彼らの言葉で話してみてくれ。
「ぷっぷっぷっ!」
「おーけい」
僕は手に唾を吐く真似をしてみせた。実際に唾を飛ばしたわけではないのだが。
するとドクターがOKと言った。僕は安心して散歩の続きをした。
昨日雨が降った所為で、波はまだ高く、砂浜の奥へと白い気泡のヴェールを作ったかと思うと、またすぐに消えるようにして去っていった。普段見慣れない緑色の光沢を帯びた石が所々に輝いていた。
「ぷっぷっぷっ」
僕は自分の手に向かって言った。
「ぷっぷっぷっぷ!」
自宅のパソコンからアマゾンで本を買った。さっき届いた。早速読んでみたが、さっぱりわけが分からなかった。仕方ないので、途中で読むのを止めて、家の周りを散歩することにした。
「ぷっぷっぷっ」
一軒家の家とアパートとマンション。塀と電柱と電線。柵と看板と何かの配電盤と標識。信号機と横断歩道と歩道橋。雲と空と雑草と小石。アスファルトと「ぷっぷっぷ」ガードレールとカーブミラー。庭と車とベランダと洗濯物。バイクと自転車と人とヘリコプター。街路樹と木々と花と風。太陽と影と土と砂。縁石と点字ブロックと白線。高速道路の高架と飛行機と公園とベンチ。「ぷっぷっぷっ」蟻とジュースの自動販売機と空き缶入れ。水飲み場と砂場と公衆トイレとブランコ。
ふたつ並ぶブランコのひとつに君が乗っている。軽く漕ぎながら手摺に腰掛けて立っている僕をずっと見ている。その表情は新しい悪戯を秘めた小悪魔の顔をしている。眼が輝いているが、僕は騙されない。「ぷっぷっぷっ」彼女は僕を馬鹿にしているようにも見えるし、仲良くしようとしているようにも見えるのだが、油断は禁物だ。何時なにが起こるかわからない。
高速道路の高架の下はフェンスで覆われたスペースがある。扉には錠が掛かっている。内側から扉を揺さぶって開けようとしている男がいる。僕はフェンスから離れる。
「ぷっぷっぷっぷ」
周りは自動車の喧騒だけがある。それでも男が何も言わずに扉を開けようとしていることはわかった。だが男は諦めると、僕に背を向けたまま立ち竦み、そのまま動こうとしなかった。僕はその場を後にした。
ショーウインドウの前で僕は足を止めた。小さい女の子がいる。内側から両手を分厚い窓にぴったりと付けていて、掌が茶色に変色している。女の子はガラスの向こうからじっと僕を「ぷっぷっぷっ」見ている。ずっと見たままガラスから離れないので、僕は手を振ってさよならをして、その場を去った。数歩して斜めに振り返って確かめると、まだあの子がガラスに両手を付けたまま顔だけ向きを変えて僕を目で追っていた。
僕は散歩から帰ると、風呂に入ってからパソコンの電源を付けて「ぷっぷっぷっ」ドクターに近況を報告した。彼は留守だったから、書置きを残しておいた。「ぷっぷっぷ」この前買った読みかけの本を手に取り20ページほど読むと眠たくなってきた。特に他にすることも思いつかない。スマホを手に取り、SNSを見ていると2時間が経過した。PCの電源を消して、歯を磨き眠ることにした。ベッドに若く髪の長い女が眠っていた。肩にそっと触れて、試しにそっと揺すってみても起きる気配がない。仕方がないので、彼女の隣りに入って眠ることにする。この子は害が無さそうだ。それに冷たくもない。
暫くして不図眼を覚ますと彼女はいなくなっていた。時計を見ると真夜中だった。僕はそのまま眠ろうとしたが眠れず、一旦起きることにした。ベランダの隙間「ぷっぷっぷっ」から光るものがある。またか。カーテンを開けて、ベランダの窓を開ける。ベランダと隣室のベランダとの隙間、仕切り板の下に六角形の発光体がある。今日で3日目だ。隣室の人は気付いていないようだ。「ぷっぷっぷ」ラバー付きの手袋をした両手でそっと触れ、片手に載せると、台所の水道水で流す。すると光らなくなり、ただの石のようなものになった。でもそれは昨日や一昨日と同じ形をしていなかった。また別のものらしい。外に出て、またゴミ置き場に置いて来た。その後暫くして再び眠ろうとすると、ベッドにさっきの髪の長い若い女が眠っていた。僕は疲れを「ぷっぷっぷっ」感じて、またそのまま隣りに入って眠った。
朝起きた時、いつも通りの朝が来たことがわかった。そして何も変わらない、いつも通りの一日が始まろうとしているのだ。ただ、何かが少しだけ、ほんの少しだけ、違うだけで、他は何も変わらないのだ。