「江戸末期に作られた車箪笥の修復4」
いよいよ箪笥の塗装に入ります。
今回は日本の伝統技法である拭き漆で塗装していきます。
拭き漆は、漆を専用の和紙に染み込ませて塗り重ねる塗装方法です。
漆が乾燥、硬化するためには、気温27℃以上、湿度70%以上の環境が
必要なので、日本の夏場は最適です。
箪笥に付いている鉄の部品は塗装したくないので、全てマスキングテープで
養生します。
これから塗装する木部は、すべての汚れを洗浄して落としてあります。
最も重要な事は、百数十年かけて作られた箪笥のケヤキ材の古色を絶対に
落とさない事です。
この古色に古美術品としての大切な価値があります。
なのでサンディングは一切しません。
木の表面に残っている油分も取り除いて塗装スタートです。
漆と箪笥の古色がどんな風合いを生み出すか楽しみです。
漆を塗って乾燥させるプロセスを5回ほど繰り返した状態です。
天板の色がとても美しくなってきました。
全ての塗装が終わって、木部も鉄部もきれいに磨いて完成です。
古い物の風合いは全て残して美しく仕上がりました。
漆で塗装された木部と、とても手の込んだ造りをした鉄の金物とのコントラストもとても美しく、この箪笥の大きな魅力です。
日本の家具デザインや工芸技術を勉強する貴重な修復でした。
「江戸末期に作られた車箪笥の修復3」
前回「江戸末期に作られた車箪笥の修復2」では鉄で作られた部分の修復が終り、次は木部の塗装に入りたいところですが、木部の修理を先に終わらせます。
まずは引き出しの底板の修理から始めます。
日本の伝統的な引き出しの作り方の特徴は、底板に無垢材、この箪笥では
桐板や杉板が使われている点と釘で引き出し本体に取り付けてある事です。
当然無垢の板は年々乾燥して縮んで寸法が小さくなっていきますが、釘で
磷付になっているので自由に縮めません。
その縮む力は逃げ場が無くなり、底板が割れて隙間ができます。
これを修理するには、割れた底板を一度引き出し本体から外して、隙間無く
接着して、寸法が足りなくなった部分に新たに板を足して、再び本体に取り付けます。
底板の固定には竹の釘が使われていたので、焼鳥用の竹串を使いました。
真っ直ぐに竹釘を打つと簡単に抜けてしまうので、ハの字になるよう斜めに
打ってあります。
こうすると絶対に抜けなくなります。
次に天板の修理をしました。
天板も無垢のケヤキ板を鉄の釘で固定してありました。
引き出しの底板と同じで釘が天板の縮む力を妨害して、釘の周りが割れる形でその力が逃がされました。
修理のために天板を外して、割れた部分を膠で隙間無く接着しました。
その後天板を裏返して、割れた部分が再び割れないように、天板の厚みの半分のケヤキ材を割れた部分を橋渡しするように埋め込んでいます。
他にも天板表面に幾つもヒビが入っていました。
これ以上ヒビが進まないように、天板裏に椅子張りに使う丈夫な麻テープを
膠で貼り付けました。
イギリスの家具修復で使われる方法です。
この後箪笥本体に天板を接着しました。
釘を使うと将来また天板が割れてしまうので、膠だけで接着しました。
これで箪笥全体の塗装に入る準備ができました。
続きは次回で。
「江戸末期に作られた車箪笥の修復 2」
この回から車箪笥の修復作業を紹介していきます。
この箪笥は長期間蔵の中に収蔵されていました。
その過程で湿気にさらされて、鉄製の取手や丁番などは酷く錆びていました。



厄介なのは赤錆で、このまま放置すると腐食が進行してボロボロになって、
金物本来の役割を果たせなくなります。
赤錆を薬品で除去して、取りきれない部分は赤錆を黒錆に変換する薬品で
処理する必要があります。
黒錆は安定した状態で、それ以上錆が進行しなくなります。
通常金属パーツを修復する際は家具本体から取り外して、心置きなく処置できるのですが、この箪笥の金物は鉄の釘で固定されていて、その釘が赤錆でもろくなっている上に木部と癒着していて、取り外そうとすれば折れてしまいます。
この修復は治す事と同時に保存する事も大きなテーマなので、現状を悪化させる方法を使うわけにはいきません。
なので薬品が木部に付着しないようマスキングテープで金物の周りを保護しました。




