入院中に一穂ミチさんの作品を2冊読みました。そのうちの1冊です。

を読んで感じたのは「教養の深さ」…「知識の深さ」でもいいかもしれません。何でしょう、底しれぬものを感じました。


今回読んだのは娘が借りてきてくれたもので「オレンジ文庫」の作品なので部類としてはファンタジーなのかな?と最初は思いましたが、書かれている内容はなかなかシニカル、でした。


最初は17歳の女子高生の夏休みの物語が書かれてる?となりましたが…

読み進めると「MDプレイヤー」が出て来て、いつの話し?となり、次は2025年になりました。


双子の姉弟「明日子と日々人」、17歳。父親との3人暮らし。母親は既に亡く、お葬式のときの父親の言動が親子関係を断絶に近い状態に追いやってしまっていました。そんな父親から話しがあると告げられ、明日から従姉妹と暮らすことになったと突然言われ、年も近いから仲良く出来ると思う、と。反抗する2人に父親は有無を言わせず、名前は今日子と教えると彼女の秘密を話しだしました。彼女は(初めて話した)姉の子で実年齢は47歳(1978年生まれ)。30年前の1995年7月に火事で自宅が全焼。助かったのは今日子だけ。低体温治療で28年眠り続けて、2年前から徐々に覚醒してリハビリを経て、明日、ここに来て一緒に暮らす。この事は外部には決して漏らさないこと。信じられない思いの2人でした。過去の記事を検索すると確かに火事の記事が出て来る。日々人は現代の医学で30年近くも眠っていられるのか?と疑問を持つ。明日子は眠って起きたら、明日じゃなくて30年後?…興味はあるけどめんどくさい…


翌日、今日子は父親と共に現れました。

黒髪おさげのセーラー服で膝下までのソックス…

明日子は30年前じゃなくて今じゃ滅多にお目にかかれない「女学生」じゃん、と思いましたが…

父親が仕事に戻ると、あとは部屋から出てこない日々人との3人だけ…

どうしたら?と思っていた明日子に、「生理になったんだけど?」と今日子…


ここから、1995年と2025年の文化の違いがストーリーの中に上手く組み込まれていきます。

エコ、リサイクル、省エネ、オゾン層、フロンガス、酸性雨、温暖化、薄いテレビ、チューブみたいな高速道路、スーパーファミコン、登校拒否と不登校、痴呆症と認知症、微妙やドヤの使い方、ポケベル、電子マネー、プリクラ(もりすぎ)、CD、MD、遺伝子組み換え、TPP、消費税、無邪気な流行…、バブル、震災…


今日子が見つけた父親の書棚には(2人は入ったことすらない)、今日子の家にあったものと同じゲームや漫画本が。やろうという今日子に誘われて、日々人が一緒にゲームをやり、明日子は手にした漫画が面白くて続きが読みたくて仕方なくなるほど。帰宅した父親も一緒になってゲーム。そばには宅配のピザの箱…

でも、この同じ物を買っただけだった漫画本に、どうして(今日子が隠した)同じシミがあるの?

火事で全焼したのに…


今日子のままごとのような生活が終わりました。


過去に会いに行ってはいけないと言われていたのに…好きだった人には会いに行った。じゃ、次は住んでいた所に行きたい…行ってみようと。

今日子、明日子、日々人…

でも、あと少しの所で今日子は倒れ、父親が連れて行ってしまった。バレないようにしていたのになんで!と問う日々人に、今日子の体内にはチップが埋め込まれているからと…


帰宅した父親が教えてくれたのは驚くべき内容でした。日々人が調べたように今日子は火事ではなく無理心中の生き残りでした。そして、その理由も明かされ、今日子はもうじき眠りにつくと伝えられ、その前に一度会えるようにするからと。


最後の日に明日子と日々人が会いに行くと、今日子は短く髪の毛を切っていました。

日々人とはゲームをして、明日子とは生理の話(意味深)を。また会おうねって。


入眠の日、今日子からのメッセージを日々人と明日子は受け取りました。


本編の後に、『堂上今日子について、そして さよならプレイガールちゃん」があります。


この作品が発表されたのは2016年です。読みながら私の頭には「アンジェリーナ・ジョリー」が浮かびました。BRCA1遺伝子リスク。彼女は乳腺の切除を、続いて卵巣、卵管切除をしています。遺伝子が何をするのかは誰にも分からない。だから予防する。

今日子の身に起きたことの原因も遺伝性のもの。明日子と日々人の父親が母親が亡くなったときにはなった言葉も遺伝性の病気を心配してのこと。


誰にも分からない未来に少しでも備えるために人は準備する。それなのに簡単に変えられてしまう過去…(誰がするんでしょう?)

真実はどこにある?


ヒーラ細胞、初めて知りました…




世界が平和でありますように…