・・」
亮    「澪なら分かるだろ。仮にそうなれたとして、その頃にはもう俺の位置には違う誰かがいる」

澪    「大丈夫。戻れる場所は作る。私が」
亮    「無理だよ」
澪    「じゃあ、あの子のために生きてよ」
亮    「・・何を言ってる?」
澪    「あの子、亮に恋してたよ。カワイイね」
亮    「あいつは・・関係ない」
澪    「あなたがいなくなるって知ったら・・悲しむだろうな」
亮    「関係ないって言ってるだろ!」

 亮、立ち上がる。苛立ちの表情。
 澪、亮を見て何かを感じる。
 一瞬の間を置き、微笑む。
澪    「うん。分かった。ごめんね・・今日は帰る」
 澪、立ち上がり去っていく。