〇鬼頭心理研究所・外
「臨時休診」の貼り紙が貼られている。
〇同・受付
蝶子の姿が見えるが消える。
誰もいない。
〇同・カウンセリングルーム
繍の姿が見えるが消える。
誰もいない。
紗友里が入ってくる。
窓を開けて空気を入れ替え、深呼吸する。
紗友里の声「先生はまだ意識が戻らない。ここで一緒に過ごした日々が」
〇同・受付
紗友里がパソコンの電源を入れる。
メールと着信の履歴をチェックし、お詫びのメールや電話をしている。
紗友里の声「夢だったかのよう・・」
〇病院・病室(夕方)
繍が寝ている。
隣に座り、見つめる紗友里。
〇同・同(紗友里の夢の中)
繍を見つめている紗友里。
蝶子の声「先生! 起きてください! クライアントの方がお待ちですよ」
紗友里、驚いた表情で声のする方を見る。
蝶子が座り、繍を見ている。
紗友里「え? 蝶子さん?」
蝶子が紗友里を見て、優しく微笑む。
蝶子の姿が消える。
〇回想・鬼頭家近くの道(紗友里の夢・17年前・夕方)
繍(9)、誉(11)、紗友里(6)が歩いている。
紗友里は眠っていて、繍がおんぶしている。
誉「それにしても不思議だよ。この子だけ触っても大丈夫なんだろ?」
繍「うん」
誉、眠る紗友里を見る。
誉「替わるよ?」
繍「ううん、トレーニングになるから」
誉「そっか・・」
紗友里「う・・ん」
紗友里が目を覚ます。
紗友里「自分で歩く」
誉と繍、顔を見合わせ微笑み、繍は紗友里を降ろす。
紗友里は繍と手をつなぎ、歩き始める。
眠そうな顔をしている。
つないでいる繍の手が赤い。
〇病院・病室(夕方)
はっとして起きる紗友里。
紗友里「嘘、私、子供の頃先生に・・(繍の手を見る)会ってた?」
繍「う・・」
繍がうめき声を出す。
慌てる紗友里、ナースコールを押す。
紗友里「先生、大丈夫ですか?」
繍「あ~いってぇ・・」
紗友里「あ、今ナースコールしたんで。すぐ痛み止め打ってもらいましょう」
繍、痛みで顔を歪めながらも紗友里を見る。
繍「紗友里?」
紗友里、繍を見つめ何度も頷く。
繍、紗友里の手を握る。
繍「・・よかった、お前が無事で・・俺、言わなきゃ。お前のこと・・愛してるって」
紗友里「え?」
紗友里が呆然とする。
繍が微笑み、目を閉じる。
看護師が入ってくる。
看護師「どうしました?」
紗友里「あ・・今さっき意識が戻って、痛がってたんで押したんですけど・・また・・」
繍を見つめる紗友里。
繍は再び眠っている様子。
看護師「わかりました。鬼頭さ~ん、聞こえますか? 鬼頭さ~ん ダメですね。また目が覚めて痛がってたら教えてください」
紗友里「はい、ありがとうございます」
看護師が出て行く。
紗友里は呆然としたまま、ゆっくりと椅子に座る。
〇誉のマンション・リビング(夜)
紗友里が呆然としている。
繍に言われた「愛してる」という言葉が繰り返し脳裏をよぎっている。
紗友里M「なんで・・? 先生の顔と声が頭から離れない。頭では分かってる。ダメだって分かってる。けど・・」
スマホが鳴り、メッセージ着信。
誉『今日も遅くなるから、先に寝てて』
紗友里が両手で顔を覆い、ため息をつく。
〇病院・病室前
正が廊下に立っている。
警察官2名が病室から出てくる。
警察官A「鬼頭警部。ご協力ありがとうございました」
正「いや、うちのが迷惑かけたね。ご苦労様」
警察官2名が正にお辞儀をして去っていく。
〇同・病室
正、入ってきてベッドサイドの椅子に腰かける。
正「繍。疲れただろ。ありがとな」
繍「いや、俺が知ってること話しただけだ。涸沢、亡くなったんだな」
正「ああ。雷で近くの木が倒れて。事故だった。紗友里さんと蝶子さんがいなかったらお前も死んでた」
繍「うん。ごめん。紗友里の写真を見せられて・・つい」
正「言ったろ。ずる賢い連中だって」
繍「途中まではうまくやってるつもりだった。涸沢も救いたかったんだ。でもダメだった」
正「今回のことで、蝶子さんが故障した。誉君の会社も、そのことで大事なプロジェクトが延期になったそうだ。紗友里さんも一歩間違えたら死んでた。何よりお前が死にかけた。お前がやったことは、そういうことだ」
繍「そんな・・ごめん」
正「起きてしまったことは仕方ない。結局あの売春クラブの情報も、雷の影響でデータが消失していたそうだ。クラウド上にあるはずのデータもなぜか消えていた。もしかしたらもっと大きな組織が絡んでいるのかもしれない」
繍「そのことなんだけど・・」
正「なんだ?」
繍「さっきの警察官には言わなかったんだけど、『導きの会』が絡んでいた。俺と紗友里をゴダイ様に貢ぐとか・・」
正「なんだと?」
