ISIL(いわゆる「イスラム国」)による人質事件、昨日の早朝、悲劇的な結末を迎えてしまったようです。今回犠牲となられた湯川さん、そして後藤さんには心からの哀悼の意を表するとともに、ご遺族に心からお悔やみを申し上げます。また、ISILの暴挙には強く非難します。

テロリストに対しては決して屈することなく、今後も日本は自ら進むべき道を進まなければなりません。今回テロリストによる残虐非道な脅迫行為に屈せずに本日まで対応を進めた日本政府にはまず感謝を申し上げたいと思います。

さて、今回の人質事件を契機に、国会では様々な議論が進むと思われます。
そのうちの一つが邦人救出活動に自衛隊が出動できるか、という論点です。

既にNHKでも、以下のような報道がなされています。

【邦人救出活動 国会論戦の焦点の1つにも】
「政府・与党としては、イスラム過激派組織『イスラム国』によるとみられる日本人殺害事件も踏まえ、『日本人の救出を外国に頼るわけにはいかないという国民の声がある』として、安全保障法制の一環として、今の国会で、海外での自衛隊による日本人の救出活動の在り方を検討する考えです。」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150202/k10015135311000.html

しかし、ここはぜひ冷静に議論を進めて頂きたいと思います。


確かに、昨年7月の閣議決定には「領域国の同意に基づく邦人救出などの『武力の行使』を伴わない警察的な活動」ができるような法整備を進めるとあります。
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/anpohosei.pdf

今回のような人質事件は、まさに閣議決定にいう「邦人救出」に該当するように見えるかもしれません。

しかしながら、同時に閣議決定自体には、以下の歯止めも掛けられています。

「自衛隊の部隊が、領域国政府の同意に基づき、当該領域国における邦人救出などの『武力の行使』を伴わない警察的な活動を行う場合には、領域国政府の同意が及ぶ範囲、すなわち、その領域において権力が維持されている範囲で活動することは当然であ(り、これは、その範囲においては『国家に準ずる組織』は存在していないということを意味す)る。」

つまり、その国が実効支配していない地域で自衛隊が活動することは、いくらその領土を保有する国の同意が得られたからといって当初から想定されておりませんでした。

今回のISILの人質事件は、まさに国が実効支配していない地域で起きています。とすると、この閣議決定に従うとすると、シリア又はイラクの同意を得たとしても、自衛隊が救出に向かうことはできません。

もちろん、事態の進展に伴い、場合によっては必要な法整備の内容も変わることは当然ですが、その場合はまずもってこの閣議決定の外延を超える議論を行うことになる旨を認識すべきです。


加えて、実体的な議論も行わなければなりません。

果たして今の自衛隊に、まず、今回のような事件において人質を救出する能力があるのかが疑問です。
今の日本の体制では、残念ながら「人質がどこに置かれているか」という救出作戦を遂行する上で最も重要な情報を入手する能力にまず欠けています。
(もっとも、今回のような事案では、どの国でも所在地を把握するのは困難だったと思われます。)

加えて、恐らく人質は敵地の中枢に近い箇所にとどめ置かれていると考えるのが自然です。とすると、相応の武器を携えて敵地深く侵入して、無事に人質を奪還することなどできるでしょうか。

実際、過去にアメリカも、ISIL相手に人質奪還のために特殊部隊を送り込み、そして失敗しています(その数週間後、人質となった方々は殺害されました)。

【米の人質救出作戦失敗、情報不足が命取りに】
http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052970204707704580141371465426064

このような作戦は失敗するときは失敗するものなので、失敗したこと自体をとやかく言っても仕方ありません。

より重要なことは、国家は、人質の命だけでなく、人質救出に向かった特殊部隊の命も守らなければならないということです。

特殊部隊が窮地に陥ったときには、それを救いに向かう相応の部隊も当然必要になってきます。この場合は、部隊間での戦闘行為も覚悟しなければなりません。
先ほどの人質救出作戦の場合でも、「国防総省は隊員や人質への危険を考慮し、通常より多数の隊員を配備した。作戦が失敗したときに介入する大規模な部隊も用意されていた。」とされています。

日本もやるならここまで徹底してやらなければなりませんが、果たして今の日本でここまでできるでしょうか。


もちろん、邦人の命を守るために何が最善か。ここを議論することは大事だと思います。
しかしながら、現実的に分析を進めていくと、必ずしもそのハードルは低くないことも認識をしておくべきです。

今回の人質事件が最悪の結末を迎えてしまった今だからこそ、冷静に考えたいと思います。


前衆議院議員 三谷英弘