１９５０年代の事件
◎加熱するメディア！
前回、戦後の人気芸人 トニー谷の長男が
誘拐された事件について書いた。
結果は子供も戻り、
犯人が逮捕された。
約１週間かかったとはいえ、
両親にとっては満足の結果であろう。
事件解決をした警察は称賛されるべきであるが、
その対応は随分杜撰なものだった。
犯人は都内および東京近郊にいると睨んだのに、
実は長野県にいたとか、
犯人逮捕の時、
刑事１人だけで行ったとか、
挙句の果てに、
犯人を円タクで署まで連行したとか、
どうも手違いがあってもおかしくない状況だった。
現代で、こんなドラマを作ったら、
警察はそこまで杜撰じゃねーよ
と突っ込まれてしまうことだろうが、
当時はここまで杜撰だったのだ。
実はおかしかったのは警察だけではない。
メディアも相当おかしかった。
現在では、誘拐事件などが起きると、
報道協定が引かれる。
そうして事件の報道などを抑えるのであるが、
当時は報道協定などはない。
しかも大物芸能人の息子であるので、
報道は過熱の一途を辿った。
例えば、前回も書いたが警察は都内か近郊に
犯人がいると見込んでいた。
それがそのまま報道されている。
また誘拐を大々的に報道したので、
便乗犯が大量に出た。
◎大量の便乗犯！
そのため、トニー谷家では
「犯人」と称する違った声の人物からの要求が
相次ぐことになる。
その処理に警察は忙殺されることになる。
そして便乗犯が多いと報道することで、
さらなる便乗犯を招くことになった。
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男Ａ もしもし犯人だけど、
男Ａ 金を持ってこい。
男Ａ 警察には絶対言うな。
男Ｂ もしもし本当の犯人だ。
男Ｂ 金はこっちに持ってこい。
男Ｂ 警察には言うな。
男Ｃ もしもし俺こそが犯人だ。
男Ｃ 金を用意しろ。
男Ｃ 警察には言わないでくれ。
男Ｄ もしもし正真正銘の犯人だ。
男Ｄ 金だよ金を用意しろ！
男Ｄ できれば警察には言うな。
以下同文
犯人 もしもし犯人だが…。
警察 男Ｘから連絡です。
犯人 ………………………！
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本当のこんな感じだったらしい。
だから本命の時にも
刑事を張り込ませることが
できなかった。
人手が足りなかったのだ。
警察の捜査を細かく書くわ、
便乗犯を煽るわで…、
とんでもない状態だった。
◎さらなる情報公開！
そして決定的な報道を行う。
その報道が流れたのは
１９５５年７月２１日の夕刊である。
実は犯人の逮捕されるのが、
この日の午後１０時２０分ごろ！
つまり夕刊が出たタイミングでは、
まだ犯人は逮捕されていなかったのである。
そのタイミングで、便乗犯について書いた報道で、
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新聞紙で作った偽札を持って行った。
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と報道したのだ。
ニセサツを持って行った？
偽札を持って行った？
いいのか？書いて？
こんなことを書かれたら、
犯人が警戒するだろ！
大体、まだ犯人は
捕まっていないのだぞ。
この日の午後１０時２０分に捕まるが、
それなのに何で、
こんなことを書くんだ？
ふざけるなぁ！
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犯人 そろそろ身代金の受け渡しだ。
犯人 ちょっと時間があるなぁ。
犯人 一服しようか。
犯人 茶店にでも入ろう。
カランコローン
店員 いらっしゃいませー！
犯人 コーヒー！
店員 かしこまりました。
犯人 新聞ある？
店員 あちらに…。
犯人 もう夕刊もあるのか。
犯人 どれどれ…！
犯人 ふむふむ！
犯人 鳩山もダメだなぁ。
犯人 期待したんだけどなぁ。
犯人 ソ連との交渉もうまくいっていないし。
犯人 大体、孫がバカすぎる。
犯人 どうにかしなくては。
犯人 うんっ？なんだこれ。
犯人 便乗犯に偽札？
犯人 まあ便乗犯ならしょうがないだろう。
犯人 でも俺にも偽札を使うかなぁ。
犯人 トニー谷は金持ちだぞ。
犯人 超売れっ子だ。
犯人 それなのに２００万円ぽっち。
犯人 それにこっちは誠意を示している。
犯人 ４０万円に値下げしたんだ（本当）。
犯人 それなのに偽札を出すか？
犯人 金をくれれば子供は返すんだ。
犯人 子供は大切に扱っている（本当）。
犯人 むしろ新聞紙を切って偽札を作る方が、
犯人 手間だろうが。
犯人 まあそういうことはしないだろう。
犯人 トニー谷を信じよう。
犯人 信じる者は救われるというが、
犯人 その通りだと思う。
犯人 さて…受け取りに行くか。
警察 逮捕！
犯人 ……………………………！
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因みに、実際の受け渡しも…
偽札だった！
随分危ない橋を渡ったものだ。
犯人は夕刊を読んでいなかったようだが、
それは偶然に過ぎない。
まあ前回も書いたことだが、
子供を無事に保護して、犯人を逮捕したのだから、
大成功ではあった。
しかし警察も…そしてメディアも
トンデモナイ行動をしている。
今では考えられない！
しかし考えられないのは、
一般民衆も同じだった。
次回は同じトニー谷事件をもとに、
一般民衆の信じられない行動を
見てみたい。