繍「涸沢も、自分が赤鬼だと知っていた。『導きの会』は鬼の力を統制のために使っているらしい。そのために方相士も雇われていると」
正「そんな・・あの噂は本当だったのか・・」
繍「ああ。まさか紗友里まで狙われるとは」
正「分かった。会長に伝えておく」
繍、頷く。
繍「そういえば涸沢は? 両親の元に?」
正「ああ・・いや。両親に涸沢の死亡を伝えたが、『死んでくれて良かった』と言われた。遺体も引き取りたくないと」
繍「・・なんだよ、それ。悲しすぎる」
正「ああ。辛いな。同じ親でもそういう人間がいることを知ってるが、やはり理解は出来ないよ。私はお前が生きていてくれて良かったと思っている。もう一度話せて良かった。お願いだからもう無茶なことはしないでくれ」
繍「父さん・・ごめん」
〇HKロボティクス・会議室
誉と社員が数名集まっている。
誉「進捗状況教えてください」
社員A「プログラムの修正を行いました。安全装置解除については、起動後の解除はできないように変更しました」
社員B「新素材の件ですが、まだ融解時のシュミレーションが全て終わっていないため、形や角度について検証中です」
社員C「他のリスクについては、こちらの表にリストアップしてあります」
誉「ありがとう。引き続きよろしく」
誉が会議室を出て行く。
〇病院・廊下
繍の笑い声が聞こえる。
紗友里のスマホが鳴る。誉からのメッセージ。
誉『今日は早く帰れそうだから、病院に行くよ。一緒に帰ろう』
紗友里が「OK」のスタンプを押す。
〇同・病室
繍が政子と笑顔で話している。
繍「あいつさ、顔ばっかり殴りやがって。完全にひがみだよな」
紗友里がノックをして入る。
紗友里「外まで笑い声聞こえましたよ」
繍「おう、紗友里。悪かったな。色々迷惑かけた。ごめんな」
紗友里「ホントです。こっちが死ぬかと思いました。あ、先生ごめんなさい。赤鬼逃がしてしまいました。」
繍「そんなこと(首を横に振る)お前がいなかったら俺は死んでたんだから」
政子「ホントよ~紗友里さんは命の恩人。でも良かった、意識が戻って。もうこんな無茶しないでよ」
繍「うん。反省してる」
政子「もう、口ばっかなんだから。昔からケガするの得意だもんね。今回のは今までで一番だけど」
繍が笑う。
政子「紗友里さん、私、一旦帰るわ。家のこともあるし。もう繍ちゃんは大丈夫でしょ」
紗友里「色々ありがとうございました」
政子「ううん。お礼を言うのはこっち。本当にありがとね」
紗友里「あ、誉さん今日来るみたいですよ」
政子「そうなの? あ~、でも私もまたすぐ来るから。じゃね」
政子が出て行く。
紗友里、繍と目を合わせない。
紗友里「あ・・誉さん来てるかも。私、ちょっと見てこようかな」
繍が紗友里の腕をつかむ。
繍「ちょっと待て。なんか変だ。俺の目を見ろよ・・っていっても片目だけどな」
繍が笑う。
紗友里が戸惑いながら繍の目を見る。
繍「何があった?」
紗友里「えっと、昨日目が覚めたの、覚えてます?」
繍「ああ、ぼんやりと。あんまちゃんと覚えてないんだよな」
紗友里「ですよね? そう。昨日先生寝ぼけてて、私を綺華さんと間違えたんです」
繍「・・俺、何か言ったのか?」
紗友里「あ、その、『愛してる』とか? もう、間違えるなんてひどい。綺華さんと私じゃ全然違うじゃないですか。私なんかと間違えちゃ、綺華さんかわいそうですよ」
紗友里が笑って繍から手を放そうとするが、繍が離さない。
繍「ごめん、それ、間違いじゃない」
紗友里が涙目で首を振る。
紗友里「先生、それ、言っちゃダメなやつ。お願い・・」
繍が紗友里の目を見る。
繍「言わないつもりだった。でも間違いじゃない。紗友里を愛してる」
〇同・病室外
誉が扉に手をかけたまま立ち止まって聞いている。
病室に入らず、スマホを操作しながら戻っていく。
〇誉の車・車内
誉が車に乗る。
屋代「あれ? 社長、どうしたんですか?」
誉「屋代さん、家までよろしく。気が変わった」
屋代「・・わかりました」
誉が険しい顔をしている。
屋代がバックミラー越しに心配そうに見る。
〇同・病室
紗友里がベッドに顔をうずめて泣いている。
繍が紗友里の頭をなでている。
繍「ごめん、困らせるつもりはない。いいんだ。誉のことが好きなんだろ。分かってるからさ。ていうか、振られたの俺だから。お前が泣くなよ」
紗友里「分かってない。先生は全然分かってない。私がどんな思いで先生のことを諦めたか、誉さんと付き合うことを決めたか、全然わかってない」
繍「諦めた?」
紗友里「だって先生、綺華さんと付き合ってたじゃん。私、見てるの辛すぎて、だから、先生のところ出て行こうって思って・・」
