父と母は恋愛結婚だった。
中学の時の同級生で、どういった経緯で結婚に至ったかは知らないが、
遠距離恋愛の末、結婚した。
父と母の間にある愛情は、私や兄と、両親の間にある愛情と同じように、切れるものではないと
当たり前のように思っていた。
Tとのメールのやり取りを見て、私は激しい嫌悪感を覚えた。
母親ではない、女の部分を見た気がして吐き気がした。
お母さんじゃない。こんな女母親じゃない。
本気でそう思って、母親を憎んだ。
彼女を汚いと思い、消えてしまえばいいのに。いっそ離婚してしまえばいいのにと思った。
それでも、もしかしたら、という思いは消えなかった。
もしかしたらあのメールの全ては私の勘違いで、迷惑メールか何かかもしれない。
本当は何もないのかも。
本当のことを知りたかった。
ある日、私はまた学校を休んだ。
仮病だと私を叱りながら雑誌を読む母親を横に、私は勇気を振り絞った。
母の声はほとんど耳に入らない。
その代わりに、自分の鼓動の音が痛いくらいに脈打って聞こえる。
「お父さんがかわいそうだと思わないの?」
ようやく出てきた言葉がこれだった。
不倫してるの?と、どうしても聞けなかった。
言ったすぐ後に激しい後悔と、答えを待つ不安と期待が押し寄せて私は気が狂いそうだった。
母は呆れたように私を見ると、
「何言ってるの?」と言った。
「お母さんに誰かほかに男の人がいると思ってるの?」と。
私は何も言うことができなかった。
「あんたみたいな子供にはわからないかもしれないけど、私は家の中でじっとしてる主婦になるつもりはないから」
私はそんなことを言ってほしいんじゃなかった。
傷ついてもいいから本当のことをすべて知りたかった。
私はお母さんに、「家の中にいること」を求めていた訳でもなかった。
どうしてなのか。
本当は何を思っていたのか。
知りたかっただけだった。
「子供」という言葉で片付けられ、私はそのまま何も言い返す気力もなく、家を出て、学校へ向かった。
家からバス停へ向かう長い坂道を下った。
後ろから車が走ってきて、私の横で停まった。
Tだった。
「バス停まで送るから乗りな」
すぐそこだからと断った。
けれど、Tは話があるからと私を無理矢理車に乗せた。
仕方なく助手席に乗ると、Tが話し始めた。
母がどれだけ私を想っているか。
私がどれだけ母の気持ちを踏みにじっているか。
もっと考えて、母の言うことも聞かなければいけない。
そんな話をされて、バス停で降ろされた。
たまらなく惨めだった。
消えてしまいたい。
そして怖かった。
自分が誰かを好きになって、母と同じように心変わりして、誰かを傷つけたら。
私に子供ができて、私が母と同じように不倫をして、それが子供に知られたら。
そうなるくらいなら、初めから誰とも付き合わない。
誰とも結婚しない。子供も絶対に産まない。
家族なんていらない。
