★★★★★★★★★★

1999年 119min.

ネタバレ オチはふせておきます

敬称略

 

 

 東野圭吾、号泣なしには読めない原作の、映画化作品です。

 

 「疾風ロンド(疾風ロンド | みたたの日常と映画ざんまいそしてディズニー! (ameblo.jp))」でも説明しましたけれど、わたし東野圭吾の大ファンでありまして、全作品を3廻りしておりますが、とくにこの「秘密」に関しては、とにかく泣き倒しました。3廻り目でもまだ泣けますよ。わたしにとってはそういう作品なのです。

 

 

 主に電車通勤の空き時間で読んでたのですが、とにかく電車ではまずいということになりまして、仕事の昼休みにトイレで読むという荒業でして。なんとか声がもれないようにして、約40分ほど号泣するという。今思い出しても、十分泣けますね。

 

 ざっとのあらすじは、両親と高校生の娘一人の三人家族で幸せに暮らしていたある日、スキー旅行(名目は母親の里帰りですが)にでかけた母と娘の乗ったツアーバスが、雪山の道路で崖下に転落という大事故に遭い娘だけが助かったが、実は娘の身体には亡くなったはずの母親がのり移っていた、というところから、奇妙な父娘の生活が始まったけれど、次第に娘の人格が現れるようになって最終的に・・・・・・、という感じでしょうか。

 

 なるべくネタバレしないようにすると、こんな中途半端な説明になってしまうのですけれども、まあなにしろこれが泣けるんですよ。

 

 娘の身体なのに中身は妻で、でも娘も現れてくるようになって、次第に妻の意識が薄れていって娘だけの時間が長くなって、と。

 

 これ、もし自分がこの父親だったら、と思うともうやるせなくてせつなくて、感情の持っていきようがまったくわからなくって、しかもそのまま行ったらもう一度妻を失うことになる、なんて考えたらもうまったく涙がとまりませんでした。

 

 そしてラストのオチは、わたしにとってはほんとうに衝撃で、とうとうここでは声を上げずにはいられなかったという、東野圭吾作品の中でも一番好きな話なのです。

 

 さあ、で、それを映画化というのですから、観ないわけにはいきますまい、ということで観たのですけれども、これまた邦画の名作と言ってもいい、珠玉の一品に仕上がっておりました。

 

 とりあえずまずは、娘役の広末涼子が信じられないくらいの可愛さで、それだけでおじさんは画面にくぎ付けになってしまいます。あの透明感はいったいどこから来るのか、というほどのみずみずしさで圧倒してきます。なにやら吸い込まれてしまうのではないかという思いで、グッと観入ることになるわけですね。

 

↑いやもう、なんか別格です。

 

↑透明感、ハンパないです。

 

 お母さんの岸本加世子もまた、そりゃこの母親ならこの子が生まれてくるわな、というくらいのかわいさで、ダブルで引きずり込もうという魂胆だったのでしょうか。

 

 じつは、この岸本加世子が亡くなって広末涼子が目覚める時に、岸本加世子の結婚指輪が光る、なんていうちょっとクサい場面があるにはあるのですが、それもこの二人のパワーでまったく気にならないように仕上がってます。

 

 そうして開始10分たらずで、この作品のキモであるところの、二人の入れ替わりが完成するのですけれども、もうそこから最後まではずっと父親(あるいは夫)目線となりました。まあわたしが男だからそれは当たり前なのでしょうが、逆に父親目線にしかなれないところに、じゃあ女性だったらどういう感情になるのだろう、というのはすごく興味のあるところですね。ただそれは、おそらく原作者の東野圭吾にもわからないことですよ。男ですからね。男にとってはいつまでたっても、どう頑張っても答えの出ない、ひょっとしたら永遠のテーマになるのではないかと思えるくらい、それくらいの話を書いてしまった東野圭吾は、やはり天才なのかもと改めて思わされたのでした。

 

 で、男目線で話を進めますと、やっぱりこれ、もうどうにもやるせなくって切なくって悲しくってしかたありません。

 

 もちろん、妻も娘も、どちらも最愛です。どちらも失うわけにはいきません。それはゆるぎないところです。ただ、わたしも実際に娘二人の父親でもありますから、夫として、父親として、と考えると、答えは出せなくなってしまいます。ただひとつ言えるのは、わたしにとって娘は、命に代えても守ることのできる存在であり、わたしにとっての妻は、命がけで守る存在である、ということです。同じようなことを言っているようですが、じつはそうではないということはお分かりになっていただけるでしょうか。子供というのは、血のつながった、いわば分身であり、妻は、血はつながっていないけれど、心から愛する存在で、でも双方ともいなくなっては困る存在だ、ということなんですね。

 

 さて、で、そうなってくると、観ているわたしの感情の整理は、もう不可能ですよ。妻と娘に対する思いは違うのに、でもそんな娘の身体の中に妻がいる。いったいなにをしてくれたんだ、東野圭吾、という思いで本を読み、そして映画を鑑賞する羽目になった、ということなのでした。

 

 「こんなことが科学で解明できるのか?」なんてセリフを書く人が、のちにガリレオを書くんですよ。やはり天才なのでしょうね。いちいち引き込まれながら観ている自分に気付くことになりました。

 

