博士の愛したクルマと出会ったときのおはなし。

206はもともと安い。
そして中古市場価格はびっくりするほど低い。
 
学生時代、ボロボロになった205を手放してからちょうど20年、
ずっと206が世間から忘れ去られるのを、わりと計画的に待っていたところがある。
ときおりマニュアルの個体がどれくらい出回っているのか中古市場をチェックしながら、
気長に待つということもなく待っていた。
もう学生時代とは違って子供もいるので、使い勝手を考えて5ドアで、
マニュアルで、色は汚れの目立たないシルバーで、と条件を出すと
なかなか巡り合うこともなく時間が流れていたのだけど、
今年の年明けに近所の欧州車専門の中古車屋さんにポッと出た。
その価格がえ?っというくらい安く、「置くとこないから今すぐ持って行って!」というメッセージを発していた。
 
学生時代に205を発見したときも、え?っというくらい安かったのを思い出し、
ああ、206もいまが底値で、ここで確保しないと消えていくなと直感したので翌日試乗してその場で買ってきた。
お店の人ともなんでこんなに安いのか?という話しを一応したのだけど、聞かなくても分かっている。日本では需要がないからだ。
1,4Lというエンジンとラグジュアリーを売りにしない内外装、マニュアルミッション。
2002年にフランスにいた頃は、このクルマを普通のおばさんが普通に運転して日常の足にしていたけど、
日本のおばさんはこれに乗ってスーパーに行かないし、行けない。
そういうわけで日本にあるマニュアルの206は、軽くて実用的な車の操作を楽しむという、かなり限られた人たちによって
所有されてきたことは間違いない。
 
中古車屋さんのガレージでこの206に乗り込んだとき、車内に白髪が何本か落ちていたので助手席にいるお店の人に前のオーナーさんの事を聞くと「何か自動車関係のお仕事をしている博士のおじいさんで、仕事で横浜から名古屋まで出張するのにこの206を使っていたようですね。これを手放して、もう一台持っているアルファロメオだけに整理することにしたんですよ。」という。
やっぱり、と嬉しくなった。
これは、このモデルの価値が分かる、好きな人がちゃんと乗ったクルマだ。
175/65R14インチの太過ぎず薄過ぎないごく普通のタイヤ。コロコロクルクルと軽快に走りまわってくれそう。
 
206のマニュアルでいま市場に残っているものの多くは、太めの大径ホイールを履いて走る気満々の個体が多い。
反面、まったく飾らない素のモデルをマニュアルで乗るというセンスを持っている人は少ない。だからこの個体は存在じたいがすでに貴重。
博士、ほんとに枯れた良い趣味をしている。
肩ひじ張らないこの素のモデルがじつはいちばん良いのだと私も思う。
 
整備記録もしっかり残っていた。さすが博士。
9万キロを越えていたけどこの距離を過走行と考えるのは日本市場の習慣になっているだけで、
ちゃんと手を入れたフランス車は10万キロからがいよいよ本番だという考え方もある。
 
そんなストーリーと一緒に手に入れることができて良かった。