時系列:2017



「社長、社員やご家族に伝えることがあれば言ってください。」

弁護士の渡辺が憐れむような表情で言った。






「先生、私はどれくらい勾留されそうですか?」

「私も今の段階ではなんとも言えません。何故逮捕されたかが謎です。
通常、逮捕する理由としてあげられることが3つあります。
1.逃亡の恐れがある。
2.証拠隠滅の恐れがある。
3.住所が不定である。
社長の場合、会社もあり自己所有の住宅に家族も住んでいる為逃亡はあり得ない。
既に家宅捜査され資料を押収されているので証拠隠滅は出来ない。
全てに当てはまらないのです。
どう考えても40人体制で家宅捜査をした警察のメンツを保つ為に強引に逮捕状をとったとしか思えない。
とりあえず捕まえて別件で逮捕しようということですよ。」

「えっ、警察のメンツの為にこんな目にあってるの?報道までされて既に犯罪者扱いじゃないですか!」

「社長、マスコミの報道にも問題があるんですよ。ここをよく見てください。
産地偽装の疑いで逮捕と書いてあるでしょう。
社長は、まだ疑いをかけられているだけなんです。
黒じゃないんです!
それなのにこの扱いです。
最近のマスコミは、真実を伝えるという使命を果たさず、取材もせずに共同通信の記事を買って話題を作るだけです。
だから、記事の内容はどこも一緒。
でも、一般の人が見たら犯罪者としか見ないですよね。
最近、ようやく損害賠償を行う方が増えてきましたが、ほとんどの方が泣き寝入りです。
少し話がそれました。
私が思うところ、明後日検事のところへ行き、そこから10日で出れると思います。」

「先生、社員には私がここを出るまで専務を中心に頑張ってもらうよう伝えてください。資金繰りも大丈夫です。久恵に任せておけば問題ありません。
家族には、なるべく外出を控えるように伝えてください。」

「わかりました。」






「お疲れさん。弁護士さんどうでした?」
28番が視線を本に落としたまま聞いてきた。
「賑やかに報道されてるようです…」
「ホンマですか?37番さん何しましたの?」
「ほんと大したことじゃないんです…」





私はコンクリートの天井を見上げたまま声を出さずに呟いた。

なんでこんなことになってしまったんだ…






やがて昼食が運ばれてきた。
相変わらず粗末な弁当で28番がいつものように大声でぼやくと、奥の部屋から舌打ちや落胆の声が聞こえてきた。

今の私には弁当の味などどうでもよかった。
なによりも、取引先の反応か一番の心配だった。


部屋に担当官が近づいてきた。

「37番。昼から取り調べだ。」



私は怒りに震えた。

報道の文句を、思い切り言ってやろう。

私はそう決意し、取り調べ室へと向かった。