大きな賞を受賞された作家さんばかりのアンソロジーです。それぞれ個性的な作品で感心と関心を持ちながら読みました。


『最悪よりは平凡』…島本理生(直木賞)

30代後半に差し掛かった魔美の物語。読んでいてうっとしい家族だなぁってまず。働かない兄を溺愛(そう見える)する両親。そんな家族と距離を置き、働く。そんな魔美の日常に少しずつ変化が起きる、そんな物語でした。

島本理生さんの作品でいつも感心するのが実は「料理」。それだけで作品に現実感が。今回の「ほうれん草の胡麻和え」も母と娘の会話がリアルに思い浮かびます。実に上手い。そして、最後の「焼きとん」。私、結婚するまで知りませんでしたし食べた事もないです。私が生活した範囲内では「焼き鳥」だけで、「焼きとん」は言葉も知りませんでした。だんな様から関東では焼きとんだよって教えてもらったのは、大阪で「焼きとん屋」さんを見つけてからでした。


『深夜のスパチュラ』…綿谷りさ(芥川賞)

先日の直木賞を受賞された万城目学さんと当日一緒に行動されていた綿谷さんです(受賞の瞬間には席にはいなかった…残念)。久しぶりに読みました。多分、『蹴りたい背中』以来…かな。

読んでいて、殆ど我が子かと思いました(彼氏は別として)。合コンで知り合って何となく会って、好きかな〜?告白?う〜ん、となっているところに「ヴァレンタインデー」というものが!

ここはチョコ?買う?手作り?となり、京都のロフトで迷う(場所がわかりすぎました)。結論、キットを買って作る!になりましたが、無塩バターを探したけど売り切れ!何とか無縁マーガリンで代用。帰宅すれば両親がいない!夕ご飯は?兄がラス1のラーメン食べてる!それでも何とか済ませて兄に邪魔するなと言って(うちもよく言ってます)作り始める(初めて作る)。失敗しながらも何とか最後の工程まで来たのに、スパチュラがない!というかどういうものかも知らない!もうだめ、涙が…兄登場!スパチュラを調べてやる(これもよくあります)。うちにもあるあるものでした。横文字になるとわからないですよね〜。

さぁ、どうなるでしょう?

来月ですね。ヴァレンタイン💝(ラストがまたいい。逆卒業みたいで)


『フェイクファー』…波木銅(松本清張賞)

大学時代、活動していたサークルの先輩が亡くなった。オーバードーズで。自作の着ぐるみを着て。連絡をくれたのはそのサークルの代表のようなキップ。本名では呼ばない。自分はもずくで亡くなった先輩はジェンガ、だった。

久しぶりに会うことになって、もう一人来たのはしずく。いつも写真を撮っていた。キップはこの世界では有名人になっていた。彼女の秘密が今の彼女を支えている。その中にもずくも入ってる。でも、彼はもう縁を切った。卒業と同時に。製作した着ぐるみも処分した。ある一つの物をのぞいて。それは裁縫道具。キップから借りたと思っていたけど…裁縫は誰も傷つかない、の言葉とともに…じゃあ、誰?…しずくがある名前をあげるけど、記憶が全くなかった。ありえないと思ったけど、それが自分のいたコミュニティ。フェイクファーの世界…誰にだって秘密はある。

かってに女性だと思っていましたが男性でした。大学のサークル活動って、他大学の生徒も参加する事もあるので「フェイクファー」という視点には頷けるものがあります。普段の自分とは違うコミュニティに入ってる感覚。そこだけの住人。出たら全く違う自分になる。そうやって上手くバランスをとりながら生きていく…

裁縫は誰も傷つかない。裁縫は暴力の逆。今はできない人が増えたから…そんな事を言われそう。


『カーマンライン』…一穂ミチ(吉川英治文学新人賞)

誕生日が父親の命日。その日は9.11。双子だったけど5歳で日本に母親と帰ってきた。私は朝海で彼はケント。14年ぶりに会うことになった。

ぎこちない二人が徐々に打ち解けていく。アメリカに残ったケントは「英雄の息子(父親が消防士)」として扱われることへの違和感。朝海は「ダブルリミテッド(これは友人の姪っ子さんがそんな感じでした。そんな事はないんだけど周りが見てしまう。日本語と英語、どっちも中途半端。バイリンガルになりそこねって)」って思っているから、全てに馴染めない。

ケントと一緒に暮らして、楽しかった。いろんな事が話せたから。それが…ある事がきっかけでケントは一人旅に出てしまった。平気なふりはしていたけど…1週間経って届いたケントからの絵葉書をくいいるように読む朝海。

I  miss  U

の文字が嬉しかった…

ケントが読んでいた本『ホテルニューハンプシャー』をもらい、お揃いのサンダルを買った。私に優しくて、私のために怒ってくれた…そんな二人を誤解する少女、信頼していた人からの指摘…

カーマンラインを越えたの?ケントも?

二人でどこかに行こうとしたけど、母親からのメッセージが…

「朝海は『ママの希望』と言ってあげて」とケントは伝えて機上の人になった。そして、今はアメリカに向かってる。JFK空港にはケントとフィアンセが迎えに来てくれる。私はママと一緒に息が詰まるほどハグしてあげる。『ホテルニューハンプシャー』を読んだから…

この一冊を読み終えると、1番勢いを感じたのは一穂ミチさんでした。「カーマンライン」、「ダブルリミテッド」、『ホテルニューハンプシャー』、そして、9.11,3.11,1.17という日付…

ケントも朝海も安心できる場所を、ありのままの自分を曝け出せる場所を求めてたんだと思う。


カーマンライン…海抜高度百km、その先が宇宙



能登半島を中心に被災された皆様が早く落ち着かれますように…

世界が平和でありますように…

コロナとインフルエンザに気をつけて😷

寒いですね。皆様、お気をつけてお過ごしください…