 まあそれにしても広末涼子はすごかった。この一言に尽きます。当時19歳ですよ。それであの演技ができる、なんて言われた日にゃ、どこぞの大女優もひれ伏す、くらいの勢いにわたしには見えましたね。特に入れ替わってからの彼女は、広末涼子の皮をかぶった岸本加世子、にしか見えなかったんです。まさにだから、小説世界を体現している、ということですから、末恐ろしさすら感じました。父親役は、日本が生んだ最高の役者、小林薫なのですが、そんな名優をすっかり食ってしまう演技は、手放しの称賛に価すると思います。それほどすさまじい演技力を魅せてくれました。特に、実家に里帰りした一連のシーンは秀逸です。

 

↑秀逸の場面です。ここ、泣けます。

 

 ただしかし、やはり名優、小林薫、そんな広末涼子の演技にしっかり呼応するかのように、娘の身体に妻がやどるという、なんともやるせない思いを必死で隠しながら、次第にそんな状況を受け入れていく、しかしラストはどんでん返しで、という一番難しい心の葛藤を演じきり、さすがの名優ぶりを発揮してくれました。申し訳ないですが、ハンチョウ佐々木蔵之介と志田未来にはムリです。

 

↑独特のだみ声にこの表情はもうたまらんですね。

 

 その他共演陣は、今からするとけっこう豪華でした。

 

↑懐かしのしのらー。今とはまったく違うキャラですが。これを見ると、そらやっぱり吉田拓郎もイヤがるわな、という感じではあります。ごめんなさい。

 

↑ゆりちゃん!とても高校教師とは思えないミニスカボディコンでしたが(当時の言葉です(;^_^A)、かわいさは今もかわらないことに驚きです。

 

↑若き國村さん。当時はまだ脇役だったのですね。

 

↑今は亡き大杉さん。惜しい方を亡くしました。邦画界の大損失であったことは間違いないでしょう。もっとたくさん出演作を観たかった、と心から思いました。

 

↑原作者の方です。爆  笑 本人はのちにめちゃくちゃ反省してました。笑い泣き

 

 途中から、金子賢が参戦してきますが、これがまたいい演技をしてますよ。当時はデビューしてからわずか3年ですが、そうとうな実力派俳優だと思います。いつ方向性を間違ったのか、もったいないと心から思わせる、そんな演技でした。登場から徐々に心が変わっていく様をしっかり演じ分けていて、ラストはこれまたしっかりと泣かせてくれました。称賛です。

 

↑「ジャンクSPORTS」を思い出しました。ウインク

 

↑伊藤英明も若かったですね。けっこうダサかったです。

 

 演出は、なかなかに昭和の香りがしてました。純和風、という感じでしょうか。監督は滝田洋二郎。もともとポルノ映画の監督だったのが、内田裕也に見いだされた逸材、とのことです。野村萬斎の「陰陽師」の監督さんですね。そう聞くと、ああそんな感じの作風だな、とナットクです。だからなのでしょうか、風呂で背中を流すなんてのも、まったくもって昭和のシーンではありました。

 

 ちなみに、途中テレビで野球中継をやっていて、「2位中日は、広島をホームに迎えて」なんてやってましたけど、そういえばこの公開年である1999年は、我がドラゴンズが、星野第二次政権下で11年ぶりの優勝をした年でありました。ここは、名古屋に住んでいた東野圭吾に敬意を表した、というところなのでしょうか。(東野圭吾と名古屋の関係性については前出の、拙ブログ「疾風ロンド」をご参照ください)

 

 そんなことを思いながら、食事のシーンでは、ひょっとしてこの料理は小林薫が実際に造ったのではないのか、などと「深夜食堂」を思い出しながら、徐々にラストへといざなわれて行きます。そこらへんの演出の妙は素晴らしかったと思いますよ。

 

 まあなにしろ、そもそも原作が素晴らしいわけですから、ストーリー展開は安心して観ていられるところではあります。ただ、原作そのままにあっちの(エッチの)ほうの話が出てくるのですが、これがあるために、ほんとは娘や妻たちと一緒に観たいのにそれができない、というのがザンネンでなりません。まあ、若かりしときの東野圭吾作品にはけっこうエロいところがありまして、血気盛んだったのでしょう。男ですからね、しかたないですが、観てる方の側にもなれよ、という気もしないでもないです。

 

 ただ、やっぱり男だからこそ、小林薫がなにやら嫉妬するシーンは妙にリアルで、広末(イコール岸本加世子)が「相手は子供でしょ、わたしを信じてよ」という部分はわからなくはないですが、やっぱり小林薫の嫉妬に共感してしまうのです。まあ、そのあとのストーカー行為は共感できませんが……。

 

 ただそれも、やはりこの二人にかかるとどうでもよくなってしまいます。ここではじめて広末と小林薫が言い合うシーンになりますが、原作でもひとつ号泣シーンだったのですけれども、それをこの名優二人が見事に表現してくれ、鳥肌が立つほどの感動を覚えました。素晴らしいシーンです。

 

 ラスト、岬灯台からエンディングまでは泣きっぱなしです。オチはじつは原作と若干違うのですが、そこは原作よりもわかりやすくなっていて、違和感はまったくありません。最高のオチでした。

 

↑もうせつなくてせつなくて……。

 

↑涙が止まりませんでした。

 

 最高の原作に、最高の脚本、そして最高の役者が二人。しっかりと堪能して泣ききった、珠玉の名作でありました。

 

 

今日の一言

「え、小林薫、意外に足あがるなあ」

 

 

レビュー さくいん