外出する際に最近はモノレール文庫を利用する機会が増えました。最初は…でしたが、利用される方が増えたのか(本は寄付)多彩なラインナップです。文学全集に図鑑もあります。古書もあれば真新しい物もあって、発車までの数分で一通り目を通して帰りに借ります(期限は読み終わったら)。先月は三浦しをんさんが美品の状態で何冊もあったので嬉しくて。その中の一冊です。



しをんさんのエッセイを全て読んだ私としては、読み始めて……男、二人…の話し(あらぬ妄想が…)、だけど、すごい緊張感が伝わるこの二人はどういう関係!と…


しをんさんは作家として一人立ちされるまではずっと古本屋でバイトされていました(初期のエッセイに古本屋での出来事がたくさん書かれてます。作品の中に書かれていた「万引き」の話しはしをんさん自身が似たような体験をされてたと記憶してます)。その経験があっての作品。チェーン店のようなお店ではなくて個人で売買する古書店。その仕組みがわかると、やっぱり本は紙だなぁと思います。


本を愛して、愛される、男二人の物語でした。


『水底の魚』

老舗の古書店「無窮堂」の店主は「本田真志喜」、二十四歳。古書の世界では名も実績もあった祖父の跡を継いで店を切り盛りしている。一人暮らしで家族はいない。その無窮堂を訪ねて来たのは「瀬名垣太一」、二十五歳。真志喜の祖父にその才能を認められ、二人は古書について教え込まれた。この業界では若すぎるが何とか生き延びている。瀬名垣は父親が「せどり屋(古本の転売が目的)」だった事もあって冷たい目で見られる事も未だあるが、その確かな目を評価してくれる人物はいる。その一人が真志喜の祖父で、まず父親を、そして息子に古書についての知識を教えた。それが…思わぬ事に…


あの日まで、二人は互いに下の名前で呼び合っていつも一緒に遊んでた。そんな関係…

それが真志喜の父親が捨て本だと言って束にしていた中から、瀬名垣が希少本(この世に一冊しかない)を見つけた事から壊れてしまった。十一歳だった瀬名垣には事の重大さが分からなかった。父親からはもう無窮堂には行くな、と言われ、仕事も変わってしまった。真志喜の父親はいなくなった。我慢出来ずに会いに行くと、太一ではなくて「瀬名垣」と呼ぶ真志喜が。その手にはあの日、二人で採った蝉が握られていた。


あの日以来、「太一」と呼ばれたことはない。

それでも二人は付かず離れずそばにいる。何かあったら駆けつける。瀬名垣の父親が亡くなったときに彼が頼ったのは真志喜。彼しかいなかった…


真志喜は瀬名垣から本の買い取りを手伝ってくれと言われて、二人は今にも壊れそうな軽トラで見るからに旧家と思われる家に着いた。故人は八十歳代と聞いているが…妻は…かなり若い…

依頼して来たのは妻だが、若すぎる二人に意を唱える親戚。そこで本来なら禁じ手の競りをする事になり、呼ばれたのが…真志喜の父だった。

家を出てからも古書業界に身を置いていたらしい父親。ならなぜ祖父が亡くなったときに帰って来なかった!怒りが…何とも言えない気持ちが湧き上がる真志喜を宥める瀬名垣…

妻が出した条件は買い取り金額と、自分に残しておきたい一冊を選んで欲しい、だった。



1ヶ月後、無窮堂に久しぶりに来た瀬名垣が店を持つと言う。その夜、二人が見たのは月魚…

(無窮堂には大きな池と畑があります)


瀬名垣がしていたのは店を持たずに買い取った本を市に出す「卸販売」。その彼が店を持つという。理由はもっと客と接したいと思ったからと。でも、それはあの買い取り出張で真志喜が選んだ一冊が関係しているのではないか、と思います。彼の本を愛する心。元の持ち主の本への思いを感じ取る心が瀬名垣を動かした…そう、思います。

そして、二人の関係が変わりつつあるのは(元に戻るとも)父親とけじめをつけたから、ではないかと。それも本で…


『水に沈んだ私の村』

高校時代の二人。悪ガキ(瀬名垣)そのもの。真志喜は違いますが、それなりに。祖父から頼まれた本を真志喜の通う高校に持って行った瀬名垣。そこで見たのは(読んだのは)…真志喜って創作意欲が湧く素材のようで、それを敏感に感じ取った瀬名垣は…


『名前のないもの』

神社のお祭りに行く二人。


あさのあつこさんが『月魚によせて』…



二百頁ちょっとの作品でしたが、全体から緊張感が伝わって来て、二人の関係が理由ですが…

この地味な内容を一気に読ませる力。全く飽きませんでした。その答えがあさのあつこさんの優美な文章だと思います。



世界が平和でありますように…

コロナとインフルエンザに気をつけて😷

(今週は暖かいけど来週は極寒ですね。体調には気をつけてください)



しをんさんに伝えたい。わたしの推し活