支倉常長とゆかいな仲間達 ~エスパーニャへ第4巻~ | MITSUのブログ

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ニューヨークの路上で鍛えられたBlues Manの日記。

航海10日後・・・太平洋上・・・

「今日も、カツオが大漁だべぇ~。」

「いち、にい、さん・・・70匹もいる。ほっほっほ~。」

「おっ、これが一番旨そうだぁ~」

「これを、おりんに食べさせるべぇ~」

「今日は、どうしようか?」

「う・・・ん・・・。」

「やっぱり釣りたては、刺身が一番うめぇべ!」

「だけど、あつあつゴハンに、刺身をのせて、その上にミョウガと醤油と山葵をちょこっと。そこに、熱いお茶をサッとかけると、カツオがほんのりとしゃぶしゃぶ風になって、うめぇ~んだよな~。」

「これで、あいつもオレにゾッコン惚れるだろうなぁ~」

「平吉さんって、ほんと釣りが上手なのね~。こんなに美味しいカツオは今まで食べたことがありませんわ~。たくましい海の男って、、、なんだか、ス・テ・キ。なんて抱きついてきたりして。」

「いや~、ほんと、おりんが十兵衛様と一緒に船に乗ってきたときには、ビックリしたなぁ~」

「こんな男だらけの船に何ヶ月もいなきゃいけないなんて、拷問以外のなんでもねぇからな。」

「そしたら、めんこい遊郭の女が10人も船に現れたんだ。」

「その中でも、おりんは、一番めんこいなぁ~。」

「なんつうか、あの目つき、立ち振る舞い、ちょっとした仕草、喋り方、が他の女とは全然違う。」

「オレぁ~、わかんだ。あれは、そこら辺の遊郭の女とは違う。」

「気品があるというか、でも、その中に色気があるんだなぁ~ありゃ。」

「いやぁ~、おりんは、ほんとめんこいなぁ~」

「うふふふ」


この独り言は、平吉である。

石巻の漁師の家に生まれ、これまた自分も漁師になるという、東北の田舎ではあたりまえの人生を送ってきた30才の色黒の男。

しかしながら、これがまた無類の「色情狂」で、片っ端から村の女に夜這いをかけるものだから、とうとう村の役人達に捕まってしまい、島流しにされるところだった。

そして、他の船員と同様、罪を免除されるかわりに、この船に乗ったのである。


「また、平吉がブツブツ言ってるのか。まったく色情狂が。食料が増えるのは、ありがたいのだがな。しかし7日間連続で朝昼晩、カツオの刺身っていうのも、考えものだぞ。なあ、常」

「十兵衛、しかたがあるまい。この航海は、何ヶ月かかるかわからんのだぞ。食料があるにこしたことはない。」

「常よ。船の食料庫を見ただろ。米と麦が50俵づつ。水が50樽。が50樽。きゅうり、カボチャ、スイカ、にんじん、なす、ごぼう、じゃがいもなどが山のように積んであって、日持ちする魚の干物や、温麺だって大量にある。おまけに、牛が20頭と豚が20頭いて、新鮮な牛乳も飲める。食料が無くなったら、その肉だって食えるし、水は雨水をためればいい。何の心配をする必要があるんだ。このガレオン船サン・フアン・バウティスタ号は、とてつもなくデカくて、頑丈なんだ。嵐がきても大丈夫だよ。」

「相変わらず能天気だな~、十兵衛は。オレはな、政宗様から預かった使命があるんだ。なんとしても、ローマに行かねばならんのだ。」

「それはわかるが、まだ先は長い。今からそんな調子では、体がもたんぞ。」

「わかっている。わかってはいるが、何かせんと落ち着かんのだ。それはそうと、これからルイス・ソテロとエスパーニャ語の勉強だ。ローマに到着するまでに、なんとか習得しなければならん。十兵衛、おまえも勉強するんだぞ。」

「あいつなぁ~。ここぞとばかりに、偉そうにしやがって。昨日なんか『ジュウベエ サン、シッカリ エスパーニャ ノ コトバ ヲ オボエナイト、エスパーニャ デ マイゴ ニ ナリマスヨ。ハハハハ』だって。 ほんと、腹の立つ男だ!」

「まあまあ、しょうがないじゃないか。あいつしかエスパーニャの言葉を喋れないんだから。しばらくの辛抱だ。」

「エスパーニャ語を覚えたら、あいつを餌にして、デカイ魚を釣ってやる。」


サン・フアン・バウティスタ号には、180名ほどの乗員がいる。

午前中に、各々が船の掃除や剣の稽古、一部の侍達がエスパーニャ語の勉強をする。

それが終わると、何もやることがない、いわゆる自由な時間が、果てしなく続く。

たいがい、酒盛りが始まり、楽団が三味線を弾いて歌い、遊郭の女たちが踊りだす。

そんなことばかりしているから、すでに10樽は空っぽ。

男は女を口説き落とそうとはしゃぎだし、女はそれを軽くいなす。

男はふられても、ふられても、また口説きにいく。

他にやることがない、果てしなく続く時間。

果てしなく続く、海原。

潮風と、波の音。

時々、カモメの鳴き声。

それ以外には、ほとんど音の無い静寂な海の上を、サン・フアン・バウティスタ号がチンドンヤのように賑やかに進んで行く。

しかし、賑やかな中心にある三味線の音色だけは、潮風に湿って、故郷を思う女のように、もの悲しく聴こえる。

つづく。