ロベルト・シューマンのドキュメンタリー番組の続きです。

 

元の番組はこちら⬇️

BBC Radio3 「ロベルト・シューマンにつけられた数多くの病名」

 

入院した病院

 

ロベルトが自ら入院したいと言って入った精神病院。

 

梅毒の進行によって脳に腫瘍ができたとみられ、

幻覚・幻聴など精神障害的症状に苦しみ

自殺未遂をした後のことです。

 

この時代は精神病への研究が進み出した頃で、

彼が入院した病院は、

進歩的な過ごしやすいところだったようです。

 

映画などで出てくる昔の精神病院は

水風呂だったり電気ショックだったり、

ゾッとしますが

 

エンデニヒにあったこの病院は、

患者を14人と少人数にしぼり、

庭を散歩したり

日光浴など自然に触れたり、

話を聞いたりして

ストレスの少ない環境を目指していたようです。

 

最後のヴァイオリン協奏曲

 

入院する前、

親交の深いヴァイオリニスト、

ヨアヒムのために協奏曲を作曲します。

 

この曲について番組で語るのは、

シューマン好きのチェロ奏者

スティーヴン・イッサーリス氏。

 

自室の壁に

シューマン関連のものをあれこれ貼ってらっしゃるお話も。

 

この協奏曲の初演までの複雑な事情は

クラシック通の方には有名な話だと思うのですが、

私は初めて知りました。

 

ヨアヒムは試演後この曲を封印し、

演奏することなく保管していたのです。

 

作曲家の死後100年経つまで演奏してはならぬ

 

ヨアヒムの遺書にそう記されていたそうです。

 

ところが

ヨアヒムが大おじになるヴァイオリニスト姉妹が、

この存在に気づき

(これがまた降霊術系の怪しげな話が絡んでいる)

作品は

ベルリンの図書館に保管されたヨアヒムの蔵書の中から見つかります。

 

色んな思惑が交差する中、

100年経たぬうちに

プロパガンダ的に利用される形で

1937年ナチス・ドイツで初演となりました。

 

この時はかなり変更が加えられ、

オリジナルとは違いました。

 

この社会的背景も興味深いのですが、

封印された理由も興味をそそられます。

 

封印の謎

 

この作品は発表後、

音楽史的にも斬新で先見の明があると評価されてもいます。

 

ですが、

ヨアヒムは

本来のシューマンらしい作品ではないと判断したようなのです。

 

考えられている封印の理由は、

 

・精神障害の影響がある

・そのままでは演奏不可か困難なパートがある

・第2楽章が自殺未遂直前に作曲したピアノ曲と酷似していた

 

ヨアヒムが感じた精神障害の影響とは、

 

最後の精神力を振り絞った作品で、

独創的芸術家の深い感情を生むパッセージは散見するけれども

ある種の精神疲弊を示している

 

ううむ、、、

これって微妙だなぁ。

 

このヨアヒムの主観は、

クララやブラームスを納得させたらしく、

お蔵入り決定となったようです。

 

“演奏不可“ってどう不可能なの?と気になり調べました。

 

詳しい解説を見つけられませんでしたが、

情報を総合すると、

ヴァイオリンの演奏が困難で

技術的に難しいのに、

パガニーニの曲のようにヴィルトゥオーゾをアピールするでもなく地味。

 

ヴァイオリンの演奏法を理解しないまま書いてしまった、みたいな。

 

これで思い出しました、

ドヴォルザークのピアノ協奏曲。

 

ドヴォルザークはピアノ演奏に詳しくなく、

運指など技術的に困難な曲なのに、

リストの曲のようにヴィルトゥオーゾをアピールするでもなく地味。

(個人的には大好きな協奏曲です)

リヒテルやサー・スティーヴン・ハフでさえ、

モノにするのに1、2年かかった難曲。

 

ドヴォルザークの件、こちらに書きました⬇️

 

病と作品の評価

 

妻クララは結婚前、

ロベルトがほぼ無名だった頃から作品を賞賛し

自らの公演で演奏、

シューマンの音楽を世に広める要となりました。

 

けれど、

そこから変化していった人生最終章のロベルトの作品を

クララは正しく評価できたか、、、

 

彼女が後期、

リストの作品を辛辣に批評したり、

ブラームスの推し、ドヴォルザークの作品は受け入れないことから、

彼女独自の価値観に当てはまらない作品には厳しい印象があります。

 

また、

ヨアヒムが感じた、

ヴァイオリン協奏曲への

ロベルトの精神障害の影響は本当にそうだったでしょうか。

 

仮にあったとしても

その影響が作品を壊していたのでしょうか。

 

シューマンの尊厳を守るために

クララやヨアヒムらは

遺作となる作品の質に過敏にこだわったのかもしれません。

 

ロベルトが精神病院へ行かず、

問題なく家族と過ごしていたなら

発表していたような気もします。

 

クララがヨアヒムの判断に納得したのも、

 

シューマンの才能に

少しでもケチがつくような作品や情報は世間に出したくない

偉大なる芸術家として世に残したい

 

夫を愛し尊敬するが故に

そんな思いが強かったのかと想像します。

 

(後年、末っ子のフェリックスがヴァイオリニストになりたいと言った時も

音楽家として成功しなければロベルトの名を汚すと恐れたのが

反対理由の1つでした)

 

番組に登場した

イッサーリス氏やシューマンの伝記作家は

病気と作品を常に繋げて評価することへ疑問を呈しています。

 

クライスレリアーナなど、

双極性障害あるいは彼の二面性が

静と動の曲調の変化を生んだであろう作品もありますし、

影響を分析すること自体はあって当然かと思います。

 

が、

 

最初から色眼鏡で見ることなく、

 

作品は作品として受け止め、

美しいと感じたり、

表現から伝わる何かに、

心を動かされたりするのが自然かと思いました。

 

まとめ

 

このドキュメンタリーを聞いて感じたこと。

 

・彼の病名が隠されたり変更されてきたことで

 プロフィールが不正確なものが多い

 

・病気と作品が不必要に関連づけられ

 評価されるべき作品まで埋もれてしまうところだった。

 

お読みくださりありがとうございました。

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