遠藤周作さん、と聞いても…なんかのCMで見た?と言った程度の感覚でどんな作家さんかも知らなくて、何年か前に『沈黙』が映画化されると聞いたくらいで(内容も知らないです)したが、解説の「夏川草介」さんの文章を読んで少しは理解できました。「神を持たない日本人」…遠藤周作さんの作品には「キリスト教」や「キリスト教的価値観」が色濃く反映されているそうです(この作品はそうでもない)。巻末に年譜があって読んでみると、特に影響を受けたというお母様の事を先ずは知らないと作品の理解には結びつかないなと感じました。キリスト教が色濃く反映されているなら理由を知らないと。遠藤周作さんも満州で幼い頃を過ごされていますが、何かあの土地で暮らすと独特なものが出て来るのかな、などと思ってしまいました(佐野洋子さんを思い出したので)。


この作品はは九州大学附属病院で実際に起こった米軍捕虜に対する実験(生きたままの人間を解剖する)をベースにしながら、「良心を持たない日本人」を書いたものだと。それは「日本人の良心のよりどころはなんであるか」を思考するため、

とも。この実験に関わった医師達の胸中が独白の形で書かれています。勝呂は参加したというだけで何もできなかった。彼の後年の姿に苦悩や後悔といったものが読みとれますが、戸田は何も感じない。幼い頃から裕福な医師の家庭で育ち「いい子」を常に演じていた彼は解剖されて死んだ捕虜をみても何も感じない。何か感じるかと思ったのに感じなかった。手伝いをした看護師の上田も何も。手伝うことで仕事に復帰できればそれでいいぐらいにしか思っていない。


夏川さんは「戦争中に捕らえた兵を生体解剖する」という行為がどれほどの悪であるのか、測定できなかったということなのだ、と書かれていますが、それにはドナルド・キーン先生の言葉、「人は集団になると暴力的になる。あの戦争では日本人もそうだった(正確ではありません)」が。当てはまるのではないかと思いました。正常な判断ができなくなる。出来なくさせる、それが戦争なのでしょう…


作品の発表は1958年、今は2023年。衝撃を与えた発表から63年。人々の良心はどうなっているのだろうか、とこの作品は問いかけると。

「良心に恥じぬことだけが、我々の確かな報酬である」ケネディ大統領の就任演説の言葉だそうです。今の世界にどれだけ響くでしょうか…


そして、夏川さんの解説の後半に「絶対者として君臨していたはずのキリスト教的価値観は、すでに崩壊の一途をたどり、日本以上に複雑な混乱を抱えているようにすら見える。もはや宗教による一方的な価値観の押し売りは、現代においてなんら効力を発揮しないことは明白であろう。遠藤氏自身、一神教的価値観の困難や矛盾は、各所で述べている」とあります。書かれたのは2011年2月です。日本で「LGBT理解増進法」が決まったのは今月ですが、ご存命でしたら遠藤周作さんはどう思われたでしょうか?訊いてみたいです。


世界は混沌としています。マスマス…





世界が平和でありますように…





〈私の平和〉