1話あらすじ:今年中学を卒業したミズキは、人目を避けるように昼間は家にこもり、夜になると出かけていく。ミズキが高校に行かなかった原因は、戸籍がないこと。生まれたときに出生届を出されていなかったことを最近知ったミズキは、母親ともうまくいっていない。唯一の楽しみは、路上ライブで知り合った大夢と会うことで・・ 15分×30話予定。

フィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

〇街並み(夕方)
住宅街。
昭和の頃に建てられたと思われる住宅が並んでいる。
その中に、青い屋根の平屋建ての家がある。

〇ミズキの家・外(夕方)
青い屋根の平屋建ての家。
屋根の青色は日焼けし、くすんでいる。
犬小屋があるが、犬はいない。
家庭菜園があり、ミニトマトやパセリ、ねぎなどが植えられている。
道沿いに置かれた郵便受け。
郵便受けも日焼けしており、コンクリートブロックの上に乗せられている。住所のみ、名字は書かれていない。

〇同・和室(夕方)
カレンダーがかかっているが、3月のままになっている。
卒業式の日に赤丸が書かれている。
部屋の隅に中学校のリュックが置かれ、
その横には卒業証書の筒が無造作に横たわっている。
乱れた部屋の中に一組の布団。
盛り上がった布団の中では、若い女性・川島ミズキ(16)が丸まって寝ている。
ゴールデンレトリバーのレオ、入ってきて座り、ミズキの顔を見つめている。

〇街並み(夕方)
新聞屋のバイクがミズキの家の前を通り過ぎていく。

〇ミズキの家・和室(夕方)
バイクの音。
レオ、耳を持ち上げる。
立ち上がり、ミズキの顔をなめ始める。
ミズキ、顔をしかめる。
ミズキ「ん・・」
レオ、ミズキの体に乗り、顔をなめ続ける。
ミズキ「分かった、分かったから。レオ、下りて。苦しい」
ミズキ、レオをどけ、体を起こす。
ミズキ、目をこすりレオを見つめる。
レオ「ワン!」
ミズキ、微笑みレオを抱きしめる。
ミズキ「おはよ~ 愛してるよ、レオ」
ミズキ、部屋の隅に置かれたリュックと卒業証書の筒を横目で見る。
レオ「ワン!」
ミズキ「ごめんごめん、お腹空いた?」
ミズキ、立ち上がり布団をたたみ始める。
ミズキ「すぐご飯にするからね」

〇同・キッチン(夕方)
レオ、床で餌を食べている。
ミズキ、しゃがんで笑顔でレオを見ている。
ミズキ「じゃ、こっちのご飯も作るか!」
ミズキ、立ち上がる。

〇同・庭(夕方)
ミズキ、人がいないことを確かめるように、警戒して出てくる。
ハサミを持ち、ミニトマトをボウルに入れる。
同様にパセリもボウルに入れる。

〇同・キッチン(夕方)
ミズキ、料理をしている。
玄関の開く音。
ミズキの祖母・川島美津子(63)入ってくる。
美津子「ただいま~」
ミズキ、料理の方を見たまま
ミズキ「おかえり。もうすぐできるから」
美津子、ミズキを見て微笑む。
美津子「いい匂い。ミズキ、いつもありがとね」
ミズキ、振り返り笑顔で頷く。
美津子、笑顔で頷く。

〇同・縁側(夕方)
美津子、猫に餌をあげている。
猫が食べる様子を見ながら、
美津子「ん~、おいちいね」
ミズキの声「おばあちゃん、できたよ~」
美津子、猫を撫でている。
猫、美津子を見てニャ~と鳴く。
美津子「まだ食べる? ん?」
ミズキ、歩いてくる。
ミズキ「おばあちゃん!」
美津子、体をビクッとさせる。
猫、走って去っていく。
ミズキ「だめだよ。この前注意されたばっかじゃん! 野良猫が増えて困るって」
美津子「でもかわいいんだもの。頑張って生きてるんだよ。あんなにちっちゃいのに」
ミズキ「だからって! 近所の人にまた嫌味言われちゃう」
美津子「でもね・・頼ってこられるとかわいそうになっちゃって」

ミズキ、息を吐き、美津子の隣に座り背中を触る。
ミズキ「分かったから。ご飯にしよ」
美津子、頷く。

〇同・食卓(夕方)
ミズキ、手を合わせる。
ミズキと美津子「いただきます」
二人、食べ始める。
レオ、ミズキの傍に座り、目をつぶっている。
美津子「今日も行くの?」
ミズキ「・・うん」
美津子「そっか。気を付けるんだよ」
ミズキ「うん。大丈夫。レオもいるし」