曲線の多い金物がたくさんあったので、とても時間のかかる作業です。
すべての処置が終わった状態です。



赤錆は除去されて、状態のよい古い鉄の黒さになりました。
続きは次回で。
コレクションの台座制作
今回は、生徒さんが製作したコレクション展示用台座をご紹介します。
製作は、事前に用意した設計図をもとに、材料の製材からスタートしました。
使用した木材は硬くて耐久性の高いホワイトオーク。
まず角材を旋盤で棒状に加工します。
次にデザインを写し、形状を削り出します。
サンディングをした後、旋盤から外して切り離します。
台座部分は支柱が差し込まれる穴を開け。トリマーで縁加工を施しました。
サンディングを終えたら次は塗装です。
塗装には、水性ステイン(染料)の「Water Crystals Walnut」(イギリス製)を使用しました。
この水性の染料は水で溶いて濃さを調整できるため、今回は木目を活かしつつ、落ち着いた深みが出るよう濃度を調整しています。
乾燥後、軽くサンディングを行い、その上からニス塗りへ。
ニスは数回に分けて塗り重ね、しっかりとした塗膜を作ります。
最終工程ではニスのテカテカな光沢を抑えるために、スチールウールで
研磨して塗装面に細かい傷をつけて、ワックスをかけ、全体を丁寧に
拭き上げて完成です。
クラシカルで存在感のある台座に仕上がりました。
鈍いツヤがどこか古めかしい雰囲気です。
この時点では、「何が飾られるのか」は私も聞かされていなかったのですが、
後日、コレクションが飾られた写真が送られてきました。
台座に設置されていたのは、サーベルタイガー(スミロドン)の頭骨化石。
元々は3Dプリンターで制作された台座がセットされていたそうですが、
デザインがシンプルすぎたため、今回あらためて木製で制作したとのことでした。
元の3Dプリンター台座
木製台座
確かに元の台座は無機質で安っぽく見えてしまいます。
今回製作した台座はヨーロッパの古い博物館で使われているような
スタイルなので、より考古学的な価値があるように見えますね。
飾り方は大事です。
「江戸末期に作られた車箪笥の修復 1」
珍しく日本の家具の修復をしました。
ケヤキ材で作られた車箪笥です。

江戸末期に北陸地方で作られた箪笥です。
お薬屋さんのために特注で作られ、そのまま一度も売却もされず、一度も
修復もされずに保管されてきたとても貴重な家具です。
ヨーロッパのアンティーク市場の価値基準から見ても、とても貴重な条件を
満たしています。
どこでいつ作られたか?がわかっていて、一度も修理や修復がされていないので、作られた時のままの状態で保存されている。
この状態だと、古美術品としての価値が高くなります。
箪笥の状態を見てみましょう。

天板はケヤキの一枚板で、幅は1m近くあります。
かなり太い丸太から切り出された材料です。

天板は釘で固定してあります。
この方法で無垢板を固定すると、年月と共に天板が乾燥して収縮する動きを
釘が止めてしまうので、画像のように釘の周りの木が割れてしまいます。




鉄製の取手や鍵もとても複雑な造形です。
錆が全体に見られます。



お薬を保管する用途のため、引き戸の中にもたくさんの引き出しがあります。
鍵付きの引き出しが多いのも特徴です。

画像の小さい白木の引き出しは、桐板で作られています。
桐材は防虫効果を損なわないよう塗装をしないので、手で触った時に手の脂が木肌に直接付着して酸化することで、表面が黒ずんでいます。
箪笥全体は元々薄く漆塗りしてあったはずですが、長い年月を経て漆は
ほとんど無くなっています。
代わりに様々な汚れが箪笥全体を覆っています。

汚れの下には150年以上手付かずの美しい古色があるのが見て取れます。
この古色がこの家具の価値を決める最大の要素の一つになります。長い年月をかけてしか作られない、新品の家具では作れない色だからです。
この修復では主に、鉄部の赤錆を落として保存性の高い黒錆に変換する。
古色を落とさないように全体を徹底的にクリーニングして、漆で再塗装する。
古色はカンナがけや、サンディングで簡単に落ちてしまうので、今回は刃物やサンディングを使わないで修復しました。
次回から修復のプロセスを紹介します。














































