ロビンソン・クルーソーの生涯と冒険 デフォー | mitosyaのブログ

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個人誌「未踏」の紹介

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世界文学大系

デフォー

ロビンソン・クルーソーの生涯と冒険

平井正穂 訳

自分の置かれた境遇、自分が今陥込んでいる窮境というものを私はまじめに考えはじめた。

一、(悪い点)私は怖るべき孤島に漂着し、救出の望みは絶無である。――(善い点)しかし、他の乗組員全員が溺れたのに、私は溺死を免れて現にこうやって生きている。

二、(悪い点)私は全世界からただ一人除け者にされ、いわば隔離されて悲惨な生活をおくっている。――(善い点)だがただ一人かく乗組員全員から除外されたからこそ死を免れたのだ。奇蹟的に私を死から守ってくれた神は、同様にこの境遇からも救い出すことができる筈である。

要するに、この世の中でまたとないと思われるほど痛ましい境涯であっても、そこには多かれ少なかれ感謝に値する何ものかがあるということを、私の対照表は明らかに示していた。世界最悪の悲境に呻吟した者として、私が人々にいいたいことは、どんな悲境にあってもそこにはわれわれの心を励ましてくれる何かがあるということ、良いことと悪いこととの貸借勘定では結局貸し方の方に歩あるということ、これである。


ある朝のことだった。私は気分が滅入っていた。聖書をあけると、次の言葉が眼にうつった。「われさらに汝を去らず、汝を捨てじ」(ヘブル書十三章五節)咄嗟に、この言葉こそじつに私にむかって語られた言葉だと感じた。私はちょうどそのとき、自分を神と人とに捨てられた人間だと思い込み、われとわが身を悲しんでいたところだった。私にむかって語られていないとすれば、どうしてそんなふうに私の眼にとびこんできたのであるか。私はいった。「もし神が自分を捨てたまわないとすれば、たとえ全世界が自分を捨てても、それがどんな不幸な事態を惹きおこすというのか、どんな意味があるというのか。しかるにその反対の場合はどうか。もし自分が全世界をえても、神の恩寵と祝福を失えば、これ以上の損失はないではないか」
この瞬間から私が固く心の中でいだくようになった信念は、もし自分がこの世間で何かほかの境遇にあればあるいは幸福になれたかもしれなぬ、しかしこの世間から見捨てられた孤独の生涯にあってもなおそれ以上に幸福になれないとはかぎらない、という信念であった。こう考えて、私は自分をこの島に導きたもうた神に感謝したいと思った。

こうやって、私はこの島をあとにした。時に、船の記録によれば一六八六年十二月十九日のことであった。ちょうどこの島に二十八年と十九日いたことになる。そして、この第二捕囚から脱出できたこの日は、奇しくも、かつてのサリーのムーア人たちから大きな舟艇で逃げ出したのと同じ月の同じ日であった。
長い航海を経て、この船で私がイギリスに着いたのは一六八七年六月十一日のことであった。国外にあること、三十五年であった。

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ロビンソン・クルーソー

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ロビンソン・クルーソーの生涯と奇しくも驚くべき冒険
''The Life and Strange Surprising Adventures of Robinson Crusoe

ロビンソン・クルーソー(Robinson Crusoe)は、ダニエル・デフォー(1660-1731年)の書いた小説の主人公。また小説の題名の略称である。主に第1作を指して『ロビンソン漂流記』などともいう。

概要
1719年に『ロビンソン・クルーソーの生涯と奇しくも驚くべき冒険』(The Life and Strange Surprising Adventures of Robinson Crusoe)が刊行された。ロビンソンの誕生からはじまり、船乗りになり、無人島に漂着し、独力で生活を築いてゆく。この無人島には時々近隣の島の住民が上陸しており、捕虜の処刑及び食人が行なわれていた。ロビンソンはその捕虜の一人を助け出し、フライデーと名づけて従僕にする。28年間を過ごした後、帰国するまでが描かれている。(第1部)

この小説が好評だったので、さっそく続編(第2部)が刊行された。ロビンソンは再び航海に出て、以前暮らした無人島やインド・中国などを訪れる。さらに1720年にロビンソンの反省録と称する書(第3部)が刊行された。

経済学的な視点からも注目を集めてきた。カール・マルクスは『資本論』の中でロビンソンを引き合いに出して論じており、シルビオ・ゲゼルは主要著書『自然的経済秩序』の中で独自のロビンソン・クルーソー物語を紡ぎ出している。また、マックス・ウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中でロビンソン物語を取上げ、主人公の中に合理主義的なプロテスタントの倫理観を読み取っている。同時代の文人ジョナサン・スウィフトが代表作『ガリヴァー旅行記』を執筆したのも、本作の影響が大きいと言われている[誰?]。