繍「ごめん、俺バカだからちゃんと分かるように言って」
紗友里「もう、ホントにバカ。先生のことが好きだって言ってるの」
繍「なんだよ、さっさとそう言え。え? そうなの?」
紗友里「何、その言い方、やっぱり今の撤回。やっぱり好きじゃない」
繍「なんだよ、それ。あ~腹立ってきた」
繍が紗友里を抱き寄せる。
紗友里「ちょっ、やめて」
繍「じゃあ、お互い好きってことじゃん。それに・・気付いてる? 俺、お前に触っても平気なの」
紗友里が頷く。
紗友里「私、昔先生に会ってた・・」
繍「俺も思い出した。1人だけ触っても大丈夫な女の子がいた・・」
二人、視線が絡まる。
顔を近づけるが、紗友里が顔を背ける。
紗友里「・・ごめん、でもやっぱ無理。誉さん裏切れない」
紗友里がゆっくりと体を離す。
ノックをして看護師が入ってくる。
看護師「面会時間そろそろ終わりですよ。鬼頭さん、お食事準備お願いしますね」
紗友里「すみません。すぐ帰ります」
紗友里が繍の方を見ずに病室から出て行く。
〇道~カフェレストラン(夜)
紗友里が泣きながら歩いている。
立ち止まり、スマホを見る。
誉からのメッセージ。
誉『ごめん、仕事が長引いてて今日、病院には行けそうもない。直接家に帰る』
再び歩き出すが、レストランの前で立ち止まる。
繍と初めて会ったレストラン。
紗友里「懐かしい・・」
〇誉のマンション・リビング(夜)
誉がソファに座っている。
紗友里が入ってくる。
紗友里「ただいま」
誉は、紗友里の泣き顔に気付くが、気付いていないフリをする。
誉「おかえり、紗友里。ご飯まだでしょ?」
紗友里「うん」
誉「今和泉に準備してもらってるから。すぐできると思うよ」
紗友里「うん。ありがとう」
紗友里が誉の横に座り、腕を絡める。
誉は紗友里の頭をなでる。
誉「今日、病院行けなくなっちゃってごめんね。どうだった?」
紗友里「うん、繍さん、意識戻ったよ。全然元気だった」
誉「そっか、よかった」
紗友里「ねえ・・」
誉「ん?」
紗友里「今したい、ダメ?」
誉「・・何かあった?」
紗友里「ううん。久しぶりにこんな時間に会えたから嬉しくて。私を誉でいっぱいにしたい」
誉が紗友里の目を見つめ、キスをする。
〇HKロボティクス・社長室(翌日)
誉が考え事をしている。
悦子がノックをして入ってくる。
悦子「捺印お願いします」
誉が無言で捺印する。
誉「お待たせ」
誉が書類を悦子に渡す。
苛立つ様子の悦子、
悦子「おい」
誉「?」
悦子が社長室のドアを閉める。
悦子「顔が死んでるぞ。どうした? 悦子様のお悩み相談室開こうか?」
誉「あ~そういうのいいわ。人の意見とか興味ないし」
悦子「出たよ。ワガママ王子」
誉が吹き出す。
誉「なに、それ? 新しいあだ名?」
悦子「やっと笑った。何? うまくいってるんじゃないの? 例の彼女と」
誉「う~ん、そうなんだけどさ。彼女、他に好きな男、いるんだよね」
悦子「何それ」
誉「あ、彼女が言ったわけじゃないよ。他に好きな男がいても、一生懸命僕のことを好きになろうとしてくれてる」
悦子「・・やめなよ、そんな子」
誉「知ってたんだ、彼女の気持ちは。僕は元々応援するつもりだった。でも今は、渡したくないって思ってしまっている」
悦子「・・珍しいね、誉がそんなに一人の子に執着してるの、初めて見たかも」
誉「僕だって初めてだよ。正直戸惑ってる。昔の自分が思い出せないんだ。なんであんなにすぐ終わりにできたのか。これが恋愛だとしたら、こんなに苦しい思いをみんなしてるんだろうか」
悦子「・・たぶんね」
誉「(苦笑い)すごいな、みんな」
悦子「『愛せるって素晴らしい』って言ってたじゃん。今感じてる嫉妬とか、やるせなさって多分セットだと思う。それだけ彼女のこと、好きだってことじゃないの? 良かったじゃん。人を愛せることが分かって」
誉「それ、今言う? 少しくらい優しくしてよ」
悦子「ハハハ、恋愛を舐めきってたアンタの今までの行いの報いが今来てると思って、もう少し苦しみなさい。ま、アンタが振られたら慰めてやるわよ」
誉「分かった。その時はよろしく頼むわ」
悦子「じゃ、行くわ。あ、ドア。閉めとく?」
誉「ああ、お願い」
悦子がドアを閉め、息をつく。
顔を上げ、歩き始める。
〇病院・病室
紗友里が顔を出す。
紗友里「お見舞い来ました。暇じゃないかな~と思って、本とか、雑誌とか持ってきましたよ。他に何か欲しいものあります? 言ってもらえば持ってきますよ」
繍「なあ」
紗友里「え? 何かあります? リクエスト」
繍「なかったことにするつもりなのか? 昨日のこと」
