多くの国民が待ち望んでいた新型コロナワクチンの接種が、自衛隊により東京と大阪において大々的に行われることになった。この大規模接種の予約について、朝日新聞および毎日新聞の複数の記者が架空のデータを使って申請を行い、予約が可能であった事実を突き止めた。その上で両紙とも、鬼の首でも取ったように、自衛隊システムの不完全さをニュースとして流した。
岸信夫防衛大臣は記者会見において、システムの不備を認める一方、朝日、毎日の記者の行為を悪質と非難し、両新聞社に対して厳重に抗議するとの意向を表明した。
自衛隊の新型コロナワクチン接種は、他国に比し遅れがちなワクチン接種を早めるため、政府が慎重な準備を経ないまま拙速に実施を決めた措置であり、問題が生じることは事前から予想されていたことである。筆者も、新宿区の実施する接種の予約を3日間、それこそパソコンと電話で数千回試み、ようやくのことで予約最後の日に「受付完了」のメールを確保したが、その後に発表された自衛隊実施の接種が新宿区のより早期にできることを見抜き、重複を覚悟の上で予約メールを発信したくらいである(通信輻輳のため予約ならず)。
こうした問題含みの自衛隊の大規模接種をめぐって、岸大臣の実兄である安倍晋三元総理は「悪質な愉快犯」と軽くいなしているが、立憲民主党の党首及び幹事長は「朝日、毎日の姿勢を評価するとともに、防衛大臣はミスの指摘に感謝すべきである」と論じている。
また学者では、山口二郎法政大教授が「大臣の逆切れ、無能無知の極み。政府の失敗を暴くのはメディアの任務」と投稿しており、砂川浩慶立教大教授は「極めて公益性の高い報道。大臣の反応は見当違い」と見解を述べている。
政界、学界などから様々な意見が開陳されるのは歓迎すべきことであるが、筆者の印象としては、高級紙として評価の高い朝日新聞や毎日新聞の記者であっても、こんな下卑た取材方法を使って政府の失敗を暴露し、その責任を追及するのか、ということである。自衛隊システムの不備は、接種実施の段階で予約無効となるだけであって、わざわざ虚偽の予約を実際に行い、システムの不備を実証する必要があったのか、疑問なしとは言えない。
そして、今回の一連の報道において筆者が最も問題であると考えるのは、NHKをはじめ他の報道機関がこうした事実を表面的に軽く流すだけで、取材における報道機関の舞台裏を善良な一般国民に見せてしまったことの深刻さについて、何等の言及もしていないことである。正しいマスメディアの存在は民主主義国家実現のため必須の要件である。ほとんどの日本国民は、新聞、テレビなどに対して全幅の信頼を置いているが、今回の騒動がマスメディアに対する国民の信頼を棄損することのないよう願っている。一昨年来の新型コロナウィルス禍の下で、国民は様々なマスメディアにおける偽情報に踊らされてきたが、こうしたマイナスをいささかでも挽回するためマスメディア自体における本格的な議論の展開を期待している。