人形屋の前を左に曲がって、坂をおり、東海道線の鉄橋をくぐる。
その先を右に曲がるまでは、よく見た故郷の田舎道だった。
しかしその後の道は広く、整備されていて、まるで別世界だった。
ぼくは思わずブレーキを踏んでBMWを停車した。
ぼくの実家があった場所には白くて新しい三階建てか四階建てのビルが建っていた。
そしてビルの前にはコンビニがあった。
ビルの窓に夕日が映り込み、きらきらと眩しかった。
ぼくは軽い目眩を感じて、しばらくそのビルを見ていた。
よく見るとビルの前に、駐車場を示す『P』という青い標識があり、その下に中年の男が立っていた。
ぼくが見ていると、「おいで、おいで」をするように右手をひらひらさせた。
ぼくは何かに取り付かれたように、BMWを静かに発車させて、その男の前に行った。
その男はぼくの父親だった。
「地下が駐車場だ」
父親は懐かしい笑顔でそう言った。
ぼくは言われたとおり、地下にBMWを停めた。駐車場は二十台くらい停められそうな広さがあった。
「三階がうちだから」
そう言って、父はエレヴェータのある方向を指差していた。
父とエレヴェータにのった。父は何も言わず三階のボタンを押した。
エレヴェータは音もなく動き、やがて三階に止まり、ドアがあいた。
出ると左右に廊下がのびていた。正面に何か奇妙な置物があった。廊下も壁も白い。
父はその白い廊下を右の方に歩いていった。
左側にいくつかドアがあった。
「ここが事務所。こっちが応接間。その向こうがお前の部屋だ」
ぼくはまったくわけがわからなくなった。
いったい親父は何をやったんだ。
三階の廊下の窓から外を見てみると、見渡す限り建物が埋め尽くしていた。ぼくが小さい頃見た、あのみかん畑や竹林、雑木林は消えていた。そのかわりビルやコンビニや商店がひしめいていた。
ぼくはまた目眩を感じて、しばらくその奇妙な風景を見ていた。
しばらくそうしていたら、父がいないことに気づいた。
ぼくは父が応接間だと言った部屋のドアをあけて、部屋の中に入った。
部屋は白い。壁も床も天井もすべて白く塗られていた。
白い壁があるだけで、ソファもテーブルもない。そしてなんと窓もない。
四角形の部屋のそれぞれの辺にドアがあった。ドアも白かった。
ぼくは右側のドアをあけた。見ると、同じだった。ドアの向こう側も白い部屋だった。
ぼくはその部屋に入って正面の白いドアをあけた。
いやな予感がした。見ると思ったとおり、そのドアの向こうの部屋も真っ白だった。
「おーい!」
ぼくは思わず声をだした。しかしその声は白い部屋の中に小さく響くだけで、誰からの応答もなかった。
ぼくはその部屋を突っ切り、また白いドアをあけた。予想通り、その部屋も真っ白だった。
どうなってるんだ、これは!
ぼくはもう一度「おーい!」などと声を発したが、やはり無反応だった。
ぼくは何度も何度もドアをあけて、白い部屋を走り、最後には狂ったように叫び続けていた。
いくつ白い部屋を通っただろう。ぼくは白い床に倒れ込んで、仰向けになり、ぜいぜいと息を荒くしていた。白い天井が見える。あれ?おかしい。部屋には照明もない。蛍光灯もLEDのライトも何もないんだ。
そう思った瞬間、いきなりすべてが消えてしまった。
真っ暗。漆黒の闇。無。何もなくなった。空間も時間もどこかへ飛んでいってしまった。
ただぼくの意識があるのはわかった。でもただそれだけだった。他には何もない。
何もなくなった。
いや、元からなかったのかもしれない。
しかし、1月2日の朝、目覚めると、ぼくの周りにいつも見ていた景色が戻ってきた。
これが2014年の初夢だった。