季節はずれの肝だめしの様相である。
高市首相の7日の国会答弁で、台湾有事が日本の集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」になり得ると述べたことが波紋を広げている。ご本人も釈明されたように最悪の事態を想定したもので、飽くまで可能性の議論でしかない。そもそも立民・岡田克也氏の、揚げ足を取らんとする執拗な質問が酷いとネットでは話題で、それはその通りなのだが、もとより立民は国益など眼中になく、自民党の足を引っ張る政局を優先してきた。挙句、高市首相の発言撤回を要求する始末である。民主党政権の2010年に、尖閣海域で中国漁船が海上保安庁の艦艇に衝突した事件で拘束した船長を、中国の圧力に屈して解放した故事を思い出す。この場に及んで撤回して、国益を守ることになるとは思えない。
当初はせいぜい駐大阪中国総領事がおよそ立場に相応しくないほど口汚く罵り、本国外交部の報道官や中国政府系メディアが歴史を認識しろと毎度の上から目線の批判を撒き散らす程度だったが、13日夜にエスカレートし、外交部の局長ではなく外務次官が業務時間外に金杉駐中国日本国大使を呼び出して、「極めて危険であり、日中関係の政治的基礎を著しく破壊し、14億の中国人民は絶対に許さない」などと厳重抗議した。恐らく日中首脳会談で高市首相に押し込まれた習近平国家主席を忖度しているのだろう。
14億の中国人とは笑わせる。中国人を余りにも馬鹿にしている。中国では選挙が行われず、中国政治は人民の信託を受けていない。ばらばらの砂粒のように自由で纏まりのない人民(とは、私ではなく孫文が言った)を中国共産党が「領導」すると豪語する国柄で、今年は「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年」と銘打って、日本による侵略行為を国内外に宣伝する一大キャンペーンを張って来た。しかし、731部隊を扱った映画「731」は、滑り出しこそ絶好調だったが、時代考証やストーリーが支離滅裂だとズッコケた。いつまでも「反日」「抗日」で人民のガス抜きをする手法が通用するとは思えない。実態は、宣伝工作に応じて小銭を稼ぐ「反日」を装う若者たちと、6億とも言われる監視カメラやネット監視を恐れて順応する振りをする大衆がいるだけだろう(と、強がってはみるものの、素朴に宣伝を信じる人は、今なおネットではなくTVを見るような地方に多いだろう)。
日本も遅まきながら、翌日、総領事ではなく中国大使を呼びつけて、厳重抗議を行った。するとその日の夜に、中国外務省は中国人に対して、「在日中国人の安全に重大なリスク」が生じているとして日本への渡航を控えるよう注意喚起を行った。2016年に韓国がTHAAD導入を決定したことに対して、中国が中国人に韓国観光を自粛させ、韓国製品不買をけしかけた故事を思い出す。
ところで、トランプ大統領は10日、米FOXニュースのインタビューで本件について問われて、中国批判を避けたらしい。サナエとドナルドの蜜月はどうした⁉と訝ったが(笑)、中国を刺激するときではないと判断したのだろう。台湾政策に関して、トランプ政権はバイデン前政権に比べて明らかに抑制的である。8月に頼清徳総統が中南米を歴訪する際にニューヨークへの立ち寄りを認めなかった。台湾への武器売却も認めて来なかった・・・はずだが、13日、F16戦闘機やC130輸送機の修理部品など3億3千万ドル(約500億円)相当の台湾への武器売却を承認したと、しれっと発表した。第二次トランプ政権発足後、台湾に対して武器売却するのは初めてである。タイミングから判断すると、中国の渡航自粛の発表は、このアメリカの動きを受けたものでもあるようだ。
アメリカのトランプ大統領にしても、中国の習近平国家主席にしても、ヨーロッパ的な外交がそのまま通用するわけではない。お互いに反発し合ってエスカレーション・ラダーを上げるのではなく、トランプ政権に倣って、直接関係しないところで、しれっと、しかし粛々と法に則った対応を取ればよいのではないだろうか。
折しも、日経・春秋は14日付で、「日本人はYMOでできている」と書いた。大衆社会論や市場戦略の専門家にそんな見方があるのだそうだ。ヤンキー、ミーハー、オタクの頭文字をつなぐ略語で、ヤンキーと言っても、「起点は不良少年だが今や反抗色は薄く、身近な仲間、地元、伝統、男/女らしさを重んじ、共感獲得力が高く、理屈より根性と気合と絆で壁を突破する」タイプの意だという。「オタクを自認した前首相にかわり登板した現首相も大舞台での肝の据わり方、親近感ある振る舞いの端に出る凄みに、ヤンキー色が漂う」「秀才、マブダチ(親友)、妹分、少し頼りない男の子らを率いた新内閣の記念写真はどこか漫画の主人公を連想させた」とまで書いた。「妹分、少し頼りない男の子らを率いた」といった当たりはまさにその通りで、片山さつきさんや小野田紀美さんの人選は良かった。そうは言っても、日本経済の中国との関係を重んじる日経・春秋は、「ただし威勢のいい発言は、特に外交の分野では自らを傷つけることがある。硬いだけの刀は折れやすいそうだ。やや心配になる。」とコラムを締めたが、私たち庶民は、「1億2千万人の日本国民は絶対に許さない」(と頑張ってみても、買収されたりハニートラップにかかって脅迫されたりするメディアや政治家は尽きないし、日中友好xx会の名のもとに牽制される日本人も多いのだが)として、高市首相を守りたい。