土佐日記
いつとせむとせのうちに、千とやすぎにけん、かたへはなくなりにけり。いまおひたるぞまじれる。おほかたのみなあれにたれば、「あわれ。」とぞひとびといふ。おもひいでぬことなく、おもひこしきがうちに、このいへにうまれしをんなごろともにかへらねば、いかがはかなしき。ふなびともみな、こたかりてののしる。かかるうちに、なほかなしきにたへずして、ひそかにこころしれるひとといへりけるうた、
むまれしかもかへらぬものをわがやどにこまつのあるをみるがかなしさ
とぞいへる。なほあかずやあらん、またかくなん。
みしひとのまつのちとせにみましかばとほくかなしきわかれせしましや
わすれがたく、くちをしきことおほかれど、えつくさず。とまれかうまれ、とくやりてん。