紗友里「昨日? 何のことですか?」
繍が舌打ちする。
繍「そういうの、やめろよ。逃げんな」
紗友里「何言ってるの? 私、誉さんと付き合ってるんだよ。一緒に住んでる」
繍「じゃあ、昨日俺のことが好きだって言ったことは? それもなかったことにするのかよ」
紗友里「・・もう遅いの。あれは過去の話。今私が好きなのは誉さんだから」
繍「じゃあなんでそんな顔してんだよ」
紗友里「そんな顔ってどんなよ」
繍「何かを我慢してる顔。辛そうな顔。好きな奴と住んでるんだったら、幸せそうな顔してろよ」
紗友里、笑顔を作る。
紗友里「これでどう? 幸せだよ、私」
繍「やめろ。自分には嘘つくな。そんな顔見たら、奪いたくなるだろ」
紗友里「やめてよ、何も知らないくせに。私の世界を壊さないで」
繍「なんでだよ。お前が壊したくない世界ってどこにあんだよ。そんなに我慢して、それでも壊したくない世界ってどんな価値があるんだよ」
紗友里「傷つけたくないの。私、すごく辛い時に誉さんに優しくしてもらった。本当に救われたの。そんな人を裏切るなんてできない」
繍「じゃあお前はずっとそうやって我慢して生きていくつもりなのか? 自分だったら裏切ってもいいのか?」
紗友里「私は! お母さんと約束したの。危険な仕事をしない。穏やかで優しい人と結婚するって・・誉さんと別れたら、お母さんも裏切ることになる」
繍「なんだよそれ。死んだ母親と約束したからってお前、誉と付き合ってるのか? 失礼すぎんだろ、誉にも、自分にも」
紗友里「先生に言われたくない。私は、これで幸せになるの。大丈夫。誉さんのこと、これからもっと好きになるから。先生なんか忘れちゃうくらい、誉さんのこと大好きになるんだから」
繍「死んだ母親を言い訳にして逃げてるだけだろ。自分で自分に呪いをかけるな。亡霊なんかの言うことを聞くな。死んだ奴は、そこで時が止まってる。生きていれば、考えも変わる。言うことも変わる。でも、それでいい。お前の母親の本当に言いたかったことは、なんだ? お前に『幸せになってほしい』だろ。表面上の言葉に惑わされんな。いいか、もう一度お前の中にいる母親とちゃんと話をしろ。あの時言ったことはどういう意味なのか、紗友里は今どうしたいのか、話せ。俺は、お前の母親がどんな人かよく知らん。けど、俺だったら、すっげえ大切な人が自分の言った言葉で苦しんでたら『違う、そういう意味で言ったんじゃねえよ』て訂正すっけどな。お前が自分の心に従って動けば、誰もなんも言わねえだろ」
紗友里「もうやめて・・」
繍が紗友里を抱き寄せる。
繍「ごめん。責めてるわけじゃない。俺、紗友里のことが好きだ。紗友里は過去の話っていったけど、今のお前を見てるとそんな風に思えない。ほら、俺自己中だからさ。勘違いならごめん。誉のことが好きなら、それはそれでいいんだ。でも、お前がもし、今も俺のことが好きなら、一緒に誉に話そう。時間はかかるかもしれないけど、きっと分かってくれる。大丈夫。心配するな。俺、今のお前を見てると、諦められない」
紗友里が体をゆっくりと離す。
紗友里「お願い。誉さんには言わないで。私のことを愛しているなら、そっとしておいて。ここにももう1人では来ない」
〇HKロボティクス・会議室
誉と社員が数名集まっている。
誉「みんな、ありがとう。これでなんとか報告できそうだ」
〇関連機関・会議室
守が報告している。
守「今回の件では大変ご心配とご迷惑をおかけしました。あの件をきっかけに安全対策を大きく見直し、改善いたしました。ハード・ソフト両面から対策をいたしましたので、もうこの前のようなことは起きません。加えて万が一転倒した際の安全策も今回改良いたしました」
職員「ありがとうございます。この短期間でよくここまで対策を考えていただいたと驚いています。こちらでも検証いたしますので、2か月程度の延期で済みそうですね。ご苦労様でした。また検証結果はご連絡いたします」
誉、守が頭を下げる。
職員が出て行く。
〇誉のマンション・リビング
誉がソファに座っている。
紗友里がマグカップをテーブルに置く。
誉「結婚しようか」
紗友里「え?」
誉「前から考えてたんだよね。どうかな?」
紗友里が誉に抱きつく。
無言で頷く。
〇同・誉の寝室(夜)
雨の音。
雷鳴が聞こえる。
誉と紗友里、寝ている。
紗友里、横になっているが声を出さずに泣いている。
雷が光る。
誉の中に鬼が見える。
〇病院・廊下
誉が足早に歩いている。
〇同・病室
誉が入っていく。
誉「おい、繍」
誉が繍の胸倉をつかむ。
繍「誉? どうした?」
