尚は生きてる…
そう、確信してからの鑓水はまずは「柴谷哲雄」の事件を捜査した当時の刑事に話しを聞きに行きました。1人はもう亡くなっていましたが、もう1人は家業を継いで浅草で健在だということがわかりました。若林という元刑事にとっても柴谷哲雄の転落死の事件は短い刑事生活の中で一番大きな事件だったと言い古びた手帳を見ながら説明してくれました。鑓水が事情を話し公式発表以外の当時の刑事達がどう考えて捜査していたのかを聞き出しました。
若林によれば元妻の水沢香苗を疑っていたということでした。だから、母親のアリバイを証言した子ども達、特に尚に執拗に質問していました。
そして、尚の失踪事件…
若林はこちらの事件の捜査も担当していました。拓にも会いに行きましたが尚を見つけられない警察とは話さないと言って何も話してはくれなかったと言いました。そして、こちらの事件でも香苗は疑われていたということでした。
尚の失踪は9月2日、1日は水沢家は留守で何も訊けずに帰ったと若林は言いました。でも、その1日が香苗にとっての、
「人生で最後の、幸福な一日」でした。

意識を取り戻した修司は鑓水や相馬からこれまでのことを聞いて自分なりに今回の事を病院のベッドで考えました。そして、バイクに細工した人間は以外と身近にいるんじゃないかと考え、拓だと思っていたのが実は尚…
あの時、尚はキャッチボールをしていた…
翌朝、修司は入院費を置いて勝手に退院して大阪に向かいました。

相馬は鑓水と修司の話しから、尚が誰なのかがわかりましたが見つけた場所には既にいませんでした。残されていたものの中に、エッフェル塔の形をしたUSBメモリがありました。
エッフェル塔は拓の夏休みの宿題でした…


警察は理沙の衣服が寺石の供述通りの場所から見つかったとして、未成年者略取・誘拐容疑で再逮捕しました。倉吉からの情報で寺石の父親がヨットを保有し彼も免許を取得していることがわかりました。これで理沙を殺して海に捨てたと供述させられたらまずいことにる。早く尚を見つけなければ、と思う相馬でした。

鑓水は鳥山に頼んでいた件、柴谷哲雄の冤罪事件の検証番組を作った丸尾に会っていました。さすがに勘が鋭く今回の誘拐事件で岡村武彦は何をしている?と訊いてきました。教えたらおまけをつけてくれます?と言った鑓水に丸尾が教えたのは「恨みません調書」でした。哲雄は無実が証明された後、かつて自分を取り調べた刑事と検察官を決して恨みませんという調書を取られていました。このため哲雄の死後、誰も賠償請求をしていませんでした。鑓水は哲雄はいつ調書にサインをしたのかと考えたとき、哲雄を尾行していたのが三島北署の警察官でサインをさせて尾行をといたと考えました。そして同日の午後に哲雄は転落死しました。
検証番組のDVDは修司と相馬と一緒に見ましたが、そこには柴谷哲雄の無罪を証言するものばかりでした。相馬が修司に「日本の刑事訴訟法では、弁護側には捜査機関が保有する証拠の全面的な開示を求める権利が認められていない。つまり、捜査機関が集めた証拠のうち、どの証拠を開示するかは検察官が決めるんだ。だから、目撃証言を裁判で証拠として使わなかったのはあくまで検察官の権限における判断であって、犯罪ではない」と説明しました。
そして、もう1人、この検証番組を見せて欲しいと言ってきた人物がいたと聞かされ確認してもらうと、拓だったことがわかりました。


ここから、事件は解決へと向かいます。


エッフェル塔の形をしたUSBメモリに入っていたのは何万語もの同じフレーズ。コピーではなく全て手打ち。時間も記録されていました。おそらくそれは拓が打ったもので、彼の心が壊れていく過程でした… 
相馬、鑓水、修司は何を思ったでしょうか…
そして、間違いなく同じものを見た尚は拓をどう思ったでしょうか…
子供達の変化を香苗はどう感じたでしょうか…

DVDを見た後に鑓水は検察の力の強さを説明していきます。現在では取り調べの可視化も義務となっていますし、裁判員裁判もあります。冤罪事件がなくなるとは言い切れませんが…
例えば、全国ニュースにはならなかったかもしれませんが最近大津地検では証拠そのものが間違っていたとして、我が子への虐待を疑われた母親に対して起訴を取り消しました。県警と地検は母親に対して謝罪していますが、23日間の勾留に対して弁護士は刑事補償を請求するとありました。このままでは子供を返せないと言われたと母親(一旦は認めていた)は証言していて、自白の強要にあたると弁護士は言っています。


柴谷哲雄は一審の後、控訴しませんでした。それは裁判では本当のことを言えばわかってもらえると信じていたからで、それが叶わないとわかって諦めたのかもしれません。それが、あの夏の日の出来事につながり、何も悪い事をしていなくても刑務所に入れられる恐怖を尚に植え付けました。同時に母親を弟を守りたいという強い気持ちになっていったと思います。


この本を最初に読んだときに「圧倒的に強い相手と戦う時は、相手を近付かせちゃ負けなんだ。遠くからやっつける」。このフレーズ(尚が言いました)が妙に印象に残りました。結果として、いい意味でも悪い意味でもこのフレーズは大切なものでした。
そして、香苗の依頼の本当の目的は達成できただろうと思います。本当は息子を探して欲しいではなくて助けて欲しい、だったろうと読み終わった今では思っています。

いい作品でした。是非、読んでみてください…


Pray  for  Japan


娘が借りてきてくれましたが、ついでだからとハードカバーと文庫本の両方を借りてくれました。文庫本の方は加筆修正があるとありましたが、犯人が変わるわけでもないし綺麗なのはハードカバーなのでこちらを読んでいました。読み終わって文庫本の解説だけでも読んでおこうと思ってパラパラ読みましたが…
「終章」は文庫本のほうがいいと感じました。細かくない加筆修正でこちらの方が相馬の人柄や温かさがよく表れていると思いました。
文庫本のほうをできれば読んでください。