▼某月某日
やばいな、雨が降りそう。
山に近づくにつれて空は灰色になってくる。
町の外れでヘルメットに雨粒があたりカーン、カーンと鳴り出した。
気だるい午後に気まぐれでバイクを走らせたからレインウェアを持って来ていない。
シールドに雨がへばりつき、ジーンズに点々と雨粒の跡が付いていく。
集落が終わりいよいよ峠に向かう山道にさしかかる手前に大きな東屋が見えた。
小さな川が流れ、対岸にサクラが咲き誇っている。
都市部ではサクラは散ってしまったというのに・・・。
何本も続くサクラの樹を眺めながら通り過ぎようとした。
思いとどまりバイクを停めて、来た道を引き返し、東屋の下にバイクを停めた。
ヘルメットを脱ぎ、東屋の下に備え付けられている木のテーブルの上に置き、傍らにグローブを脱ぎ捨てた。
東屋の端まで歩き、対岸のサクラを眺めた。
風がないというのに、ひらひらと花びらが舞い落ちている。
次から次へと舞い落ちていく。
川のせせらぎが響き渡り雨音は聞こえてこない。
新緑の山を眺めると、春の雨が細い糸のように降っていた。
停まらずに先に進んでいたらびしょ濡れだなと思いつつ、タバコに火をつけて対岸のサクラを眺めた。
サクラの花びらはひらひらと舞い落ちている。
風がないのに舞い落ちていく。
サクラの花びらが舞い落ちなくなったら、きっと雨はやむだろう。