誉「どうした? ふざけるな。紗友里に何を言った? お前が意識を取り戻してから、紗友里の様子が変だ。ずっと我慢してた。お前がかわいそうだから。母親に捨てられて、人に触れると蕁麻疹ができて、年中長袖着てるお前がかわいそうだから、我慢してやってた。鬼が見えて、みんなにかわいがられて、可哀そうって言われてさ、僕がどれだけ惨めだったか分かるか? 鬼退治の家系に生まれたのに、鬼が見えないって屈辱だよ。でもお前が来るまではまだよかった。お前が来てからはお前があの家の中心になった。紗友里のことも、せっかくうまくいってたのに、お前のせいで、紗友里は・・」
繍「誤解だよ。俺は邪魔をするつもりなんてなかった。結果的に紗友里に俺の気持ちを伝えることになっただけだ。でも、ごめん。そんなつもりはなかったんだ」
誉「知ってるよ。お前に悪気がないことは。でも悪気がないから何をしてもいいわけじゃないんだよ。お前なんていなければよかったんだ。いなくなれば紗友里も諦めがつく」
誉が繍をベッドに押し付け、繍の首を絞める。
国政、匡、華世が入ってくる。
匡「誉? 何をしてる」
国政と匡が誉を引き離そうとするが、離れない。
国政が舌打ちをし、短刀を取り出す。
国政「鬼がいる。匡、どいてろ」
匡「父さん、下には繍が」
国政「分かってる。大丈夫だ」
国政が短刀で誉を斬る。
赤い鬼が飛び出し、華世の頭に乗る。
誉が手を緩め、崩れるように座り込む。
泣いている。
誉「僕は・・なんてことを・・」
匡、赤鬼を鏡の中に入れる。
国政、繍に慌てて近寄る。
国政「繍、大丈夫か?」
繍が咳き込みながら
繍「大丈夫。俺が悪い」
繍の首が赤くなっている。
咳き込みながらサイドボードに入っている薬を飲む。
匡は誉に駆け寄る。
匡「誉、大丈夫か?」
誉が頷く。
国政、憐れむような表情で誉を見つめる。
国政「・・鬼にやられたな」
誉「・・鬼・・」
繍「誉・・今までごめん。そんな風に思ってたなんて俺、分かってなくて。でも、俺はずっと誉が羨ましかった。いつも冷静で、賢くて、誰に対しても優しくて、気配りができて・・自慢の従兄だった」
誉「がっかりしただろ」
繍「いや、嬉しかった。誉の声が初めて聞けた気がする。俺のこと、そう思っててもおかしくない。だって実際、急にお前の生活に俺が入っていったわけだしな。けど、ずっとそれを言わなかったのは、我慢してくれてたのは、誉の優しさだと思う。さっき言ったこと、もちろん本音もあると思うけど、俺は、今までずっと誉が俺に対して優しくて温かく接してくれたことを知ってる。さっき一瞬言われたことなんて吹っ飛ぶくらい、俺は誉に対して感謝してる」
誉「繍・・ごめん。紗友里ちゃんのことも、最初はからかうだけのつもりだった。二人が両想いだって知ってた。でも、いつの間にか、繍に渡したくなくなってた」
繍「いや、もう違う。今は誉が好きだからって振られたよ。あいつは、もうここには一人で来ないって言ってた」
誉「・・」
繍「それから、蝶子のこと、本当にごめん。父さんから聞いた。俺を助けるために、故障したって。会社も大変だったんだってな。ごめん。本当に迷惑かけた」
誉「いいんだ。逆に良かったって今は思ってる」
華世「仲直りできたみたいで良かった。事情はよく分かんないけど、どうせ紗友里のせいなんだろ。悪いね、うちの孫が迷惑かけてさ。あ、娘もだった」
華世が匡の方を見て笑う。
匡「華世さん、あのことはもう・・勘弁してください」
繍「え? なに?」
匡「紗友里ちゃんのお母さんに俺が振られた話だよ」
国政「それを言ったら、わしも華世ちゃんに何回振られたか。鬼頭家は龍女に片思いする運命なんじゃよ、きっと」
〇誉のマンション・リビング(夜)
誉がソファに座っている。
紗友里がマグカップを置く。
紗友里「誉さん、あのね――」
誉「デート、しようか?」
紗友里「え?」
誉「ほら、デートしたいって言ってたよね?」
紗友里「あ・・うん」
誉「明日の夕方、出かけよう。迎えに来る」
〇同・前(翌日夕方)
車が停まっている。
誉が車の横に立ち、ドアを開ける。
誉「どうぞ」
〇結婚式場・チャペル(夕方)
誉が新郎姿で立っている。
紗友里がウエディングドレス姿で現れる。
見とれる誉に気付き、微笑む紗友里。
紗友里「何、これ?」
誉「疑似結婚式だよ。面白いでしょ」
紗友里「誉、すっごい素敵! カッコいい!」
誉「紗友里もきれいだよ」
カメラマンの指示で何枚か写真を撮る。
嬉しそうな紗友里を見つめる誉。
〇家具店・店内(夕方)
誉と紗友里が店内を歩いている。
誉「今の部屋、紗友里の好きなインテリアに変えてよ」
紗友里「え? いいの? 悩むよね~ あ、こういうのも素敵!」
