今回の『生物の原理への道』は21世紀に入った頃の話です。この時期に、多くの生物の全ゲノム配列が解析されるようになり、それらのデータを用いてSOSUIシステムで膜タンパク質の割合を調べることができました。SOSUIシステムが完成したのが、20世紀末だったので、タイミングが非常によかったと思います。

 

 下図の左側のグラフは、生物の持つ遺伝子数を横軸にし、縦軸に膜タンパク質の割合として、原核生物(2551種)と真核生物(134種)をプロットした時の分布を示したものです。生物の種によらず、膜タンパク質の割合がおよそ1/4になっていることがわかります。言い換えるとゲノム配列には「膜タンパク質割合一定」という保存則があることがわかります。もちろん割合にもバラツキがありますが、分布はかなりシャープな正規分布となっています。

 

 「膜タンパク質割合一定」が生物ゲノムにおける保存則になっていることは、下図の右のグラフからもわかります。このグラフは、ゲノムに含まれるすべてのタンパク質のアミノ酸配列に対して、疎水性インデックスの平均値を計算し、ゲノムの遺伝子数に対してプロットしたものです。原核生物では、疎水性インデックスの平均値は概ね−0.3~0.0であり、真核生物では−0.5~−0.3となっています。つまり、原核生物と真核生物では、疎水性が明確に異なっているにもかからず、その膜タンパク質の割合は一定になっているのです。

 

 

 前回に述べた膜タンパク質予測システムSOSUIのアルゴリズムで分かるように、膜貫通領域は、疎水性アミノ酸と両親媒性アミノ酸のバランスでできています。そして、膜タンパク質が形成される時、原核生物では疎水性アミノ酸が重要であり、真核生物では両親媒性アミノ酸の役割が大きくなっていると考えると理解しやすいのです。そして、生物全体での保存則の一つは、膜タンパク質の割合が一定ということになっているのです。

 

 ただ、これだけでは変異の偶然性と生物の秩序の関係は、まだよくは分かりません。次の段階でゲノム配列全体にランダムな変異をコンピュータ上で導入したら何が起こるか?という進化のシミュレーションをしてみたのですが、その話は次回にしたいと思います。

 

 次回は、「最近のリハビリについて その115(大臀筋のリハビリで歩きは安定化)」です。