他のところで私が仕事を辞めると聞いて、わざわざ時間を割いて挨拶に見えたバイク用品メーカーの営業の方がいた。
そのメーカーのヘルメットを商品として売り場に置いていた。
物の流れとしては店とメーカーの間に問屋があるから直接の取引はない。
普通ならば問屋の営業さんが顔を出して、あれこれ商品を案内してくれるものだが、関西の問屋だからか関東の店まで一度も顔出してはくれなかった。
ところが東京都内のメーカーの営業さんが「ちょっと通りかかっただけだから」と商品を携えてやってきたことがあった。
その頃は寒い冬で店で扱っているそのメーカーのヘルメットが頭に乗せる半キャップ(お椀型)ヘルメットのみだった。
耳も顔もむき出しだから、売ろうと思っても売れないので、売り切るつもりで極端に安い値段をつけて店頭に出していた。
メーカーとしてはやりきれなかったと思う。
あまり聞きなれないメーカだったので、相槌を打つぐらいで、それほど熱心に私のほうから話を聞くことをしなかったと思う。
それが毎月忘れた頃にその営業の方が顔を見せてくれるようになった。
「あっ、特にないんですけど、ちょっと通りかかったから・・・」
顔を見合わせると決まってそんな切り出しで声を掛けられるようになっていった。
たいてい今売れているヘルメットがどんなものかを聞かれるので、話をしたり、製造工程の苦労話を聞かされたりして、アライ、ショウエイ、OGK、ワイズギアの日本4大ヘルメットメーカー(ワイズギアはすべて韓国メーカーのHJCだけど)以外のメーカーは狐のいたちごっこ(OGKと同じ工場だったり、パクリ商品の応酬合戦だったりなどなど)かなり面白い情報を教えてくれて店的に扱い商品は少なくてもいいものがあったら置いてもいいかなとも思っていた。
冬の間、売り切り特価品と並べていたヘルメットも春になり再び正価に戻して売り始めた。
デザインが特徴的でなぜか売れるので、在庫も増やし始めた。
そこへそのメーカーの営業の方がやってきたので、なかなか好調ですよ!と嬉しそうに話すと自前で商品をアピールするPOPを作ってきてくれ、その次にやってきたときにはグッドデザイン賞を受賞したということで、ヘルメットの箱に貼るグッドデザイン賞マーク入りのステッカーを作ってきてわざわざ貼ってくれた。
その後も月一回ぐらいで現れては「あっ、特にないんですけど、ちょっと通りかかったから・・・」と言いながら世間話をして帰ることが続いた。
ある日、新しいヘルメットを作ったのでとサンプルを持ってきてくれた。
それが今まで見たことないデザインで、正直売れる気がしなかった。
だから発売になっても仕入れはせずにそのままの状態が続いていた。
それでも顔を出してくれ、「他の店で意外と売れてるそうですよ。デザインがデザインだから、どんなバイクに乗っている人が買っていくかわからないんだけど、売れているから置いてみたらどお?」と教えてくれた。
試しに全店の売り上げ情報をチェックしてみると意外にも売れていた。
そこで色を厳選して売り場に置いてみたら、どんどん売れるではないか。
接客のときにバイクを聞けば、ハーレー、国産アメリカン、ネイキッド、ビックスクーター、原付バイク、オフ車と車種は関係ない幅の広さ。
営業の方が見えたときに好調さや買って行く人のバイクを話すと「紹介して売れなかったらどうしようかと思った。安心しました」と笑顔で言われて、こちらもマメに来てくれるのにいい話が出来ないとつらかったから逆にほっとした。
好調な売れ方はこのヘルメットもグッドデザイン賞を受賞しまったことで加速し、メーカー在庫切れを招くほど爆発した。
まさにあれば売れる状態。
そんなときにいつもの世間話で「ホックでシールドつけるヘルメットはみんなヘルメットを買うときにシールドも買って行きますよ。はじめからシールドつけたらどうですか?」と私が営業の方に話した。
話し方が足りなかったのかヘルメットとシールドのセットと勘違いされたが「シールド開閉のパーツが出ているけれど外れやすかったりして、はじめからシールド付のジェットにしたら売れそうだけどな~」とアライやショウエイ、ワイズギアのシールド付ジェットを指しながら、前に置いてあったOGKのヘルメットをカタログで指しながら、このヘルメットなんかビス止めでシールドつけているから同じ帽体でいけますよなんてただただ希望を述べてみた。
先のアライやショウエイ、ワイズギアのヘルメットと違って、かなり帽体が小さい。
シールドが着いてないジェットタイプを選ぶお客さんは被ったときに大きく見えることを嫌って後付けのシールドも買っているようだった。
高速道路でシールドが飛んでしまった・・・。
メガネをかけているから頻繁にシールドを上げるが外れることがある・・・。
メットインのスクーターなのにヘルメットが入らない・・・。
困っていたお客さんの数と理由は数え切れないほどあった。
そんなことを言ったことも忘れた頃、メーカーの営業さんがやってきて「営業会議に出したら、シールド付のヘルメットを作ることになりまた」と言うではないか。
こうしてラッツォⅡが世に生まれてしまったのである。
もちろん売れていたヘルメットがより良くなったので爆発的ヒットしたのはいうまでもない。
ひと言から、こんなになるなんて・・・。