はしゃぐ紗友里を誉がほほ笑んで見つめる。
〇雑貨店・店内(夕方)
誉と紗友里が店内を歩いている。
紗友里「あ、このカップすごいね、2つで並べるとくっつく。面白い!」
誉「気に入ったなら買おうか?」
紗友里「ううん、まだいい。もうちょっと悩みたい」
紗友里の嬉しそうな顔を眺める誉。
〇レストラン(夜)
個室。
誉と紗友里が食事をしている。
紗友里「なんか懐かしい。昔、誉と一緒に中華料理食べたね。美味しかったな~ あ、今日のお料理もすっごい美味しい!」
誉「喜んでくれて嬉しいよ。結婚したら、週末はこうして一緒に食事をしよう。もし子供ができても、2人の時間を作ってでかけよう」
紗友里が笑顔で頷く。
〇道(夜)
誉と紗友里が並んで歩いている。
誉「どうだった? 今日のデート」
紗友里「うん、すっごい楽しかった。色々考えてくれてありがとう。誉、大好き」
誉「よかった。どうかな? これが、僕が紗友里に用意できる『穏やかな生活』だよ。結婚後の生活、イメージできた?」
紗友里「うん・・」
誉が紗友里を抱きしめる。
誉「繍の仕事はもう、手伝うのをやめてほしい。僕の実家に住む話も、今回の事故があって、やっぱりちょっと難しいことが分かった。でも紗友里が神社で働くことになったら、平日会うのは難しくなるだろうから、僕は寂しい。できれば毎日会いたい。働いてもいいけど、男性のいる職場で働く紗友里を想像したくない。どう? もっとイメージできた?」
紗友里の脳裏に、誉のマンションで1人で待つだけの自分の姿が浮かび、思わず体が強張る。
それに気付いた誉はフッと笑う。
誉「子供の頃、紗友里に会ってるんだ。繍にやたら懐いてて、男の子たちに混ざってチャンバラごっこしてた。おままごととか、人形遊びとか、全然興味がなくてさ」
誉が思い出したように笑う。
誉「人形とか投げてたよ。いつだったかキレて回し蹴りしたって聞いて、変わってないな~って思った」
紗友里が固まっている。
誉が紗友里の頭を撫でる。
誉「僕は、そういう紗友里も好きなんだ。だけど、僕は一緒にいたら心配の気持ちの方が大きくなって、紗友里の行動を制限したくなってしまう。ここ最近の紗友里はずっと我慢してる顔をしてた。今日もずっと楽しそうにしようって頑張ってた。今でも繍が好きなんだよね? 危なくても、大変でも、刺激的な毎日を求めちゃうんだよね。・・もう、我慢しなくていいし、頑張らなくてもいい。別れよう」
紗友里が誉を見て首を振る。
紗友里「嫌だ、別れない。私は、私が言ったことに責任がある。誉さんと終わりのない恋をするって約束した。結婚するって約束した」
誉「うん。嬉しかった。でもそう思ってくれただけで充分。約束のことは、気にしなくていい。僕はこれからもずっと紗友里ちゃんのことが好きだよ。・・好きにはいろんな形がある。そういう終わりのない形もある」
紗友里「じゃあ、誉さんは? 誉さんを一人になんてできない。ホントはすっごい寂しがり屋なのに。私知ってる」
誉「大丈夫、僕モテるから。前に言った、『人を愛せない』っていうのも嘘なんだよね。あれ言うと大抵の女の子は落とせるから。紗友里ちゃんも大したことなかったよ」
紗友里「嘘。そんなの嘘」
誉「さ、恋人ごっこはもう終わり。迎えがきた」
車が目の前に停まる。
誉がドアを開け、紗友里を乗せる。
誉が紗友里に冷たく言う。
誉「僕は今日帰らない。明日、僕が帰るまでに荷物をまとめて出ていってほしい。鍵は和泉に渡しといて」
紗友里、誉のいつもと違う冷たい雰囲気に飲まれる。
誉が運転手の方を向く。
誉「じゃあ、よろしく」
運転手「承知しました」
誉が紗友里に目を合わさず、ドアを閉める。
車が立ち去る。
〇バス停・ベンチ(夜)
誉が待合のベンチに呆然とした様子で座っている。
バスが止まり、ドアが開くが、また閉まり、去っていく。
〇誉のマンション(夜)
紗友里が泣きながら荷物をスーツケースに詰めている。
〇HKロボティクス・社長室(夜)
誉が暗い中電気も点けず座っている。
手には紗友里との疑似結婚式の写真。
ドアが開いているのを不思議に思った悦子が入ってくる。
悦子「うわ、なに、びっくりした。どうした、電気も点けずに。今日は早く帰らなかったっけ?」
悦子が電気を点ける。
誉「あ、悦子。ごめん。ちょっと考え事してた」
誉が机に写真をしまい、おっくうそうに体を起こす。
誉「何?」
悦子がドアを閉める。
誉の椅子をくるりと回し、自分の方に向ける。
悦子「アンタ今どういう顔してるか分かってる?」
誉「いや、でももうどうでもいい。早く元の自分に戻りたい。何も感じなかった頃の自分に戻してほしい。こんなに痛いなら、もう愛なんていらない」
