人口のブラックホール現象という言葉をご存知でしょうか。

簡単に言えば、東京をはじめとする大都市が若者を吸いあげ、そこで若者を消費し尽くしていく現象のことを言います。元岩手県知事の増田寛也氏が警鐘を鳴らされたことでご存知の方も多いかもしれません。

日本の中で東京が唯一といっていいほどの経済的なエンジンとなっていることは改めて言うまでもなく、東京が稼ぐ資本が日本全体を支えているといっても決して過言ではありません。そして、なぜ今までここまで東京が発展してきたかというと、理由はどうであれ、東京に若い方々が次々に集まり意欲的に仕事をされてきたからに他なりません。

ここでの問題は、では東京はその若い方々をどこから調達してきたか、です。

持続可能な形で東京が発達し続けるためには、当然ながら若い世代が意欲的に働く状況を続けなければなりませんし、若い労働力を確保するためには、自ら人口の再生産も行っていかなければなりません。

しかし、ご存知の通り、東京の出生率は1.1程度と日本で一番低く、人口を再生産することができておりません。その意味で独立の都市としては全く持続可能な街ではありません。
これをあえて刺激的な表現をすれば、出生率の高い地方都市から若い世代の方々を吸い上げて繁栄する一方で、自らは人口の再生産を行わない利己的な街、それが東京ということができるでしょう。

もちろん地方が十分に若者を供給する余力があるうちは、このシステムでも何とかなりますし、むしろ経済合理性の観点からは育児施設というそれ自体では何らかの利益を生む出すものではない設備に資本を割かないで済む分だけ、この方が都合が良かったのかもしれません。

しかし、地方都市に若者供給能力がなくなった途端、このモデルは崩壊します。東京での経済的繁栄も止まりますし、東京の活力を原動力としてきた日本経済全体も衰退してしまうことに繋がります。
そして、非常に恐ろしいことに、地方都市の若者供給能力が限界を迎えてきています。

先日、国勢調査の結果(速報値)が公表され、1920年の調査開始以来初めて人口減少していることが明らかとなりました。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka.htm
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160226/k10010422431000.html

去年行った国勢調査によれば、日本の人口は1億2711万47人で、前回(5年前)の調査と比べて94万人余り減りました。国勢調査で人口が減少したのは調査開始以来初めてで、総務省は「日本は人口減少の局面に入った」としています。しかも、都道府県別でみると、東京・愛知・埼玉など8つの都県では前回より人口が増加する一方、39の道府県で人口が減少しています。

このことは、東京をはじめとする大都市圏での人口増加を上回るペースで地方の人口減少が進んでいること、もちろん必ずしもイコールではありませんが、東京のブラックホールが若者を吸い上げる力の方が地方都市が若者を供給する力を凌駕してしまっていることを示唆しています。つまり、今までの東京繁栄モデルが目に見えて崩れ始めていることを意味しているのです。

疲弊しつつも日本経済を支える東京のために我慢して若者を供給し続けてくれてきた地方都市。今、その地方都市が消滅するとすら言われて久しいのです。だとするならば、今の豊かな国を今後も栄えさせていくためには、この人口ブラックホール現象を一刻も早く解消しなければなりません。

年金や消費税等、個別の課題は数多ありますし、それらはいずれも極めて重要な問題であることは否定しません。しかし、それらは全て今までの東京繁栄モデルが限界を迎えてきた結果生じたものと言っても決して言い過ぎではないでしょう。

国勢調査の結果が明らかとなり、多くの方が人口減少という現実に向き合うことができた今こそ、私は、今までの東京繁栄モデルを見直し、人口ブラックホール現象というこの国の根本的な課題を国を挙げて解決することに取り組んでいく機運を高めていきたいと考えています。