支倉常長とゆかいな仲間達 ~エスパーニャへ第7巻~ | MITSUのブログ

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ニューヨークの路上で鍛えられたBlues Manの日記。

航海40日後・・・星の太平洋・・・


夜空に輝く、デネブ。

夜空に輝く、ベガ。

夜空に輝く、アルタイル。

夜空のキャンパスに描かれる夏の大三角形、トライアングル、トリオ、ギャンブルの星々。


「よ~し、次はオイラが親だ!」

「まあ、どうせすぐ終わりだよ。」

「一助、またブタだ、ブタだ。」

「ああ~っ、うるさいなぁ、二助も三助も。ほれ、ほれ、ほれ。」

「もういっちょ!よし、きた!」

「よし、こっち、いいぞ!」

「くそ~、手札は2と3か~、このままでは厳しいな・・・ここは親だし、勝負だ、えい!」

「ほれ、オレはオイチョ(8)だ!」

「俺は、ナキ(7)だ!」

「どうした、一助、早く開けろよ。」

「ほれ!」

「・・・」

「・・・」

「・・・、5」

「わはははっ、一助がまたブタ(0)ひきやがった。」

「はぁ~、なんでオイラばっかり負けるんだよ・・・。」

「勝負は、勝負。お前の今夜の分の酒は、おれらがもらうからな!」


『花かるた』でオイチョカブをやっている彼らは、一助、二助、三助の3人。

もちろん名前で分かるように3兄弟で、一助が長男、二助が次男、三助が三男。

本来なら、何をやっても長男が一番強くて、次男が二番目、三男は三番目、というのが良くありがちな話なのだが、この兄弟はちょっと違う。

逆なのである。

ようするに、何をやっても三助が一番強く、一助が一番弱い。

一番強いとはいっても、3人の中で強い、というだけであって、世間的には普通というよりは、下の中。

しかも何をやっても要領が悪く、3人ともうだつがあがらない。

そして3人とも、どうしようもないくらいの博打好きなのだ。

そんな彼らなので、せっかく親が残した屋敷も博打の借金の片で失った。

しかし、そんな事で懲りる3兄弟ではなく、屋敷を失った後もヤクザに借金をして博打で大負けし、返せるお金もないので東北中を逃げ回っていたのだ。

3年の逃亡の末、とうとう捕まってしまい殺されかけた時、支倉常長が借金の肩代わりをし身柄を預かったのである。

というのも、彼らの親は、常長の命の恩人。

以前、陰謀に巻き込まれ闇討ちにあった時に、瀕死の常長を家にかくまい看病してくれたのだ。

しかし数ヵ月後、回復した常長が恩を返そうと家を訪ねた時には、彼は事故で亡くなっていた。

山に山菜をとりに行った際、足を滑らせ崖から谷底に落ちてしまった、と3兄弟は泣きながら説明してくれた。

人の人生は、時として皮肉で残酷なものである。

平凡に生活している者が事故で命を落とし、闇討ちにで殺されるはずの者が命を繋ぐ。

呆然となりつつも、何か助けがいる時はいつでも屋敷来てくれ、と兄弟達に伝え、常長はその場を立ち去った。

常長に、身柄を預けられた3兄弟は、しばらくは大人なしく屋敷の手伝いをしていたのだが、ほとぼりがさめてくると、屋敷を抜け出し、また博打にでかけるようになった。

見るに見かねた常長が、大海原やエスパーニャまでの過酷な旅に同行させればさすがに博打から手をひくだろう、ということで、身のまわりの世話人として3兄弟を船に乗せたのだ。



「一助、二助、三助!船の上でも、またお前ら博打をしてるのか!」

「常長様、違うんです。誓って博打などしていません。なあ、二助。」

「はい、常長様。ちょうど今、船の仲間たちに『花かるた』の遊び方を教えていたところなのです。そうだろ、三助。」

「はい、常長様。博打なんてとんでもございません。船の上では博打に賭けるものなど何もありません。仕事の合間に息抜きをしていただけです。さあ、一助、二助、そろそろ仕事に戻ろうか。」

「こら、待て待て。お前達、嘘をついて誤魔化すんじゃない。今夜の酒がどうのこうの、と喋っていたのは聞こえているんだぞ。」

「常長様、それは…その…、酒が配給制になったもので…、それで…その…、一助は、あまり酒が好きではないので代わりに私が頂こうと…、そう話していた訳でございます。」

「それは、お前達や船員が毎晩毎晩、大酒を飲んでどんちゃん騒ぎをするもんだから、50樽あった酒がすでに残り10樽になって、しかたなく酒を配給制にしたんだろ、まったく。」

「常長様、おっしゃる通りでございます。そうだな、一助、二助。」

「おっしゃる通りです。」

「何にせよ、その『花かるた』は私が預かる。いいな?」

「常長様、そんな殺生な…。十兵衛様、何とか私どもを助けてくだいよ~。」

「おい、常。そんなに厳しくしなくてもいいじゃないか。酒も少なくなってきていることだし、こいつらにも何か息抜きが必要だぞ。」

「十兵衛、そうは言っても、こいつらの博打好きは筋金入りだぞ。このまま見逃せば、みなが博打ばかりやるようになって、船内の規律が乱れてしまう。」

「十兵衛様、どうかお願いです。ただ、『花かるた』で遊んでいただけで、ほんとに何も賭けていないんです。」

「こら、一助、二助、三助!お前達は黙っていろ。」

「すいません、常長様…」

「それじゃ、常。『花かるた』は、オレが預かる、っていうことで、どうだ?それで毎日、一時間だけ、船員みんなで遊ぶ。もちろん、賭けは無し。そうすれば、息抜きにもなるだろ。」

「……しょうがない。確かに最近、長い船旅のせいかピリピリと気がたっている者もでてきているからな。そこまで言うなら、十兵衛、お前が預かってくれ。」

「ありがとうございます、十兵衛様、常長様。」

「こら、一助、二助、三助。お前達、絶対に賭け事は、するんじゃないぞ。」

「常長様、もちろんでございます。なあ、二助。」

「常長様、もちろんでございます。そうだろ、三助。」

「はい、常長様、もちろんでございます。」

「まあ、よい。お前達、早く仕事に戻れ。」

「はい、常長様。」

「常、そういえば、さっきルイス・ソテロがお前を探していたぞ。」

「そうだった、そろそろエスパーニャ語の勉強の時間だ。十兵衛、お前もちゃんと勉強せねばならんぞ。ルイス・ソテロが、勉強の意欲が少ないと、嘆いておったぞ。」

「わかった、わかった。ちゃんとやるから、早く勉強に行け。」



夜空に輝く、デネブ。

夜空に輝く、ベガ。

夜空に輝く、アルタイル。

デネブが親なら、ベガとアルタイルは子。

一助が親なら、二助と三助は子。

三が3つで、オイチョカブ。

世の中、なかなか思い通りには、いかないもんです。


「おい、一助、二助、三助。今度は、オレが親だ。続きをやるぞ!こら、一助、お前には既に酒2合の貸しがあるからな。」

「はい、十兵衛様」


つづく。