娘と2人で買い物に行くのは何年ぶりだろうか。
思春期の娘が父親と並んで歩き行きたくない理由は友達に見られたくないからだ。
しかしキッカケを与えたのは雨が降った事で、娘を迎えに行った帰り道に買い物を命じた妻だ。
お菓子を買ってくれる条件で私の後ろを歩く娘は、まだ物に釣られる中学生だ。
地方に広がりつつある
『激安スーパー』の店内では、本日の目玉商品に過激な人だかりが出来ていた。
とても、その商品に近づく事が出来ないほど、主婦層の女子力に圧倒され遠目で確認出来きたのは、
『サーモン半額』
娘の好物は『サーモン』だ。
娘の為に『サーモン』を手にしたい。
しかし、殺気が漂う女子力に圧倒されるばかりだ。
手を伸ばそうとして躊躇している私に、親切なお婆ちゃんが2パック取ってくれた。
何て親切なお婆ちゃんだろう‼️
私と娘は深々とお礼を言ってサーモンを受け取ろうとした。
しかし・・・
雑菌から守る為に包装しているラップにお婆ちゃんの親指が突き刺さっているではないか。
しかも、解凍されたドリップの海に浮かんでいるサーモン。
もう一度、広告を確認すると驚きの文字を目にする。
『どこよりも新鮮』
・・・・。
いつまで新鮮だったの?
・・きっと今は違うと思うな。
穴が開いた口からドリップが溢れないよう慎重に買い物カゴに着地させた。
私は人としてお婆ちゃんの親切心を大事にしたい。
しかし、その場から私を離そうとしないのは、何度も見ている広告の文字にある。
『刺身でどうぞ』
どうぞと言われても・・。
何度も私と目が合ってクスクス笑う娘。
解決策として考えたのは、元の状態で棚に戻してはどうだろうか。
つまり、私も親指を突っ込んで戻せば大丈夫かな。
結局、私はお婆ちゃんの親切心を選んだ。
時々、ドリップが溢れないか確認しながら慎重に他の食材をカゴに入れて店内を歩いた。
すると、背後から肩をポンと叩かれ、振り返ると店員さんが立っているのだが、手には雑巾を持っている。
慌ててカゴのサーモンを確認してみた。
すると容器が半回転して、
バックドロップになっているではないか。
溢れたドリップは床に広がる血の海。
思わず私は頭を抱えた。
新鮮な生食用サーモンよ、
君は嘘つきなのか。
しかし、私はここでも親切心に救われる事になる。
店員さんが商品の交換をしてくれたのだ。
今日の買い物で収穫したのは食材ではなく、人の心かも知れない。
何より嬉しく思ったのは店員さんと一緒に床を拭こうとする娘の姿だ。
娘よ、
また雨が降ればイイな・・。