第三話 面の家
「火事と喧嘩は江戸の華」の「火事」の場面から『面の家』は始まりました。火勢が強く三島屋も肝を冷やしましたが何とか大事にはならずにすみました。

一夜明けて、三島屋に百物語をさせろという娘が現れました。身なりも何もあったものじゃない格好と言いようでした。何とかおちかと富次郎の前には来ましたが…例えるとしたら、
「バイト代がいいからって言うんで行ったのに、まじやばくって。そこでのことを話したら障りがあるって言われるし、ここなら話しても大丈夫なんでしょ。話したらスッキリするし、後のことはもう関係ないし、知らないから」
でしょうか…
これを聞いただけでもおちかは嫌悪感で鳥肌が立つようでしたが、富次郎が何とか場を取り繕い娘を返しました。
娘の名はお種と言い奉公先での出来事を話したかったようでした。お種はその奉公先を追い出されたと話し、その理由が「面を逃したから」。
そこには、おちかも富次郎も何かを感じ取ったのでした。

翌日、お種が再び三島屋を訪れました。今度は差配と一緒で昨日とはうってかわってしおらしい態度になっていました。差配が言うには、お種が話した「口止めと障り」は先の火事で終わったと教えられ、お種の話しを聞いてくれと頼んで先に帰って行きました。昨日はいなかったお勝も今日は控え、おちかと富次郎は心してお種の話しを聞き始めました。

最初は緊張していたお種でしたが、おちかの砕けた言いようや合いの手を入れる富次郎のおかげで普段の喋り(昨日のような)になって行きました。お種は法外な給金と差配の見込み(手癖が悪い)で奉公に行ったと話し、奉公先は(お坊さんが身に付ける)仕立屋のような所で、下働きをしていたという。そしてもう一つの仕事が「面を見つけること」。それには面は手癖が悪い者が好きだと言う理由があったから。逃げたら見つけて捕まえて箱に戻すまでが仕事だったと話しました。
もし、面が逃げたら災いを引き起こすと言われていてお種も聞いた話しと言いながらいくつかをあげました。差配の話した意味をここで理解したおちかと富次郎でした。

奉公に上がって何日かするとお種には他の女中には聞こえない音が聞こえるようになり始め、そのことを雇い主のおかみに話すと褒美がもらえました。褒美のこともあってかお種は一層、注意をするようになり、話しを聞いた富次郎からお種の仕事は「番犬」だねと言われたのでした。
日が経って、お種はおかみに「面の部屋」に連れて行かれました。「形(なり)は面だけれど、その正体は、この世に災いや悪事をもたらす魑魅(すだま)だ。だからここに封じてある。わたしたちこの屋敷に住まう者は、その番人だ。そして、お種は番犬だ。」と言われ、「わたしたちにはできないけれど、一度悪事に手を染めたことがあるおまえなら、面の声を聞くことができるし、その動きと気配を察することもできるからね。」と。

ところが、面は人を騙す。お種は面に騙されて逃してしまい、あげくに深傷を負わされてしまいました。おかみからは大人しくしているようにと言われましたがお種は怖くて逃げ帰り、傷もなかなかよくならない。察した差配がおかみに相談して三島屋にということになったのでした。


おかみの話しにおちかはこの百物語には「毒抜き」の面もあったのかと思うのでした。お種の話しをおちかと富次郎が今の世と合わせて考えていき、読み手の私はそれはこの世でも変わらないと思うのでした。

今も昔も人の世は悪の多い世の中、なのでしょう…

富次郎がお種の話しには昨日とはちょっと違うと言い、嘘はよくないと諭すのでした(お給金がもらえなかったと昨日は言いましたが、実際には半分貰っていました。嘘をついた理由は同情してもらえるかなって思ったから)。そんなお種にお勝は自分の「拓殖の櫛」を渡しました。いいお守りになるからと言って。お種を迎えに来ていた差配は全てを察し「有り難く頂戴します」と言って帰って行ったのでした。


今回の富次郎の絵はその「拓殖の櫛」でした。