みなさんは、いつかどこかで聴いた、同じメロディー、フレーズが頭の中でグルグルと繰り返されて、なかなか止まらないことありませんか?
私はしばしばあります(;^_^A その現象を自分の中では「脳内フォルクローレ祭り」と呼んでいます。
それは、何の前触れもなく、突然始まります。
先月は、入会したばかりの某社会人フォルクローレ・サークルの練習の帰り道で、突如「脳内フォルクローレ祭り」が始まりました。
生まれて初めてケーナの練習を始め、他の人と音を合わせた興奮の余韻が頭の中に残っていたのでしょうか。
(……今はまだ無理だけど、いつか、サークルの新レパートリーを提案できればイイなあ、aやbだと自分の好みが強く出過ぎてるけど、cやdなら、ケーナの合奏に向いてそうだからワンチャン望みがあるんじゃね!? 明るく賑やか目な曲の方が受け入れてもらえそうだから、簡単なスペイン語歌詞付きの歌物で、既存のレパートリーに被らないとこだと……)
などと、とめどなく考えていたら、脳内でsaya(もしくはtundiqui)のリズムに乗って、あの陽気な調べが聴こえてきたのです。
♪ドンデスタ・ミネグラ・バイランド~ Dónde está mi negra bailando...♪
あー、いつかどこかで聴いた曲、えーと、
La Fiesta de San Benito
みたいな名前だったっけ!?
確か、ハイラスでE.ヤヨ・ホフレが歌ってるはず。インティ・イリマニも演ってたはず。
手元のスマホでYOUTUBEを立上げ、検索してみると、確かにヒット!
Los Jairas
Inti Illimani
久方ぶりに改めて聴くと、ハイラス版は、意外と記憶よりもヤヨ・ホフレの歌が全面に押し出されてはいない。
インティ・イリマニ版は、イタリア亡命後初期の貴重な動画(引用先動画のコメントによれば、イタリアのTV局ではなく、スイスのイタリア語TV局の映像らしい)。
どちらも1967、8年頃から本曲をレパートリーに加えているようだが、ハイラスとイリマニのどちらが先に採譜したのだろうか?
インティイリマニの動画に付いたスペイン語のコメントをいくつか読むと、「オリジナルはハイラスだ!」という書き込みが複数見られたけれど。。
いずれにせよ、これだけ陽気で歌詞もメロディも分かりやすくて盛り上がれそうな曲、昔から最近に至るまで、他のグループも演ってます。
まずは、やっぱりカルチャキスw こちらも映像が残っていました。
欧米を活動の基盤にしていると、昔のグループでも映像が残りやすいですね。
最近のグループでは、Del Barrioというイタリアのグループの動画が興味深い。
リーダーと思しきチャランギスタが超イケメンw
楽器編成にピアノやチェロ、コントラバスが入って、熱帯ではなく都会の風を感じる。
でも、個人的に一番好きな(脳内ジュークボックスでガンガンかかりまくる)のは、外国人フォルクローレオタクの夢を全部実現したかのような、同じくイタリアの誇る超絶変態学究独創グループ、トレンシート・デ・ロス・アンデスによる、ゴキゲンなブラスバンドのバージョン。ちなみに、本曲を収録したアルバムは、ロス・インカス、カルチャキス等に端を発するヨーロピアン・フォルクローレの歴史を総括して軽々乗り越えてしまった、とんでもない名盤だったよねえ。。(筆者個人の感想です)
Trencito De Los Andes * 03 - San Benito (youtube.com)
そして、分裂・グループ名争奪の裁判沙汰(?)等、有為転変のあったインティ・イリマニの最近の演奏も、メンバーの世代交代もあってか、アレンジがガラリと変わって、ジャズっぽくなり、辛うじてチャランゴは出てくるものの、ケーナはお呼びでなくなっている(まあ、もし本当に原曲がBeniの曲だとすれば、オリジナルにケーナが入るはずもない。代わりにバホンが入ったりしたら、それはそれでスゴい)。
いや~、時代は変わったなあ。
昔は、細い記憶の糸をたぐって、手持ちのレコード・CDの山をかき分けかき分けの脳内フォルクローレ祭り開催だったけれど、
今や、YOUTUBEを検索すれば、公式・違法ごったまぜで、古今東西の動画の海で既知未知の映像・音源を溺れるまで楽しめる。
――こうして、脳内フォルクローレ祭り「San Benito」は、果てなく続くのです。
・そもそも原曲って何なの? 誰が採譜した(or創作した)の?
・”...con la saya de tundiqui cantando...♪”って、歌ってるけど、トゥンディキはサヤの一類型なの?
・どこの曲なの? ボリビアの熱帯地方Beniの曲ってことでいいの? それとも別の土地の聖ベネディクト祭の曲なの?
・歌詞、直訳しても、言葉遊びみたいな韻を踏んだだけの、ごくたわいのない内容に見えるけど、本当にそうなの?
そんな疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消え、何一つ確かなことが分からないまま、やがては眠気に吸い込まれていく……。
また別の日に、突如、次の脳内フォルクローレ祭りが始まるまで。■
■20240608追記■
(La Fiesta de)San Benitoの採譜者について、日本盤LP「鐘が鳴る時/エルネスト・カブール」(ポリドールMP2585)のライナーノーツ(早稲田大学のスペイン語の先生だった寿里順平氏による解説・訳詞)で「エドガル・ホフレの採譜」と明記されていました。ただ典拠は不明です(原国盤に書いてあったのか、関係者の来日時にそう聞いたのか…?)。
なお、本ライナーノーツ掲載の同曲の歌詞の対訳の一部が、
con la saya de tundiqui bailando
トゥンディキのサヤのリズムに乗って踊りながら
――となるであろうところ、
con las ayas de tu niquis bailando
泣く子をあやし踊ってさ
と訳しておられ、訳者が「saya」と「tundiqui」というフォルクローレの形式名の専門用語を解しておられず、西歌詞・日訳とも正確でないものと思われます。
おそらく原盤にも歌詞が載っておらず、耳で聴き起こしたのでしょう。
ラテンアメリカに詳しい大学のスペイン語の先生でも、専門用語(「saya」と「tundiqui」というフォルクローレの形式名)や地元の俗語を知らないと正確に訳せないということで、当たり前ではありますが、翻訳は難しいですね。
■20240609追記■
どこの曲なのか?について。
下記の動画の概要欄によれば、アフリカ系住民の多いラパス州ユンガス地方のお祭りの曲のようです。
ベニ州の曲ではなく、聖ベネディクトにちなんだ曲ということですね。
とすると、ユンガス地方で聖ベネディクトを祭るのは、当地の守護聖人ってことなんでしょうが、どういうつながりがあるのでしょうか。分かる時がきたら、追記しますね。