悦子「・・バカね。痛いのは本当の愛じゃないのよ。痛みはね、気付かせるためにあるの。そっちじゃない、って」
悦子が誉にキスをする。
誉がゆっくりと悦子を見る。
悦子「今ね、失恋の傷を体からアプローチして癒す研究、してるのよ。誉、実験台になってよ」
誉「うん、いいよ」
悦子「じゃあ、ここだと続き出来ないから、うちに来る?」
誉「ヤダ、猫がいるから気が散る」
悦子「じゃあ、誉のとこは?」
誉「無理。彼女がまだいる」
悦子「もう。じゃあ、ホテルでいいわね?」
悦子が机に腰かけ、スマホでホテルの検索を始める。
誉「うん。あ、でも狭いとこはヤダ。最低でも30㎡」
悦子「もう。ホントワガママなんだから。彼女にもそのくらいワガママで良かったんじゃないの? どうせかっこつけてたんでしょ」
誉「カッコつけたいって思って何が悪いのさ」
誉が立ち上がり、悦子のスマホを取り、机に置く。
悦子「ちょっと」
誉が悦子にキスをする。
以後、お互いに慰めるようなキスをしながら会話が続く。
誉「ごめん、悦子。悦子の気持ち、ホントはずっと気付いてた」
悦子「知ってる。っていうかアンタが気づかないはずないもん」
誉「・・僕の今やってること、最低だよね」
悦子「うん。最低。でも今のボロボロの誉に付け込んでる私も最低。だけど・・」
悦子が誉を見つめる。
悦子「その最低の誉も、カッコつけてる誉も、なんでもすぐロボットに結びつけちゃう誉も、全部丸ごと愛してる。そういう自分が私は好きなんだ」
〇誉のマンション・ダイニング
紗友里がキャリーケースを持ち、和泉に挨拶している。
紗友里「和泉さん、短い間でしたが、お世話になりました。ありがとうございました」
和泉「いえ、少しはお役に立てましたでしょうか?」
紗友里「少しどころかたくさん助けられました。ありがとう」
和泉「光栄です。最後に、誉様から伝言をお預かりしておりますが、お聞きになりますか?」
紗友里「伝言? はい・・」
和泉「(誉の声)紗友里ちゃん。短い間だったけど、紗友里ちゃんと暮らせて本当に楽しかった。紗友里ちゃんのことだから、遠慮したり、自分を責めたりして、華世さんのところに帰ろうと思っているかもしれないけど、どうか、繍のところへ行ってあげてほしい。繍も不器用なやつだから、今頃になってようやく君を好きだったと気づいたんだと思う。僕はとっくに分かってたけど、黙ってた。ごめん。ズルいのは僕の方だったね。今までありがとう」
ピーっという機械音が鳴る。
和泉「伝言メッセージは消去いたしました」
紗友里が泣いている。
和泉がハンカチを差し出す。
和泉が紗友里をそっと抱きしめ、頭を撫でる。
紗友里が泣きながら笑う。
◯病院・病室
繍のスマホが鳴る。
誉からのメッセージ。
誉『紗友里ちゃんとは別れた。もし繍のところに来たら、受け入れてあげてほしい』
〇紗友里の部屋・リビング
紗友里が電話をしている。
紗友里「あ、もしもし、おばあちゃん? 私、やっぱりもう少しこっちにいることにする。え? なに? 分かってた?」
紗友里が首を傾げる。
また電話をしている。
紗友里「あ、もしもし、引っ越しの件なんですが、すみません。ちょっと事情が変わってキャンセルで・・すみません」
紗友里がしずかの写真に向かって話しかける。
紗友里「ごめんね、お母さん。私やっぱり自分の心が震える人と一緒にいたい。仕事も、危険かどうかは自分で決めるから。心配かもしれないけど、見守ってて」
テレビには冒険家の小川尚が映っている。
アナウンサー「本日のゲストは冒険家の小川尚さんです。先日世界1周ヨットレースの旅を無事に終えられたんですよね? 日本は17年ぶりとお聞きしましたが」
小川「はい、久しぶりの日本で皆さんに温かく迎えていただき感謝しています」
アナウンサー「印象に残ったことについて教えていただけますか?」
小川「心が震えました。夜、星空の下では、自分が宇宙の中に浮かんでいることを実感できました。不注意でけがをしてしまった時は、自分の体で呼吸ができている、ということだけでも感謝し、感動しました。僕はこういう生き方しかできませんが、毎日、生きていることの喜びを感じています。どうか、皆さんも自分の心に従い生きる喜びを感じてもらいたいと願っています」
アナウンサー「そうはいっても我々には難しいですけどね。本当にお疲れさまでした。ゆっくり休んでください」
小川がお辞儀をして去っていく。
〇病院・病室
紗友里が入っていく。
繍が眠っている。
ベッドサイドの椅子に座り、繍の眠る様子を見つめる紗友里。
穏やかな笑顔。
X X X
紗友里が寝ている。