ミズキ、レオの方を見て微笑む。
美津子、ミズキに何か話そうとするが言葉を飲み込む。

〇同・洗面所(夜)
ミズキ、鏡の前で髪を梳いている。
自分の顔を見つめ、笑顔を作る。

〇同・玄関(夜)
ミズキ、靴を履いている。
レオが傍にいる。
美津子、ミズキに近づいてくる。
美津子「気を付けるんだよ」
ミズキ「分かってる」

ミズキ、振り返り美津子を見て笑顔を作る。
ミズキ「レオもいるし。ね、レオ」
レオ「ワン!」

美津子、ため息をつきながら座る。
美津子「ミズキ、お母さんとは?」
ミズキ、うつ向いている。
美津子「ちゃんと話しな、ね」
ミズキ「おばあちゃんは黙ってて! 大体私が高校行けないの、お母さんのせいじゃん!」
美津子「そんなこと。どれだけ真紀が大変だったか」
ミズキ「そんなの私に関係ないし! 勝手に産んどいて、私に苦労させてるの、お母さんでしょ!」
美津子「・・」
ミズキ「ごめん、おばあちゃん。おばあちゃんに怒ってるわけじゃないから。もう、時間ないから・・行くね」

ミズキとレオ、出て行く。
玄関の扉がしまる。
美津子、扉がしまるのを見ている。

〇道(夜)
ミズキとレオ、歩いている。
レオ、ミズキを心配そうに見上げている。
ミズキ「レオ、ごめんね。大丈夫だから。じゃ、駅まで競争」
ミズキとレオ、走り出す。
ミズキ、徐々に笑顔になる。

〇オープニング『約束』

 

 

[歌詞]
そう僕は
選んで生まれてきた
顔も声も名前さえも
君に見つけてもらえるように

そう君も
選んで生まれてきた
国も家も時代さえも
僕がすぐに見つけられるように

太陽が眠ったら
月が顔をのぞかせたら
会いに行くよ
生まれる前からの
約束だから

太陽が眠らなくても
月がいない時でも
会いに行くよ
生まれる前からの
約束だから

〇駅前(夜)
カジュアルな服装の大学生・駒谷大夢(こまやひろむ・21)、

ギターを弾きながら歌っている。
大夢の前には、『HIROMU』と書かれたチラシが置かれている。
ファンの女性たち、大夢の歌う様子を見守っている。
ミズキとレオ、走ってくる。
ミズキ「すみません」
人ごみをかき分けるようにして座り、
笑顔で大夢を見つめる。
大夢、ミズキを見て微笑む。
ミズキ、照れたように笑い、会釈する。

〇大夢の歌『今』

 

 

[歌詞]
昨日の後悔も
明日の不安も
今この瞬間に
溶けて消えていく

目の前の風景を
感じるだけでいい
過去も未来も
忘れてしまおう

今を生きるんだ
この瞬間を抱きしめて
今を生きるんだ
輝く一瞬を
未来はまだ来ない
過去はもう戻らない
今を生きるんだ
ここにいることを感じて

笑顔も涙も
全部が宝物
心の中に
刻み込まれていく

昨日の夢も
明日の希望も
今この瞬間に
溶け込んでいく

今を生きるんだ
この瞬間を抱きしめて
今を生きるんだ
輝く一瞬を
未来はまだ来ない
過去はもう戻らない
今を生きるんだ
ここにいることを感じて

風が吹いて
星が瞬く
この瞬間が
永遠になる

今を生きるんだ
この瞬間を抱きしめて
今を生きるんだ
輝く一瞬を
未来はまだ来ない
過去はもう戻らない
今を生きるんだ
ここにいることを感じて

今を生きるんだ
心のままに
今を生きるんだ
ここにいることを感じて

〇駅前(夜)
ファンの女性達、大夢に声をかけながら去っていく。
大夢、会釈で返しながら片付けを続けている。
大夢「ありがとうございました」
ミズキ、レオと共に座っているが、立ち上がる。
ミズキ、大夢の片づけを手伝い始める。
大夢「ありがとう」

ミズキ「今日のヒロ君も、すっごい良かった」

大夢とミズキ、レオが並んで歩いていく。

<2話へ続く>