日本でも幕末に、オランダ語訳書から斎藤了庵により邦訳され、明治5年(1872年)に『魯敏遜全伝』という題で刊行された。子供向けの冒険物語として編集されたダイジェスト版で親しんでいる読者も数多い。

実在のモデル
ロビンソン・クルーソーは架空の人物であるが、実際に無人島で生活したスコットランドの航海長アレキサンダー・セルカーク(Alexander Selkirk) の実話を基にしているといわれる。

1704年10月、航海長をしていたセルカークは、船長との争いが元でマス・ア・ティエラ島に取り残された。マス・ア・ティエラ島は、チリの沖合に浮かぶ全長約20km×幅約5kmの島でファン・フェルナンデス諸島では最も大きい島である。セルカークは4年4ヶ月の間、このマス・ア・ティエラ島で自給自足生活をし、1709年2月に海賊船に助けられた。

1966年にマス・ア・ティエラ島はロビンソン・クルーソー島と改名され、今日では約600人が住む島になっているが、実際にセルカークがこの島のどこでどのような生活をしていたのかという具体的な事は全く分かっていなかった。

1992年に日本人探検家の高橋大輔がこの島の調査を始め、実際に現地で自給自足生活を試みるなどしてセルカークの足跡を追った。2001年に高橋はセルカークの住居跡と思われる場所を発見した。2005年1月-2月に考古学者を含む調査隊を率い発掘調査を行った。高橋が最初に住居跡と思っていた所は、セルカークの年代より新しいスペイン人の作った火薬庫の跡だったが、その下からセルカークの年代の焚き火や柱の跡が見つかった。そして土の中から16ミリの金属片を掘り当て、当時の航海用の器具(ディバイダー)の先端部と一致したことが決め手となった。調査結果は2005年9月15日に世界中で同時に発表された。

邦訳書
近江国膳所藩儒者、黒田麹慮(行次郎)が幕末に早くも「漂荒記事」という題名で邦訳する。
吉田健一訳 『ロビンソン漂流記』  新潮文庫 第1部を収める
平井正穂訳 『ロビンソン・クルーソー』 岩波文庫  第1部・第2部を収める
増田義郎訳 『ロビンソン・クルーソー』 中央公論新社
坂井晴彦訳 『ロビンソン・クルーソー』 福音館書店〈福音館古典童話シリーズ〉、1975年。 - ベルナール・ピカール画
関連項目
小説
イギリス文学
無人島
ホーム&アウェイ (テレビドラマ)

外部リンク
Robinson Crusoe



ダニエル・デフォー

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ダニエル・デフォー(Daniel Defoe 1660年 – 1731年4月21日)は、イギリスの作家、ジャーナリスト。ロビンソン・クルーソーを書いたことで有名。

生涯

ダニエル・フォー(Daniel Foe)は、ロンドンの肉屋ジェームズ・フォーの息子として生まれた。彼は後に貴族的な響きを持つ"De"を名前につけ、ダニエル・デフォーをペンネームとした。これはフォー(foe)には「敵・反対者・障害」という負の意味があったのを嫌ったためとされ、“ダニエル・デフォー”のペンネームに落ち着くまで、“ダン・フォー”や“ダン・デ・フォー”と、何回かペンネームを変更している。

デフォーは有名なパンフレット作者、ジャーナリストとなり、そして、英語での小説が書かれ始めた時期に作家となり、先駆者の一人として知られる。パンフレット作成及び政治的な活動により捕らえられ、1703年7月31日にさらし台にあげられた。これは、ハイ・チャーチ(英国国教会の一派)およびトーリー党が非国教徒の絶滅を主張していたのを、痛烈に皮肉ったパンフレット"The Shortest Way with Dissenters"が主な原因とされている。そこで「さらし台への賛歌」(Hymn to the Pillory)を発表し、そのため観衆は、さらし台にあげられたものへは汚物を投げつけるのが習慣だったにも関わらず、彼に花と飲み物を与えた。

著作

A True Relation of the Apparition of One Mrs Veal (噂話の記録)(1706)
Robinson Crusoe(ロビンソン・クルーソー)(1719)
Captain Singleton (1720)
Moll Flanders(モル・フランダーズ)(1722)
A Journal of the Plague Year(ペストの年に関する記事)(1722)
Roxana(ロクサーナ)(1724)

参考文献

柏野健三『社会政策の歴史と理論 改訂増補版』ふくろう出版、1997年

関連項目

オーガスタン時代
ジョナサン・スウィフト