繍が目覚め、寝ている紗友里に気付き一瞬驚くが、
温かなまなざしで見つめる。
顔にかかった髪をそっと動かすと、紗友里が目を覚ます。
紗友里「あ、寝ちゃってた。ごめんなさい。先生寝てたから。見てたらいつの間にか・・」
繍「もう会えないかと思った」
繍が紗友里の顔に自分の顔を近づける。
紗友里が受け入れ、二人の唇が重なる。
ゆっくりと顔を離し、紗友里が繍の目を見つめる。
紗友里「先生のことが好き。過去じゃなくて、今も。ずっと逃げてた。苦しくて逃げたはずなのに、ずっと苦しかった。そんな私を見て、誉さんが別れようって言ってくれた。結局誉さんを傷つけた。だからもう誰にも嘘をつきたくない。先生といると、心が跳ねるの。自分でも止められない」
繍が紗友里の髪を撫でる。
繍「俺、仕事の仲間としてお前を尊敬してた。だからこそ、お前のことをそういう、恋愛の対象として見ないようにしてたし、絶対に手を出さないって決めてた。でも、誉がお前と付き合うって言い出した時、いつの間にかお前を好きになってたことに気付いた。そういう自分を許せなかったし、ずっと言わないつもりだった。でもこの前の事故で、自分が生きていることが当たり前じゃないってことに気付いた時、言わずにいられなくなった。紗友里、愛してる」
〇鬼頭心理研究所・受付(退院当日)
繍と紗友里が入ってくる。
紗友里「あれ? みんな待っててくれてるはずなのに・・」
紗友里がキョロキョロする。
全員「サプラーイズ」
クラッカーが鳴り、電気が点く。
全員「退院おめでとう」
繍「ただいま。みんなありがとう」
誉の隣に悦子が腕を組んで立っている。
紗友里「誉さんも、来てくれたんですね。あの・・その方は・・」
誉「あ、悦子。今の彼女」
紗友里「え? 誉さんいつの間に?」
誉「ほら、言ったでしょ。僕モテるんだって。後悔してももう遅いよ」
紗友里「あ・・ちょっと後悔したかも。でも幸せそうで良かったです」
悦子が笑ったまま口を動かさずに誉に話す。
悦子「だからかっこつけすぎなんだって」
誉「いいじゃん。最低な僕が好きなんでしょ、悦子は。悦子以外誰にも見せないからさ」
悦子「誤解しないで。最低な誉がじゃなくて最低の誉もよ。カッコつけてる誉もたまには見せてよ」
蝶子が顔を見せる。
蝶子「先生、退院おめでとうございます。紗友里さんもご無事で何よりです」
繍・紗友里「!」
繍「え? 蝶子? なんで?」
紗友里「でも私の目の前で確かに・・」
誉「この日に合わせて急がせた。中身は蝶子のままだよ」
繍「すげ~」
紗友里「なんか前よりスタイルよくなってる気が・・」
蝶子「はい、現在のトレンドに合わせ、私の希望を入れてもらいました」
紗友里が蝶子に抱きつく。
紗友里「生きてて良かった・・あれ? 生き返って良かった? とにかくまた会えて嬉しいです」
〇同・ミーティングルーム
パーティの飾り付けがされている。
サイドテーブルの上に鬼の入った瓶が並んでいる。
みんなが雑談をしている。
国政が繍に話しかける。
国政「繍、この前誉から捕まえた鬼だが、まさかと思ったが茜の時の青鬼と対だった」
繍「え? じゃあ・・あの事故の日から?」
国政「誉が珍しく執着したのも、もしかしたらこいつが原因かもな。まあ、お前は気にするな」
国政が蝶子に声をかける。
国政「蝶子さん、じゃあ、電気を消してくれ」
蝶子「はい、承知いたしました」
繍「じゃあ、恒例の儀式始めるぞ」
部屋が暗くなる。
国政と繍が瓶を開けると赤鬼と青鬼が飛び出し、くるくると回る。
高速で回りだし、光に包まれる。
光が勾玉の形に変わり、胎児の形に変わる。
〇導きの会・個室(夜)
中央にベッドが置かれている部屋。
ベッドの中央には女性が横たわり、動いていない。
眼鏡をかけた無表情の男性が女性に心臓マッサージをしている。
女性の呼吸が戻り、ゲホゲホと咳き込む。
無表情だった男性の表情が少し緩んだように見える。
女性は綺華であり、ゆっくりと体を起こし、窓際の男性をうっとりとした表情で見つめる。
綺華「ゴダイ様・・」
窓際に立っていた恰幅の良い男性が近づき、綺華の唇をゆっくりと指でなぞる。
ゴダイ様「今宵、新月とともに新たなゴダイが生まれた・・」
〇同・地下大広間(夜)
スクリーンに映る綺華の姿。
それを見守るようにして見つめる信者。
それぞれ白いお揃いの衣装を着て、左耳にはピアスのように石が埋め込まれている。
綺華の目覚めとともに信者たちの叫び声が響き続ける。
〇情景(夜)
新月が浮かぶ暗い夜空。
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