ブラームスのピアノ四重奏曲第3番

ハ短調 作品60の初演は1875年。

 

作曲が始まり形ができたのが1855、56年ですから

ブラームスがシューマン夫妻に出会って数年、

ロベルト・シューマンが亡くなる前後になります。

 

1873、74年ごろ大幅に手を入れ

20年ほど経っての出版でした。

 

この作品を発表するにあたり

出版者のジムロックへの手紙に

この作品を作曲した時のブラームスの心情が書かれています。

 

 手紙に記された当時の想い

 

ブラームスによると、

第1楽章、第2楽章は古く

第3楽章、第4楽章は新しく書き足したもの。

 

作品のイメージとして

楽譜の表紙は

ピストルを頭に向けているのはどうかと書いています。

 

作品を売るのに人の気を引くだろうとの

悪い冗談まじりに提案、

 

モデルに自分の写真を送るとあり

さらに

青の燕尾服と黄色いズボンに乗馬ブーツを合わせたらどうか、と。

 

ここまできて

ゲーテの「若きウェルテルの悩み」の主人公ウェルテルを

ブラームスが若い頃の自分と重ね合わせていることがわかります。

 

そのため

この作品は「ウェルテル四重奏曲」とも呼ばれるのだそうです。

 

 

 ウェルテルとブラームスの共通点

 

ウェルテルは

婚約者のいるシャルロッテと出会い恋に落ち、

よい雰囲気にもなるのですが、

婚約者の登場、

結ばれることなく最終的に命を断ちます。

 

これはゲーテの実体験をもとに書かれたそうです。

(「野ばら」の詩ににしても

ゲーテはいわくつき実恋愛を作品で昇華し

自己セラピーを兼ねていたのでしょうか)

 

 クララへの激しい想い

 

秘密主義なブラームスなのに、

この手紙では

“クララ“の名を出さずとも

この作品の表現するもの

ブラームスの55年頃の恋模様がわかります。

 

書けるくらい遠い思い出になったのかもしれませんし、

クララの名を出してませんから

昔の恋愛話

というぼんやりストーリーなら書いても良いか、

ということなのかもしれません。

 

ゲーテのように、

この作品を仕上げることで、

心の整理、

過去に一区切りつけたという気持ちがあったのかもしれません。

 

ブラームスはプライベートをさらすのを嫌い、

クララにブラームスの手紙は受け取った後燃やすようにと伝えたり、

過去に書いたクララへの手紙を返却させて破棄したり、

クララから来た手紙を破棄したので

二人の関係の完全な全体像は謎のままです。

 

その中で、他の人宛の手紙での描写や

破棄を逃れて残った二人の手紙などから感じ取れる思いなどもあります。

 

 

このところ、

クララ・シューマンの伝記(手紙と日記を含む))

ブラームスの伝記(手紙を含む)

オイゲニー・シューマンの回想記を

並行し、

1つの出来事を複数の目から見るとどうなのか

あちらこちら飛びながら照らし合わせて読んでいます。

 

まだ最終章まで読んでいないので、

なんとも言えませんが

今まで読んだ範囲では、

 

ブラームスはクララを若い頃は恋愛対象として愛していた。

(この作品60の前半を書いた頃)

ところが

ロベルトの生前最後の数日間、

ロベルトの入院中は面会を許されなかったクララが

ようやく会えた最後の時、

同伴していたブラームスは

クララとロベルトの愛の深さに圧倒されます。

(二人の様子を

作曲家で友人のユリウス・オットー・グリムへの手紙に書いています)

 

その時

ゲーテのウェルテルのように

クララとの恋愛は絶望的に感じて苦悩したと想像します。

自分の入る余地はない、と。

 

 ‘愛’の変化

 

その後は

激しい恋愛から

聖母を崇めるような(日本なら如来的存在?)

絶対的な愛へと

段階的に変化していったように思えます。

(アガーテとの婚約、誤解、和解、クララの娘ユーリエへの想いなど)

 

1870年代になっても、

クララのことを誰よりも自分自身よりも愛していると手紙に書いています。

 

この愛は信仰にも近いような、

地上で一番尊いものとして愛しているように感じました。

 

その後、クララ以外で

恋愛的な感情や親友的な女性も現れるようですが、

その後の文通や伝記、オイゲニーの回想録でも

クララは別格だろうと感じ取れます。

 

ブラームスの欠点も音楽も全てを丸ごと受け入れて抱擁するような人間であり続けたから。

 

一方のクララのブラームスへの想いが

最初の頃

どこまで恋愛感情に近かったのか

残った記録からは曖昧です。

 

自分の気持ちを一番理解してくれる人、音楽の才能のある人として

当時一番心を許していたことは間違いないでしょう。

(特殊な状況だったので感情分析も難しそう

限りなく恋愛に近いけど一線は越えないような危うい感じかなぁ)

 

年を取るにつれ、

ジェラシーが絡むような想いよりも

母性的な感情や音楽でのつながり、

長年の交流により築き上げた絶対的な愛が占めていったのではないでしょうか。

 

 ピアノ四重奏曲・クララの感想

 

クララの伝記に、

この作品の感想を書いたブラームス宛の手紙があります。

 

クララとブラームス(そしてヨアヒムを含む3人の間)は

音楽に関して隠し立てのない率直な意見を交換し合う仲です。

 

この作品についてクララは、

2、3、4楽章は良いけれど

第1楽章がどうも今ひとつ、、、的な意見を書いていて、

ガクッときます(笑)

 

あの〜若い頃のヨハネス・ブラームスが

あなたを深く愛して

死ぬほど激しく思い悩んで作った曲なんですけどぉ〜

察しませんかねぇ、、、

(クララは恋愛には疎いタイプだったらしい)

 

さすがクララ、

音楽作品に関しては情に流されることなく

感ずるままに正直に書いちゃってます。

 

(恋愛が絡んだ作品と知らなかったと推測できますし、

そもそもブラームスの愛が恋愛だったか気づいていたかどうかもわからない。

いずれにしても、感情と作品は分けて考えるタイプの人だと想像します)

 

 

私などは、この第1楽章の激しさや暗さが

ブラームスらしくて

当時の感情をたまらなく感じて心を揺らされます。

 

皆さまは二人の関係性や

この作品をどうお感じになるでしょうか、、、。

 

お読みくださりありがとうございました。

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