島本理生さんの長さ的には中編になるでしょうか。150頁ちょっとの作品です。深い内容でした。

読み始めて…この設定は…なんか朝ドラと似てる、と思いました。


『ひよっこ』で、ヒロインの有村架純さんが、失踪した父親(沢村一樹さん)を探しに(就職もあって)東京へ出て来たわけですが、やっと見つけた父親は記憶をなくして有名女優(菅野美穂さん)と暮らしていた…

この菅野美穂さんの役所が主人公の「沙良」に重なりました。幼い頃から芸能界に入った沙良でしたが徐々に心も身体も壊れてしまい、母親は沙良の稼いだお金をほぼ使い果たしていました(その中には親戚も含まれる)。それを知ったときの驚愕…(菅野美穂さんの場合は親代わりになった叔父叔母でしたが。断ると有る事無い事を言いふらしてしまう)

十代の終わりに身体を壊し、二十代を棒に振り、今、三十代…何か変わればと同じ業界の夫と結婚。それでも…心も身体も深く沈んでしまったまま…何とか仕事はあるけど…誰も知らない…もしかしたら自分自身も自分が誰なのかわからないのかも知れない…そんな「今」を過ごしている沙良でした。


それが…友人と行った出会い系のバーで知り合った男性と関係を持ち、続ける…

綺麗な人…そう思ったから…

彼の背景は何も知らない。年齢も、家族も。自分の事も彼は知らない。何度目かで女優とは言ったけど…彼は相変わらず綺麗だった…


知り合って仕事が順調になった。なったらまたお金の無心にやって来る…叫びたくて食器を壊しまくった…心が壊れないように…


仕事で評価が上がると次から次へと仕事が来る。事務所に彼の事を訊かれる。これから大事な時なのよ、と。調べたのは夫で離婚の意思はないという。沙良のために伝えて欲しい、と。


彼が綺麗に見えなくなった…

もう連絡はしないし、させない…



三年後…

沙良は舞台と映画を活動の中心にした。

夫とは離婚し今は演出家の男性と暮らしている。風通しのいい関係が築けた。

自分は最善の選択をしたと思っている。でも、正しいからといって、後悔してはいけないわけではない…



沙良の台詞に「私はもう、子供にも大人にもなれない、人間になんて一度もなれなかった」、というのがあります。沙良の心情が一番よく表れているのではないか、と思いました。そこから出たくてもがいて知り合った男もそう。同じだった。何もわからなくても感じて。慰め合うように抱き合う。


菅野美穂さんが演じた女優がなぜ行き倒れのような沢村一樹さんを受け入れたのか…

読んでいるとわかるような。自分の事を何にも知らない人との暮らしに彼女は救われていたんだろうなぁと…


最近、知ったあるタレントさんも同じでした。公共料金も払えなかった家庭が、娘がタレント活動で有名になるとギャラを全部使ってしまって彼女の口座は空っぽ。それを知って自分の口座に振り込んでもらうようにしたと。おまけに母親は宗教にはまってしまってお祝いごとは一切なしだったとか。そこから脱するために彼女も最善の選択をしたのだろうと思います。


親によって深く傷つけられた子どもは大人になっても助けを求めてる。それが誰であるのか…

会ったらわかるのかも知れない「あなたはわたし」って…



世界が平和でありますように…