「痛くないか?」
「大丈夫です。」
担当官が私の手首に手錠をかけながら毎回確認をする。
その後、手錠から伸びる腰紐を巻かれ後ろで結ばれる。
特殊な結わえ方があるのだろう。
私からその様子は確認出来ないが、規則正しく動く手の様子から想像することができた。
「37番退出!」
留置所の扉が開けられると、その先には見覚えのある顔があった。
私の背中で腰紐が渡され、留置所の扉が閉められた。
「社長、今から取り調べするから」
そこには、私を逮捕した二人の刑事が立っていた。
二人の顔を見た瞬間、一気に怒りが込み上げてきた。
「お前ら!いい加減にしとけよ!」
「まぁまぁ、社長落ち着いて。取り調べで言い分は聞くから。」
小馬鹿にしたような態度に腹がたち、腰紐を持つ刑事を身体をひねり振り払った。
意表を突かれた刑事は、パーテーションに身体をぶつけて倒れた。
その瞬間、どこから出てきたかわからないが、私は三人の警官に取り押さえられた。
「暴れるな!」
手錠をされ首に腕を回された状態では、流石に身動きをとることは出来なかった。
私は落ち着きを取り戻し、取り調べ室へと歩みを進めた。
施錠されたドアをいくつもくぐり、エレベーターの中では壁と向き合い、廊下の死角では「被疑者通ります!」と、担当官が声を張り上げた。
すると、廊下に面した部屋のドアが一斉に閉められる。
刑事はそれを確認すると再び歩き出した。
廊下を2/3ほど進むとドアが開いたままの部屋があった。
前を歩く刑事が私を制止しながら部屋を覗きこんだ。
部屋に誰もいないことを確認し、再び歩き出した。
その部屋の前を通過する際、私は何気なく部屋に視線を移した。
突き当たりの窓から晴れ渡った青い空と、街の景観が見えた。
ほんの一瞬だったが、改めて現実を認識するには充分な時間だった。
「俺は閉じ込められているんだ…社会から隔絶されている…」
私は、自分の心拍数が上がるのを感じた。
また、外の様子が見えない、わからないということが、人間に大きなストレスを与えるということがわかった。
警察組織は、この心理を利用しているのだろう。
ようやく通された部屋には、壁添いに二つの事務机が向かい合うように並べられ、反対側にも机が一つ置かれていた。
向かい合った奥の机に座らされると、刑事が手錠を外した。
しかし、手錠から伸びた腰紐は巻かれたまま、外した手錠は机の脚にロックされた。
「平成○年○月○日○時○分、被疑者村井三雄の不正競争防止法違反について取り調べを行います。あなたには黙秘権がありますので、自分の不利になることは無理に言わなくても構いません。」
こうして私の無実への戦いが始まった。





