1980年代の事件
◎裁判官
裁判官
偉い人というイメージがある。
裁判における審判であり、
有罪無罪を決める人だ。
裁判官が有罪と言ったら有罪、
無罪と言ったら無罪だ。
そこには
一切の妥協がない。
裁判官とは、
私を殺し、感情を排し、
ただただ法の赴くままに判断する。
冷静無私の存在である。
ある面、司法界のゴルゴ13である。
自身の欲望を捨て、私情を挟まず、
法に基づき判断する。
非情のライセンス!
それが裁判官なのだ。

そんな裁判官が日本では3718人もいる。
高裁長官8人、判事1889人、判事補1000人
簡裁判事806人、最高裁判所裁判官15人。
この3718人は1人の例外もなく、
無私な存在なのだ。
1人の例外なく!
しかぁーし
以前はそうでない裁判官もいた。
冷静無私、謹厳実直、品行方正、生真面目真面目、
秋霜烈日、馬鹿正直、九州男児、四面楚歌
というイメージからかけ離れた裁判官が
存在した。
1980年9月6日の新聞に以下の記事が載った。
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量刑 私の手に
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記事によるとこういうことだ。
北九州市にある小倉簡易裁判所のY裁判官は、
自分が扱った刑事事件の被告と会っていた。
それも裁判所の外で。
当たり前の話だが、
裁判官が自身の取り扱っている刑事裁判の
当事者と会うのはご法度だ。
しかしY裁判官は会っていた。
それも3回も…!
さらに問題だったのは、
相手は女性だった。
31歳のスナックのホステスと…。
もう決まりだな!
アレ以外ない。
Y裁判官の言い分では
「相談に乗ってやっていた」
ということだが、
3回目には
旅館で会っていた。
相談…って(笑)!
お前がお願いして
いたんじゃないのか?
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裁判官 相談です。
裁判官 相談に乗っていたんです。
裁判官 裁判には不慣れでしょうから、
裁判官 それで可哀そうに思って
裁判官 これでも裁判には詳しいですから
裁判官 えっ?刑事事件だから弁護士がつく?
裁判官 まあそうですが、
裁判官 でも…あまりあてにならないんですよ。
裁判官 彼は国選なんで、
裁判官 あまりやる気がないみたいで
裁判官 だから私が…。
裁判官 誤解しないでください
裁判官 相談だけですよ
裁判官 それ以外は何も
裁判官 大体会ったのは喫茶店ですよ
裁判官 何もできる訳ないでしょ
裁判官 2回とも喫茶店です。
裁判官 えっ?3回目?
裁判官 そっ…それは…。
裁判官 3回目は旅館ですが…。
裁判官 でも…泊ってないですよ。
裁判官 休憩です。
裁判官 だからそれほど
裁判官 問題がないはずです
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因みにY裁判官には余罪もあった。
別の事件の被告の妻にも言い寄っていたのだ。
窃盗の罪で捕まった夫の妻(30)に連絡をして、
喫茶店で会っていたのだ。
その時は夜の8時に連絡して呼び出した。
そこで
「ご主人と別れるか?」
「お金の心配はあるか?」
と質問して、
「困ったことがあれば相談に乗る」
と言った。
被告の妻は、
「あなたには関係ないでしょ」
と言い、関係はなかったが、
呼び出したのは事実だ。
因みに男を呼び出した形跡はない。
完全な女狙いだ!
◎弾劾による罷免手続き!
この事件に裁判所は大揺れになった。
そして公私混同であるとして、
彼を免職することを決定した。
しかし裁判官は少々厄介なのだ。
一般の公務員は、非行などの懲戒理由があれば、
免職にすることができる。
しかし裁判官はそうではない。
彼らは憲法によって守られている。
憲法第78条では
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を
執ることができないと決定された場合を除いては、
公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の
懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
となっている。
つまり罷免するには、
弾劾しなければならないのだ。
その手続きは、
1.最高裁判所が国会に罷免訴追請求をする。
2.国会で、裁判官訴追委員会を開催し、
罷免の訴追を決定する。
3.国会の弾劾裁判所に送り、罷免手続きをする。
と3段階に分かれる。
国会でも、行政機関でも弾劾はできない。
あくまで最高裁の「罷免訴追請求」に基づき、
国会で審議して弾劾することになる。
その間、
時間がかかるのだ。
ここで問題になったのは、退職金だった。
彼は47歳で20年以上のキャリアがあった。
そのため退職金は1000万円以上になる。
さらに年金として年220万円程度が出る。
このまま辞職すれば、退職金は出る。
しかし罷免されれば退職金は出ない。
Y裁判官はすでに退職願を提出しているが、
最高裁ではその受け取りを保留していた。
弾劾で罷免するつもりだったからだ。
裁判所でも、国会でも、特に国民にも、
彼を弾劾で罷免することを望んでいた。
そこで国会で審議して手続きが進んでいたのだが、
そこでY裁判官は驚くべき行動に出た。
なんと選挙に出馬したのだ。
公職選挙法の規定により、
選挙に出馬すると、その時点で公務員は免職になる。
それは自動的に行われる。
弾劾手続きをしている最中に、
選挙に出馬すると裁判官は辞職し、
退職金が満額もらえる。
これには
最高裁も意表が突かれた。
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最高裁 やられました
最高裁 まさか選挙に出馬するとは
最高裁 出馬と同時に辞職です。
最高裁 裁判官を辞職になります。
最高裁 これは自動的にそうなります
最高裁 止める手立てはありません
最高裁 そうすると弾劾できません。
最高裁 だってもう辞めているんですから
最高裁 辞めた相手を弾劾できないでしょ。
最高裁 確かに弾劾手続きは進んでいました。
最高裁 今は国会で審議して
最高裁 もうしばらくしたら結論が出ます。
最高裁 その後、弾劾裁判所に送り、
最高裁 弾劾が決定し、罷免されます。
最高裁 それもパーです。
最高裁 だって辞職ですから
最高裁 できること…そうですね。
最高裁 説得して、思いとどまらせるだけですね
最高裁 うまくいくとは思えないですが
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確かにうまくいかなかった。
最高裁判所に人事局長が説得にあたったのだが、
結局出馬した。
因みに出馬した選挙は
福岡県久山町の
町長選挙だった。
人口7700人の小さな町だ。
そこに出馬を決めたのは10月10日。
そして公示日が12日で、19日投開票。
出馬した段階で、退職金はゲットする。
彼は出馬したが、公約はゼロだった。
そりゃーそうだろ。
退職金目当ての出馬なのだから
なおかつ選挙運動も初日に
演説1回を含む1時間ほどやっただけ。
あとは「寝不足で疲れた」と称してやめた。
そして当然のごとく選挙には敗れた。
しかし…
159票入っていたが…。
そして紆余曲折を経ながら、
退職金は満額手に入れた。
世論は憤っていたが、
どうしようもなかった。
しかし随分私情が多い裁判官だ。
私情のために、
女性被告や被告の妻を口説いたり、
退職金のために選挙に出馬したり、
私情の権化だな!
彼が裁判官に相応しくなかったことは間違いない。


