修復(3) | Classic to Modern デコラティブアート的造形と家具作家の日記

修復(3)

 

今回は釘穴を埋める作業から仕上げまでをご紹介します。

 

それでは釘穴を埋めていきます。

道具はワックスと電気コテを使います。

 

 

イギリス時代から使っているワックスストックの中から

ドアノッカーのパネルに近い色のワックスを使って修復していきます。

 

 

電気コテでワックスを溶かし、釘穴に充填します。

 

 

赤い○の箇所にある釘穴をワックスで埋めていきます。

*白い○は既にワックスを充填した箇所

 

 

充填直後のワックスは溶けているので艶があります。

ワックスは冷えて固まると痩せて凹んでしまうので、周囲の表面より

少し盛り上がる程度に充填します。

 

 

ワックスの艶がなくなったら固まった合図。

 

 

固まったワックスをスクレイパーを使って削ぎ落とし、周囲との段差を

無くします。

 

この時点でも既に釘穴がどこにあったか判らなくなりました。

 

ワックスを使った穴埋め修復は割と簡単で、それほど神経も使わず

無心になれるので大好きな作業です。

 

ここで余談ですが、ドアに固定するためのボルト穴周辺に塗膜の

剥がれがありました。

どうやら制作された当初は赤みがかった茶系の塗装だったようです。

その後のメンテナンス等で黒く塗られたものと考えられます。

このように傷や変色等から「物」が辿ってきた歴史を推測するのも

アンティークの楽しみの一つです。

 

 

では修復に戻って、作業中の生徒(ドアノッカーのオーナー)さん

 

 

中々ない機会なので他の生徒さんも修復体験。

 

 

全ての釘穴に充填が終わったら、サンドペーパーの裏面を使って

磨いていきます。

 

 

パネルの表面を傷つけずに、柔らかいワックスの表面を周囲に馴染むように

整えます。

 

パネル表面とワックス表面の段差が無くなりました。

 

今回の仕上げは着色やニスは使わずにワックスで。

 

上半分をワックス掛けしたところ。

 

全体にワックスを掛け終わると、落ち着いた綺麗な艶が蘇りました。

 

ワックスを掛ける前と後。

 

ノッカーパーツを戻して修復は完了です。

 

修復前と比べるとアンティークが持つ独特な雰囲気はそのままに

綺麗な姿になりました。

 

日本でアンティークの修復というと、製作された当時のように

綺麗にすることを要求されがちなので、アンティークにあまり

興味のない方から見ると「どこを修復したの?」と思われるかもしれません。

その位「通好み」の修復内容でした。

今回の修復方針が「パティーナ(経年変化の味わい)を大切にする」

ということでしたので、狙い通りの仕上がりになったと思います。